Ryzen Threadripperが2017年8月10日に発売されましたが、それに先立つ2017年春に発売されていたRyzenとIntel Coreの比較では、Ryzen 7,Ryzen 5についてはIntel Coreに負けてしまいました。
Ryzen 7 1800XにはIntel Core i7を出すまでもなく、Core i5ですら勝利し、Ryzen 5もCore i3にすら負けてしまうという全敗結果でした。
しかも7700K以下のIntel Coreはオンボードグラフィックスを積んでおり、チップ面積のうち半分近くをグラフィックス用で占有されているということからIntel側にハンディキャップがありました。
一方で、Ryzen 7やRyzen 5はオンボードグラフィックスを搭載しておらず、チップ全面積を汎用コアとキャッシュに使えるというIntel Coreよりも有利な条件だったにもかかわらず、Intel Coreに全面敗北してしまったわけです。
これはIntelの年間研究開発・設備投資額の大きさからくる半導体企業特有の技術的優位性から仕方ないとも言えます。
一方でRyzen 3だけは、4コア同士で比較すると価格ではIntel Coreよりも安いという望ましい結果になっていました。性能ではIntel Coreに勝てませんでしたが価格だけでも比較優位があれば経済的事情を抱える人にとって存在価値があるからです。
Ryzen ThreadripperにおいてもRyzen 3と同様の結果が期待されていましたが、結果的にはIntel Core i7,Core i9に敗北する結果となりました。2017年春に発売された第1世代のRyzen 7やRyzen 5と同じ結果です。
今回はIntel側でもCore i7 7740X以上はオンボードグラフィックスを搭載していないのでIntel側のハンディキャップがありません。Intel HD Graphicsを搭載しないチップ面積を汎用コアとキャッシュに充てることができるため、Intel Coreの汎用プロセッサ処理能力が向上し、Ryzen Threadripperにとってますます不利な結果になることは容易に想像できました。
そして予想通り実際の結果においてもRyzen ThreadripperがIntel Core i7,i9に敗北するという結果になりました。Ryzen Threadripperの発売から一ヶ月近くが経過してベンチマークのサンプル数が揃ってきたので、平均値と分散が十分に統計的に有意と判断できるとみてベンチマーク結果の比較を行いました。
上位版Intel Coreはオンボードグラフィックス用チップがないため、Ryzen 7,5のときよりも圧倒的差が開いてしまったRyzen Threadripper
Ryzen7,5とCore i7,i5の比較はIntel側に不利でした。なぜならIntel Core側はオンボードグラフィックスであるIntel HG GraphicsをCPUチップ上に搭載しており、チップ面積の半分も占めているからです。その分だけ汎用コアやレジスタ、キャッシュに割り当てる半導体回路の面積が減ってしまいます。その一方で、Ryzen7,5にはオンボードグラフィックスが搭載されておらず、CPU上のチップ面積のうちすべてを汎用コアとキャッシュのために割り当てることができるため、オンボードグラフィックスを搭載しているIntel Coreのようなハンディキャップがなかったわけです。
Ryzen 7,5,3も本来ならオンボードグラフィックスを搭載すべき価格帯のCPUです。しかしそもそも対Intelで技術的に劣勢にあるAMDがオンボードグラフィックスをCPUチップ上に搭載してしまったら到底Intel Coreに太刀打ちできるCPUは作れません。
そして今回はIntelもオンボードグラフィックスを搭載していないため、オンボードグラフィックスを搭載している7700Kよりも、オンボードグラフィックスを搭載していないIntel Coreは大幅に性能向上することが見込まれており実際その通りになりました。
ますますIntel Core とRyzen Threadripperの性能差が開きRyzen Threadripperの圧倒的敗北になってしまったわけです。
発売2週間で値崩れ(大幅値下げ)にならざるを得なかったのも理解できる それでもまだIntel Coreより2倍程度も高価
2017年8月10日に発売されたRyzen Threadripper。発売から3週間後の2017年8月31日に、一部の販売店から「8月10日から22日の間にThreadripperを購入した方はレシートを持ってご来店ください」とTwitterでアナウンスされました。
あまりにも唐突なアナウンスであり、一体何があったのかと思いましたが、Ryzen Threadripperの急な値下げによる事後対応だということが後にニュースサイトによる報道で明らかになりました。
発売から1年経過しているならまだしも、さすがに発売日からたった2週間で2万円も値崩れしたとなったらAMDとしても何らかの対応をしなければならないということになったのでしょう。
しかし、2万円も値崩れしたとしてもThreadripperは同性能のIntel Coreに比べてまだ2倍も高価です。少なくとも今よりも半額程度にしないと合理的な選択肢にはなりません。
Ryzen Threadripperが性能でIntel Coreに負けるのは仕方ないとして、せめて価格だけでも安くしないと存在価値がない
2017年7月に発売された4コアのRyzen 3は4コアのIntel Coreに性能で負けていましたが、価格ではRyzen 3の方が安くRyzen 3には十分存在価値があります。
このように性能で負けていても価格が安いなら選択肢の一つとして意味を持つのですが、性能でも価格でも両負けしているとなると選択する価値がありません。
理屈的な合理的観点ではなく「一強のIntelは好きになれない」「Ryzenのファンだから」という感情面で支持しない限り選択肢の一つに入らないということです。
Ryzen Threadripper 1950XとIntel Core i7 7820Xの性能が同等なのに、Ryzen Threadripperの価格がここまで高くなってしまったのは、技術的にIntelには一日の長があるためです。Intelと互角の性能を持つCPUを作ろうとすると研究開発費と設備投資額を含めて割高になってしまうわけです。
そのため、AMD Ryzenの取りうる選択肢は3つしかありません。
1.Ryzenの価格がIntel Coreよりも高くなること覚悟で、性能は互角にする
2.性能面ではRyzenがIntel Coreに劣るが、Ryzenの価格だけはIntelより安くする
3.性能でも価格でも負けてもコア数だけは増やし、「1位のIntel」を好まない層を取り込む
このうち今回のRyzen Threadripper 1950Xは「1」と「3」に該当します。Ryzen 3は「1」と「2」に該当します。
性能が低くても価格が安いなら買うという人はいますしそれは合理的な選択です。性能を優先するか価格を優先するかはその人の置かれている経済的事情で決まるからです。しかし、性能でも価格でも負けているとなったら選択する価値はありません。私はRyzenが上記の「1か2」になることを望みますが今のところそれを満たしているのはRyzen 3のみであり、Ryzen 7とRyzen 5は「3」、Threadripperは「1」と「3」になってしまっているのは残念なことです。