おすすめCore i7 9700Kのベンチマーク性能比較レビュー Ryzen 7 3800X, 3700Xに+12%の大差をつけて勝利 Ryzen 7 2700Xを当然上回り、Threadripper 2950Xとは互角

2018年11月2日に発売されたCore i7 9700Kは1世代前のCore i7 8700Kの位置づけを踏襲しています。しかし、ハードウェアが提供する機能観点からは同時発売されたCore i9 9900KがCore i7 8700Kの後継品です。

Core i7 9700Kは8コア8スレッドであり、同時マルチスレッディング(Simultaneous Multithreading, SMT)が無効化されています。同時マルチスレッディングとは、Intelの実装である「ハイパースレッディング」の学術的で実装に依存しない概念です。

第8世代CoffeeLakeのCore i7 8700Kでは同時マルチスレッディングが有効化されており、第7世代KabyLakeのCore i7 7700Kでも、第6世代SkylakeのCore i7 6700Kでも同時マルチスレッディングは有効化されていました。Core i7 9700Kのようなグレード7のプロセッサで同時マルチスレッディングが無効化されているのは異例です。

さらにCore i7 9700Kでは1コアあたりのL3共有キャッシュサイズも削減されています。

結論から言うと、動作させるスレッド数(≒プロセス数)が少ない場合にはCore i7 9700KがCore i9 9900Kを上回ることがあります。同時マルチスレッディングにおいてスレッドを区別するためのオーバーヘッドが減るためです。しかしそれはかなり特殊なケースです。ほとんどの場合においてはCore i9 9900KがCore i7 9700Kよりも優秀です。

そしてCore i7 9700KのカウンターパートであるRyzen 7 2700Xは双方ともに8コアであるため、「コア数が多くスレッドレベル並列処理に強いRyzen」の前提が崩れてしまいました。そのためCore i7 9700KとRyzen 7 2700Xの比較は単純に「1コアあたりの性能」の優劣が全体的な性能に直結します。当然ながら1コアあたりの性能はIntel CoreのほうがAMD Ryzenより優秀なため、どのような用途においてもCore i7 9700KがRyzen 7 2700Xよりも勝ることになりました。

Core i7 9700Kと第3世代Ryzen(2019年~2020年発売)プロセッサを比較

Core i7 9700K vs. Ryzen 7 3800X

2019年7月には第3世代Ryzen 7 3800Xが発売されました。これはRyzen 7 3700Xよりも1グレード上位のCPUです。Core i7 9700Kは2018年発売であり、2019年発売のRyzen 7 3800X相手では不利になると通常は想定されますが、結果は真逆になります。

このように+12%も2018年に発売されたCore i7 9700Kが、2019年に発売されたRyzen 7 3800Xに勝利します。

同じ8コアなのにここまで大差が付いたのは、第3世代RyzenにおいてIPC向上が不十分だったからです。第3世代Ryzenで採用されたZen2マイクロアーキテクチャではキャッシュサイズを増やしましたが、その代わりキャッシュレイテンシが増大したのでそれが不利な要素になっています。また4コアごとにCCXというブロック単位を作り、4コアのCCXごとに共有キャッシュが存在するため、CCXをまたぐスレッドの移動があるとキャッシュミスが発生します。Intel Coreでは8コアで1つの共有キャッシュを有しているためこのような問題が起こりません。Ryzen 7 3800XがCore i7 9700Kに敗北したのは、ひとえにZen2マイクロアーキテクチャが劣っていることに起因します。

Core i7 9700K vs. Ryzen 7 3700X

2018年発売のCore i7 9700Kとよく比較されるのが2019年7月に発売されたRyzen 7 3700Xです。両方とも型番700のグレードなので、型番だけみればカウンターパートです。

しかし実際はCore i7 9700Kに遠く及ばない性能に留まっているのがRyzen 7 3700Xです。

+13%もCore i7 9700KがRyzen 7 3700Xの性能を上回っています。本来カウンターパートであるはずのRyzen 7 3700XをCore i7 9700Kが+13%も上回る結果です。

同じ8コア同士のベンチマーク性能比較でCore i7 9700Kが上回ったということは、単純にIntel Coreの1コアあたりの性能が高いことを意味します。注目すべきはベースクロックは両方とも3.6GHzだということです。クロック周波数が同じでコア数も同じなのにここまで差がついてしまうのは、第3世代RyzenのZen2マイクロアーキテクチャと半導体製造プロセスが劣っていることを意味します。

しかもCore i7 9700Kは内蔵グラフィックスであるIntel UHD Graphicsもチップ上に搭載しています。その内蔵グラフィックスの半導体回路分だけ汎用コアに割り当てるチップ面積が小さくなってしまうにもかかわらず、同じ8コアを実現した上で内蔵グラフィックス機能も持ち合わせているIntel Coreと比較するとAMD Ryzenの技術力はまだまだ未熟である一例です。

Core i7 9700Kと第2世代Ryzen(2018年発売)プロセッサを比較

Core i7 9700K vs. Ryzen 7 2700X

AMD Ryzenのコンセプトは「1コアあたりの性能ではIntel Coreに敵わなくても、コア数を増やしてスレッドレベル並列性の高い用途だけでは勝つ」というものです。1コアあたりの性能でIntelと勝負してもAMDは勝てないため、コア数を増やす戦略を採り「スレッドレベルの並列性が高いアプリケーションで大きく性能を引き出す」のがAMD Ryzenです。

動画エンコードのようにスレッドレベル並列性が高い用途ではRyzenは高い性能を引き出しますが、PUBGのような1コアに高い負担がかかるゲームにおいてはRyzenは弱いです。

このように「スレッドレベル並列性が高い特殊な用途」のような特定の領域ではIntel Coreに勝って存在意義を発揮しようという方向性を採用したものがRyzenでした。

しかしこの方向性を維持するためには「Intel CoreよりもRyzenのほうがコア数が多い」ことを常に達成する必要があります。2017年の第1世代Ryzen 7 1800Xは8コアであり、Core i7 8700Kの6コアやCore i7 7700Kの4コアを上回っていました。そのため「コア数を使い切れるスレッドレベル並列性が高い特殊用途に限ってはRyzenが勝つ」ことをRyzenは達成できていました。

しかしCore i7 9700Kでは8コアになり、2018年発売の第2世代Ryzen 7 2700Xの8コアと並んでしまいました。これによって、「並列性が高い用途ならRyzenが優位」という前提が崩れてしまったわけです。

コア数が並んでしまった以上、アプリケーションにスレッドレベル並列性が多いか少ないかは問題になりません。単純に1コアあたりの性能が高いか低いかが、全体の性能が高いか低いかに直結するからです。全体の性能は以下のような結果となります。

Core i7 9700Kが。これは1コアあたりの性能が+14%優れていることを意味します。1コアあたりの性能が高いことは、PUBGやCoD BO4のようなゲームにおいてはフレームレートを伸ばす上で強みになります。

ただし、価格面で言えばRyzen 7 2700XのほうがCore i7 9700Kよりも安く、Ryzen 7 2700Xのほうが優位です。性能は高いけれども高価なIntel、性能は低いけれども安いAMDという従来からの構図に戻ったのは、Intel CoreとAMD Ryzenのコア数が並んでしまったためです。

Core i7 9700K vs. Ryzen Threadripper 2950X

上述したRyzen 7 2700XはCore i7 9700Kとコア数が同じ8コアであったため、「コア数が多いRyzen」の前提が崩れてしまいRyzenの優位性がなくなってしまいました。

そこでCore i7 9700Kよりもコア数が多い16コアのRyzen Threadripper 2950Xと比較してみます。

しかし、コア数が増えたからといって性能がスケールするとは限らないというマルチコアプロセッシングの経験則がここでも妥当します。

このように+2%だけRyzen Threadripper 2950XがCore i7 9700Kよりも上回っているに過ぎません。ほぼ互角の性能です。なぜコア数が2倍の16コアもあるのにRyzen Threadripper 2950Xの性能が伸びないかというと、16コアも使いこなせる並列性のあるアプリケーションが世の中にほとんど無いからです。”Threadripper”というのは文字通り「スレッドレベル並列性を抽出するプロセッサ」という意味です。スレッドレベル並列性は、1つのアプリケーション内部を並列化する場合は開発者(プログラマ)が明示的に並列化するようにプログラミングしなければなりません。またプロセスには少なくとも1つのスレッドが含まれているため、大量にプロセス(タスク)が動作する用途ならOSが各プロセスをスケジューリングして16コアを使いこなしてくれますが、重いプロセスを同時に16も動作させることは実際的用途でほとんど発生しません。これが16コアのRyzen Threadripper 2950Xの性能が8コアのCore i7 9700Kと互角になってしまっている要因です。

またCore i7 9700KにはRyzen Threadripperに搭載されていない内蔵グラフィクス(iGPU)が搭載されています。内蔵グラフィクスを削ってでもコア数を増やそうとしたのがRyzen Threadripperだからです。内蔵グラフィクスが搭載されているCore i7 9700Kはグラボなしでもマザーボードバックパネルの映像出力端子を使用して4K@60fpsでトリプルディスプレイ表示できます。

Core i7 9700K vs. Ryzen Threadripper 2920X

またこのCore i7 9700Kは同じ2018年発売のRyzen Threadripper 2920Xの性能も上回っています。

このように+3%だけCore i7 9700Kのほうが上です。内蔵グラフィクスを搭載しなければならないハンデがありながらも、内蔵グラフィクス非搭載のRyzen Threadripper 2920X(12コア)に勝ってしまいました。

Core i7 9700Kと第8世代Intel Core(2017年~2018年発売)プロセッサを比較

Core i7 9700K vs. Core i7 8700K

第8世代CoffeeLakeのCore i7 8700Kを既に使用しているのならIntel300シリーズチップセット(Z370,H370,B360,H310)を搭載したマザーボードを使用しているはずです。300シリーズチップセットを搭載したマザーボードはUEFI(BIOS)をアップデートすることで第9世代CoffeeLakeRefreshプロセッサCore i7 9700Kが動作します。

ただし、Core i7 8700Kの後継品は事実上Core i9 9900Kになってしまったため、Core i7 9700KとCore i7 8700Kとの差はさほど大きくありません。

このように+6%だけCore i7 9700KがCore i7 8700Kを上回っている程度です。Core i7 8700Kを現在利用しているユーザがわざわざ買い換える場合、Core i7 9700Kではさほど恩恵はありません。もし買い換えるなら後継品のCore i9 9900Kを選んだほうが後悔がないでしょう。

Core i7 9700KもRyzen 7 2700Xも同じ8コアになり「1コアあたりの性能のIntel、並列処理のRyzen」→「性能が高く高価なIntel、性能が低く安価なAMD」に逆戻り

本来Ryzenは昔からの「性能が高く高価なIntel、性能が低く安価なAMD」といった構図から脱却し、「1コアあたりの性能が高いIntel、並列性が高い用途では性能が高いAMD」といった用途ごとの得意・不得意という構図にもっていくために投入されました。「資金のある人はIntel、無い人はAMD」という構図から脱却し、並列処理用途ではAMDが勝つようにもっていくことで単なる「Intelより安物のAMD」「1位のIntelと2位のAMD」という汚名を払拭したかったからです。

それが今回のCore i7 9700KやCore i9 9900Kの登場により、RyzenとIntel Coreのコア数が並んでしまったため、「1コアあたりの性能が高いIntel、並列性が高い用途でもIntel」といった構図になってしまい、結局昔からの「高価なIntelと安いAMD」といった構図に逆戻りしてしまったわけです。「RyzenはIntel Coreよりコア数だけは多くする」といった部分はRyzenが絶対に譲ってはいけない部分であり存在意義そのものです。今後もコア数が並ぶ状況が続くと、性能はIntel優位で価格はAMD優位といった立ち位置が続いてしまうでしょう。それはつまり「価格が高くても高性能なCPUが欲しい場合はIntel Core、低性能でもいいから価格が安いCPUが欲しい場合にはAMD Ryzen」という立ち位置になってしまうということです。