水冷は機構そのものに面白さがありますが、空冷と比べて低い可用性をよく考慮して採用する必要があります。
水冷CPUクーラーの本質
なぜ空冷ではなく水冷を使うのかその本質を最初に把握しておくことが重要です。
水冷の本質は冷却する対象物(CPU)がある場所と、熱を拡散させる場所を空間的に容易に分離できるところにある
これが水冷の本質です。空冷CPUクーラーの場合はCPUソケットの直上にヒートシンクを設けて、ファンをヒートシンクに設置し、その場で熱を空気中に拡散させることになります。
空冷の第1のデメリットは、CPUソケットの直上にある空間の大きさという制約を受けることです。PCケースごとに設置できるCPUクーラーの高さに制限があります。またCPUクーラーの高さが低くても、横に広がりがあるとグラフィックボードやリアパネルにもぶつかることになります。
一応空冷であっても、銅製のヒートパイプでCPUの熱をケース側面まで運ぶタイプは存在します。しかし銅製のヒートパイプは柔軟に曲げることはできません。CPUソケットの位置やケースまでの距離にピッタリ合うヒートパイプを用意しなければならないので使いまわしが効かないことになります。特にmini itxマザーボードのようにCPUソケットの位置がまちまちなものだと銅製ヒートパイプは不便です。その一方で水冷式なら熱を運ぶ媒体が硬い固体の銅ではなく液体であるためチューブを柔軟に曲げることができ、CPUソケットの位置やケース側面までの距離にある程度の高い自由度があります。
副次的効果1.PCケース選びのときにCPUクーラー高を気にしなくて良い
水冷の本質は冷却の対象となる場所(CPU)と、熱を拡散させる場所(ラジエータ、ヒートシンク)を空間的に隔離することにありました。そのため、CPUの直上にクーラーを設置するスペースは不要であり、大型のラジエータをケースの適当な空きスペースに設置できます。つまりPCケースの空間利用の自由度が上がるわけです。
副次的効果2.ラジエータはケース側面に設置するため、PCケース外の温度の低い空気を常に取り込める
空冷のCPUクーラーの場合、トップフロー型だとCPUにあてた熱気を再びファンが吸い込んでしまい熱気がループするため冷却効率が高くありません。
空冷のサイドフロー型になるとトップフロー型より若干改善されます。ヒートシンクを冷やした後の熱気を再度ファンが吸い込むことが少なくなるからです。サイドフロー型はヒートシンクを冷やした後の熱気をPCケース背面のファンから外に逃しやすいためです。
しかし、サイドフロー型だとしても空冷には決定的な弱点があります。いくらPCケース背面ファンで熱気を出してあげようとしても、ケース内部にたまった温度の高い空気をCPUクーラーのファンが再度吸い込んでしまうことを100%排除することはできないからです。
この点、水冷式CPUクーラーは完全に優れています。
空冷でいうヒートシンクに相当するものは水冷ではラジエータになりますが、ラジエータは通常PCケース側面に固定します。つまりラジエータを通過する空気の温度は室温(ambient temperature)になるわけです。
ラジエータに吸気方向でファンを設置すればそのファンはPCケース外部の空気を常に取り込むことになるため、PC内部がどれだけ熱気で満たされていようが水冷式の場合はCPUを効率よく冷却し続けることができます。
以上の事実を踏まえると、水冷ではPCケース外部から空気を取り込む吸気型の方が、PCケース内部から外に排気するタイプよりも効率よく冷却できるという根拠がわかります。PC内部で熱せられた気体でラジエータを冷やすよりも、PCケース外部の室温で冷やしたほうが効果的だからです。
またエアコンで採用されているヒートポンプのような熱交換を行える装置を使わない限り、室温より低い温度の空気は存在しません。つまり効果的に冷やせてもせいぜい室温まで温度を下げるのが限界ということです。PC内部の温度は最も低くても室温であり、室温を下回ることはありません。ということはPCケース外部から室温の空気を取り込んでラジエータを冷やすことのできる水冷式の方が、PC内部の熱気を再利用してしまう空冷式を上回る冷却能力になることは自明です。
副次的効果3.クーラント(冷却水)の比熱が銅の11倍もあるためCPU温度の急上昇を防ぐバッファとしての特性がある しかし比熱が高いと冷却にも時間がかかる
水冷式CPUクーラーの大きな特徴の一つが「CPUの負荷が急減に上がってもCPU温度が急上昇せずゆっくり上がっていく」ことです。これは理屈面でも正しい事実です。
しかし、CINEBENCHを1周させて簡易水冷CPUクーラーを使用したときの温度上昇が空冷よりも低いことで「水冷は空冷より冷える」と言っている人が多いです。これは実証的にも理論的にも間違っています。
まず水冷式のCPUクーラーは熱の伝搬を冷却水が担っているため比熱が4.217[J/g・K]もあります。
一方で空冷式CPUクーラーで用いられているヒートパイプの銅の比熱は0.379[J/g・K]しかありません。
つまり水冷式CPUクーラーで温度がゆっくり上がっていくのは、冷却水の比熱が大きいために「熱を一時的に預かってくれるバッファ」としての役割があるためです。しかしそのかわり、冷却水のように比熱が大きい物質は冷却するときも時間がかかります。結果的に水冷式CPUクーラーの冷却水は温度上昇もゆっくりだけれども、冷却するときも同じだけ長い時間がかかってしまいます。
その点、銅を使ったヒートパイプでは比熱が小さいので温度上昇も急激だけれども冷やすときも急激に冷えていきます。
よってCPUの実行時間が長いときはゆっくり温度が上昇していく水冷式でも、一瞬で温度が上がっていく空冷式でも、最終的に収束する温度には違いがありません。
最終的に収束する温度を決定するのは「ヒートシンク(ラジエータ)」です。
水冷式の場合は冷却水の比熱が銅より大きいので温度上昇がゆっくりになっていくかわりに冷やすときにも時間がかかってしまいます。冷却水の比熱の大きさに甘えて、ゆっくりとしたCPU温度上昇を最初のうちは享受できても、後々ラジエータからの放熱で冷却水の温度を下げるのが困難になるということで跳ね返ってきます。比熱が大きいということは冷却にも時間がかかることを意味するからです。そのためラジエータからの放熱作業が追いつかないと冷却水の温度はいくらでも上昇していきます。
ここまで来ると「Noctua NH-D15やNH-D15Sが280mm簡易水冷よりも冷える」と海外フォーラムで結論が出ている理由がわかってきます。
その理由はNH-D15やNH-D15Sのヒートシンク体積が、280mm簡易水冷のラジエータよりも大きいためです。
CINEBENCHのように短時間で終わる用途だと冷却水の比熱の大きさで熱を一時的に十分預かれるためCPU温度が大幅上昇することはなくラジエータの性能(体積、断面積)はあまり関係ありません。しかし、ベンチマークではない実際的な用途ではそのような短時間でパソコンの使用が終わることはまずなく、大多数の人はさらに長い時間パソコンを使用します。
長時間運用になってくると冷却水の比熱の大きさをもってしても熱を預かりきれずに冷却水の温度が大きく上昇します。その温度上昇がどこでピークアウトするかというとラジエータの断面積と体積で決まります。
つまりNH-D15のような空冷式CPUクーラーはヒートシンクが十分に大きいのでピークアウトする温度は低くなります。これが「280mm簡易水冷よりNH-D15やNH-D15Sが冷える」と言われている理由です。
海外のフォーラムでは実証面と理論面両面で議論されることが多いので以上のような結論になるのですが、日本国内では比熱等の熱計算の数式を理解できない自作PCユーザーがいるため「水冷が空冷よりも冷える」と言われていることが多いです。
水冷式CPUクーラーの特性は冷却水の比熱が大きいことで「温度が少しずつ上昇していき、冷やすときも少しずつ冷えていく」ことです。「温度が少しずつ上昇していく」段階でCPUの負荷が終わればいいですが、負荷が長引くようだとラジエータからの放熱性能に頼るしかありません。そうなるとヒートシンクサイズの大きい空冷式CPUクーラーに負けてしまうことになります。
技術的に楽しい水冷だが合理性を考えると空冷の方が良い
好きか嫌いかという判断基準だと私は水冷の方が好きです。ポンプと冷却水を使って熱をラジエータまで移動させ、ラジエータに設置されたファンから熱を拡散させるという機構は技術的に面白く、そのような動作をするPCパーツを搭載していると見栄えもいいです。
しかし好き嫌いではなく効用を優先する実利面で合理的に判断するならば、空冷の方に軍配が上がると言えます。
理由は平均故障間隔が空冷の方が長いからです。水冷の方が故障しやすいことを意味します。
平均故障間隔が長い空冷、短い水冷
水冷を採用したことで有名になった歴史的に重要なスパコンであるCrayコンピュータは、意匠としての側面で評価されているフシがあります。つまりデザインです。
しかし、水冷の場合は、1.ポンプ、2.冷却ファンという2つの駆動部品を抱えています。その点、空冷は1.冷却ファンの一つのみです。全体の故障率というのは各駆動部品の稼働率の”積”で効いてくるため、駆動部品が多い水冷は稼働率で不利になります。
さらに水冷では、3.冷却水、4.チューブの経年劣化も考慮しなければなりません。これだけで水冷の稼働率は確率的にかなり下がってしまいます。
実際に、京コンピュータを含めて世界中のスパコンは空冷です。メンテナンスコストがかかりデリケートな水冷はとても使えません。ただ本当に最先端の研究では、絶縁性を持つ冷却水にコンピュータをCPUごと水に沈めてしまって冷却するという試みがあります。これが成功すれば現在の空冷よりも低コスト・低故障率になりますが、一般家庭でできるようになるかというとかなり難しいです。
ラジエータサイズを大きくできるなら冷却効果が高い水冷
水冷の冷却効果が高い理由は巨大なヒートシンク(ラジエータ)を設置できることです。空冷だとCPUクーラー高を高く見積もって16cmとしても、高さ12cm×奥行14cm×横幅15cmのヒートシンクが限界です。
しかし水冷だとラジエータのサイズを縦36cm×幅12cm×厚さ7cmまで大きくすることも可能です。36cmのラジエータであっても厚さ2.7cm程度だと、巨大なヒートシンクの空冷式CPUクーラーより体積が小さいです。しかし36cmラジエータで厚さ7cmにすると空冷式CPUクーラーのヒートシンク体積を上回ります。
もしこれらの空冷式や水冷式のCPUクーラーをPCケース内に搭載せず、ベンチ台のように開放型で使うという前提なら、{空冷式のヒートシンク体積=水冷式のラジエータ体積}ならば冷却性能はほぼ同じです。もう少し詳しく言うと、ヒートシンクやラジエータの体積を一定として「断面積を増やして厚みを減らす」のと「断面積を減らして厚さを増やす」では前者のほうが冷却性能で有利なので、体積の一致イコール冷却性能の一致ではないのですがそこまで大きな差にはなりません。
このように、開放型で使う前提なら空冷式のヒートシンク体積と水冷式のラジエータ体積でだいたいの冷却性能が決まるのですがPCケースに搭載するとなると事情が異なります。普通はPCケースに搭載するのでこの部分が重要です。
水冷の冷却効果の高さを決定付けるのが室温の外気を直接ラジエータに当てることができる点です。空冷だとヒートシンクから逃げた熱を再度ファンが吸い込んでヒートシンクに再び当ててしまうという”熱気のループ”が発生します。
水冷だとPCケースから取り込んだ室温の空気をラジエータに直接当てることができ、ラジエータで温められた空気を再度吸い込むようなことは発生しません。このようなことから空冷式のヒートシンク体積と水冷式のラジエータ体積が同じならば、水冷式のほうが冷却効果が高いです。
ただし、その差を埋めるほど空冷式のヒートシンクが水冷式のラジエータよりも大きくなってしまうと、水冷式であっても空冷式の冷却性能に勝てないことが起こってしまうのは「副次的効果3」で前述した通りです。
12cmファン×3 ラジータ長360mmタイプ
12cmファンを3基搭載したタイプは、14cmファン2基搭載のタイプよりも冷却効果が高いです。
まず12cmファン×3のタイプでは、ラジエータの断面積が36cm×12cm=432平方センチメートルもあります。
14cmファン×2のタイプでは、ラジエータの断面積は28cm×14cm=392平方センチメートルです。
ラジエータは「同じ厚みなら断面積が大きければ大きいほど有利」であり、同時に「同じ体積なら断面積が大きければ大きいほど有利」が成立します。
では体積が同じで「厚いけど面積が小さいラジエータ」と「薄いけど面積が大きいラジエータ」だとどちらが有利でしょうか。
正解は後者です。両方ともラジエータの体積やフィンの表面積といった点では同じです。
しかし厚みがある280mmラジエータと、薄い360mmラジエータの体積が同じだった場合、より有利なのは後者です。
厚いラジエータでは薄いラジエータと比較して「より温まった気体」がラジエータを通過してしまいます。室温の気体がラジエータを通過する前半部分はいいのですが後半部分になると次第に気体の温度が上昇してしまっているため冷却で不利になってしまいます。
また、12cmファン×3のタイプではラジエータの横幅が36cmもあり長いため、冷却液がラジエータを通過するときに、冷却液がラジエータに滞在する時間が長くなります。そのため、冷却液がCPUからもらってきた熱をラジエータに受け渡す時間が長くなるため冷却で有利です。
しかもラジエータでは片側から36cmを移動して往路でも36cmを移動して戻ってきます。長さが長くなればなるほどその2倍も冷却水の移動距離を稼げます。
ファンの風量の観点からも12cmファン×3のタイプは有利です。
Corsairの12cmファンでは70.60CFM(1分間に一辺が30cmの空気が70.69個分ファンを通過する)の能力があるため、12cmファン×3タイプの水冷だと70.69CFM×3=212.07CFMの風量があります。
Corsairの14cmファンでは104.64CFMの能力があるため、14cm×2タイプの水冷だと104.64×2=209.28CFMの風量があります。これは先程の「断面積が大きいほど有利」といった性質とも符合します。
ラジエータに送りつける風量という観点でも12cm×3の方が有利です。
デメリットは全長36cmという大きさです。PCケースのスペースの有効活用が難しくなることです。冷却性能よりも省スペース性を重視するなら14cm幅で全長28cmmの280mmラジエータタイプがおすすめです。
1位 Corsair(Asetek製ポンプ採用)
・Corsair H150i PRO RGB CW-9060031-WW
2018年1月発売。Asetek製第6世代(Gen6)ポンプ採用。Corsair初の3連ファン搭載水冷式CPUクーラーです。付属ファン1つの最大ノイズは25dBAです。PWM対応なので通常時のノイズは小さいですが、12cmファンなので14cmファン20dBAに比べたらうるさくなります。14cmファン×2タイプの方が省スペースになります。
2位 Corsair(CoolIt製ポンプ採用)
CoolIt製ポンプを採用したCorsair製品はAmazonで初期不良報告が非常に多いため2位にしてあります。ただし、2020年に発売された新世代のCoolIt製ポンプがAsetek製Gen6ポンプより高品質だと評価されば場合、1位に昇格する可能性はあります。
・Corsair iCUE H150i RGB PRO XT CW-9060045-WW
2020年2月発売(米国では1月発売)。2018年にCoolIt製ポンプを採用したCorsair RGB Platinumシリーズが発売されていましたが、それの次期モデルに相当するものです。厳密に言えば、RGB PlatinumシリーズはH115iまでの設定だったので、H150i相当の2018年CoolIt製ポンプモデルは存在しませんでした。このRGB PRO XTシリーズは、Corsairが公式に「Asetek Gen6ポンプを採用したRGB PROシリーズ(2018年発売)よりも高品質」と表明しています。Corsairは2016年から3年程度Asetekにポンプを独占供給させていましたが、最近はAsetekとCoolItを競争させる方針を採用しています。Asetek Gen6ポンプを採用したH150i RGB PROは既に生産中止で品薄のため、Corsair製360mm簡易水冷を手に入れるなら、2020年現在ではこの製品が現実的選択肢になっています。
3位 Thermaltake
・Water 3.0 Riing Edition CL-W108-PL12SW-A
2016年4月発売。
14cmファン×2 ラジータ長280mmタイプ
12cmファン×3タイプよりもこちらの方がオーソドックスです。28cmスペースなら対応しているPCケースがそこそこある上に、14cmファン×2の風量は209.28CFMであり、12cmファン×3の風量である212.07CFMと互角です。
ラジエータの面積でも12cmファン×3のタイプは432平方センチメートルで、14cmファン×2のタイプは392平方センチメートルであることをみても結構互角です。
しかし冷却水はヒートパイプの銅を伝搬する熱の速さと比べたらかなりゆっくり移動するので、冷却水が移動する方向のラジエータの長さが長ければ長いほどラジエータに冷却水が滞在する時間が長くなり、より強力に冷却水からラジエータまで熱を奪えます。その点は36cmタイプが圧倒的に優位です。銅のヒートパイプ+アルミフィンだと熱が一瞬で伝搬するのでヒートシンクの表面積や体積が同じなら冷却性能は同じなのですが、水冷の場合は熱移動の媒体が移動の遅い冷却水なので冷却水がより長い時間ラジエータに滞在できるような寸法のとり方のほうが冷えます。
それならばスペース利用効率が高い14cmファン×2の方がいいのではないかということで、最近は14cmファン×2の方が12cmファン×3よりも主流です。
1位 Corsair(Asetek製ポンプ採用)
・H115i PRO RGB CW-9060032-WW
2018年1月発売。Asetek製第6世代(Gen6)ポンプ採用。付属の14cmファンは最大20.4dBAです。空冷では15dbAのCPUクーラーもありますし決して超静音とは言えませんが、水冷の中ではかなり静音な部類です。12cmファン×3のタイプよりもこちらの14cmファン×2のモデルの方が静音化できています。
・H115i CW-9060027-WW
2016年4月発売。Asetek製第5世代(Gen5)ポンプを採用した280mmラジエータの簡易水冷CPUクーラーです。
付属ファンの性能は最大回転数が2,000rpm、最大ノイズ40デシベル、最大風量104.65CFMであり、2015年発売のH110iよりもファンは静音化されていますがNoctua製に換装することをおすすめします。5年保証。
・H110i GTX CW-9060020-WW
2015年8月発売。Asetek製第4世代ポンプを採用した280mmラジエータの簡易水冷。
非常に紛らわしいのですが2015年5月に発売された「H110i GT」はCoolIt製のポンプを採用し、2015年8月に発売された「H110i GTX」はAsetek製のポンプを採用しています。その違いが型番の違いに現れています。
この頃からCorsairはCoolIt製のポンプを採用した水冷のみならず、Asetek製のポンプを採用した水冷も平行してラインナップするようになりました。理由はちょうどこの2015年頃にAsetekとCoolItの簡易水冷ポンプ特許権を巡る訴訟が事実上のCoolIt側の敗訴となり和解に至り決着したためです。
Corsair製の簡易水冷を買うならこのAsetek製ポンプを採用したものがおすすめです。
2位 Thermaltake
・Water 3.0 Riing Edition CL-W138-PL14SW-A
2017年5月発売。
3位 Corsair(CoolIt製ポンプ採用)
・H115i RGB PLATINUM CW-9060038-WW
2018年12月発売。久々にCorsairに採用されたCoolIt製ポンプを搭載した製品。この製品がでるまで約3年間、Corsairの簡易水冷はAsetek製ポンプのみでしたが、2016年以前のようにCoolIt製ポンプを採用した製品が再び登場しました。しかし、このRGB PlatinumシリーズのポンプはAsetek製第6世代ポンプより劣っているとのもっぱらの評判なので、この製品の購入は見送ったほうがいいでしょう。2020年にはこの次の世代のCoolIt製ポンプを採用した簡易水冷「RGB Pro XTシリーズ」がCorsairから発売されているのでそちらのほうがいいです。
・H110i CW-9060026-WW
2016年4月発売。「CORSAIR Hydro Series H110i 280mm Extreme Performance Liquid CPU Cooler 」として売られているものです。
・H110i GT CW-9060019-WW
2015年5月発売。14cmファン×2タイプの2015年版ですが、今買うならより新しいものをおすすめします。新しいモデルのほうがファンが静音化されています。
このモデルの14cmファンは最大回転数2,100回転毎分、最大ノイズ43デシベル、最大風量113CFMです。ファン1つでこれなので、このファンが2つラジエータに搭載されます。
2016年発売のH115iではファンの最大回転数が2,000rpm、最大ノイズ40デシベル、最大風量104.65CFMであり、2016年発売のH115iでは風量が若干落ちていますが、静音タイプの2016年モデルの方がおすすめです。5年保証です。
12cmファン×2 ラジータ長240mmタイプ
1位 Corsair(Asetek製ポンプ採用)
・H100i PRO RGB CW-9060033-WW
2018年7月発売。Asetek製第6世代(Gen6)ポンプ採用。
・H100i V2 CW-9060025-WW
2016年4月発売。Asetek製第5世代(Gen5)ポンプ採用。
このモデルに搭載されているファンは最大回転数2,435回転毎分(rpm)、最大ノイズ37.7デシベル、最大風量70.69CFM(1分間に送り出す一辺30cmの空気の数)であり、このファンは12cmファン×1タイプのH80i V2に搭載されているものと同じです。ただし、ファンはNoctua製に換装することをおすすめします。同じ冷却能力を提供する場合、こちらのモデルではファンの回転数を下げることができるため静音化できます。静音化を優先するのならH80i V2よりも、H100i V2の方がおすすめです。5年保証です。
・H100i GTX CW-9060021-WW
2015年5月発売。Asetek製ポンプを採用したCorsair240mm簡易水冷としては最初の製品になります。第4世代(Gen4)のAsetek製ポンプ搭載です。
2位 Corsair(CoolIt製ポンプ採用)
・H100i RGB PLATINUM CW-9060039-WW
2018年12月発売。2013年頃を最後にCoolIt製のポンプを使った水冷式CPUクーラーがCorsairから出ていなかったのですが久々にCoolIt製ポンプを採用した水冷式CPUクーラーが発売されました。しかし液漏れ等の不具合報告、初期不良報告多数です。2018年に発売されたCoolIt製ポンプ採用の簡易水冷は軒並み初期不良率が高いようです。RGBに問題はなくても肝心の水冷部分に不具合があったら意味がないのでAsetek製のポンプを採用した240mm簡易水冷をおすすめします。
・・H100i RGB PLATINUM SE CW-9060042-WW
2019年7発売。上記H100i RGB PLATINUMのホワイト色版です。下記モデル「H100i RGB PLATINUM SE CW-9060041-WW」が液漏れの不具合でリコール実施となったため、改良品として後日発売されたのがこのモデルです
・・H100i RGB PLATINUM SE CW-9060041-WW
2019年2月発売。「H100i RGB PLATINUM CW-9060039-WW」のホワイト色版として発売されたものの、液漏れの報告多数のため2019年3月にCorsairがリコールをかけました。同時に「H100i RGB PLATINUM SE CW-9060041-WW」は販売中止され、不具合を解消したものを後日「H100i RGB PLATINUM SE CW-9060042-WW」として型番変更し発売しました。
・H100i CW-9060009-WW
2012年発売。Corsairの240mm簡易水冷としては2番目の製品。
・Corsair CWCH100 HydroSeriesH100
2011年発売。Corsairが提供する240mm簡易水冷としては最初の製品。この頃のCorsairはCoolIt製ポンプを主に採用していました。
14cmファン×1 ラジータ長140mmタイプ
14cmファンを搭載した水冷式ラジエータが搭載できるPCケースを使うこと前提なら、12cmファン×1の水冷式よりも14cmファン×1の水冷式の方がいいと思います。
なぜなら14cmファンの方が静音化できるからです。
ただ残念なことは最近どのメーカーも14cmファン×1のタイプは製造しなくなってきています。14cm×1のタイプは入手困難になりつつあります。Corsair製も2013年を最後に新しいモデルが出ていません。現在は12cm×1か、12cm×2、14cm×2が主流です。
1位 Corsair
・H90 CW-9060013-WW
2013年3月発売。
12cmファン×1 ラジータ長120mmタイプ
1辺が30cmない小型ケースでおすすめできるラジエータ長が120mmです。240mmのラジエータ対応だとどうしてもPCケースが大型になるためです。
Mini ITXケースとなると14cmファンを取り付けるだけのスペースを用意しているものは少ないので、12cmファンの水冷式の方が使い回しが効きます。
120mmラジエータの欠点は、一瞬のCPU不可上昇ならCPU温度の急激な上昇を抑えることができますが長時間負荷がかかるようだと、クーラー高110mmのNH-D9Lのような空冷式CPUクーラーとピークアウト温度は同じです。
水冷式でもラジエータファン1基で十分です。ただし、ロバストにするという点からするとラジエータを挟み込む形で2基のファンを搭載しておいたほうが安心です。片方のファンが故障で停止しても、もう片方が動いていれば冷却能力は維持されるからです。その分だけ厚さが増すため、ラジエータの厚さ27mm+ファン1つの厚さ25mm×2=10cmほどのスペースが必要になってしまいますが、CPUクーラーのヒートシンクに比べたらコンパクトです。
1位 Corsair(Asetek製ポンプ採用)
・H75 2018 CW-9060035-WW
2018年発売。Asetek製第6世代(Gen6)ポンプ採用。付属ファンは2基でラジエータを挟み込むタイプ。各自で短いネジを用意すればファン×1で使用可能。
注意すべきは同時期に発売されたH60 2018はCoolIt製ポンプ採用であるため、H75 2018とH60 2018の違いは単にデュアルファンかシングルファンかの違いだけではないので注意。たとえファン×1で使うとしてもAsetek製のH75 2018を購入してファン×1にするための短いネジを別途用意して使うことをおすすめします。
・H80i V2 CW-9060024-WW
2016年4月発売。ウォーターブロックにLEDが付いていて光らせることができるようですがそれは全く不要だと思っています。
付属ファンは12cmファンなので14cmファンよりも回転数は高めであり2,435回転毎分(rpm)もあります。ファンノイズは最大で37.7デシベルあります。ファンのノイズは回転数が増えるほど大きくなってしまうので、低速回転をするファン2つのほうが静かです。よって同じ12cmファンであっても、1基で最大回転するよりも2基でほどほどに回転させたほうが、ファンからラジエータに送りつける風量を同じにしながら静音化できます。よって静音化を優先するならファンが複数ついたモデルのほうがいいです。
この付属12cmファンが送り込むことのできる風量は最大で70.69立方フィート毎分(CFM)です。1辺が30cmの立方体の空気を1分間で70.69個、ファンが送り込むことができる分量です。5年保証。
・H80i GT CW-9060017-WW
2015年5月発売。Asetek製ポンプを採用したCorsair120mm簡易水冷では最初の製品です。Asetek製ポンプを大きく普及させることに貢献したことで有名なGen4ポンプが使われています。
2位 Corsair(CoolIt製ポンプ採用)
・H60(2018) CW-9060036-WW
2018年発売。CoolIt製ポンプ採用。同時期に発売されたH75 2018はAsetek製ポンプ採用であり、CoolIt製ポンプを採用したH60 2018と大きく異なります。よってファン×1で使用する場合は、このH60 2018を購入するよりもH75 2018を購入して短いネジだけ別途購入すれば問題ありません。
・H60 CW-9060007-WW
2013年発売。ラジエータが最新タイプの製品に比べて薄型であるため、これに厚さ15mmの薄型ファンを取り付ければかなり省スペースな水冷クーラーが出来上がります。小型ケースに入れやすいという点から今でも一定の支持がある型番です。
・H80i CW-9060008-WW
2012年発売。後継品のH60よりもラジエータが非常に厚いのが特徴。
92mmファン×1 ラジエータ長92mmタイプ
ドイツDan社のDan Cases A4-SFXが流行したことにより急に需要が伸びたラジエータ長92mmの簡易水冷クーラーです。
Dan Cases A4-SFXで120mm簡易水冷を使うには、「1.GPU長さを170mmにする」または「2. HDPLEX社のACアダプタ電源を使う」のどちらかを選択しなければなりません。つまりGPUのスペックか電源のスペックを犠牲にしなければ120mm簡易水冷を選択できないのがDan Cases A4-SFXです。
そこで92mm簡易水冷をボトムに搭載するのが一般的になっています。しかしこれも「120mmラジエータ水冷ではなく92mm水冷を使う」という点では妥協になります。ただDan Cases A4-SFXでは空冷のCPUクーラー高がたった48mmしかなくBig Shuriken2すら取り付けることのできないクリアランスの悪さです。そのためクーラー高制限48mmの空冷を使うくらいならたとえ92mm簡易水冷であっても冷却性能が大幅に改善されるということで選択者が多いです。
1位 Asetek
Asetek社はCorsairやEVGA等に簡易水冷用ポンプを供給しているメーカーで、出回っているほとんどの簡易水冷CPUクーラーはこのAsetek社のOEM生産品です。
・Asetek 645LT
92mmラジエータを採用したほぼ唯一の簡易水冷CPUクーラー。完全に独壇場です。Dan Cases A4-SFXが登場するまでこの92mm帯を使うユーザーがほとんど存在せずAsetek社も細々と展開しているのみだったのですが、Dan Casesの大流行によって供給量が増やされたCPUクーラーです。
これまでは海外から個人輸入するかAmazonで転売屋の非常に高値のものを選ぶしかありませんでしたが、オリオスペックが取扱を開始してくれたのでそこで購入するのがサポートも受けられるしということでおすすめです。
簡易水冷CPUクーラーは競争が働かないため進歩が遅い
本格水冷ではウォーターブロックとポンプは別々のコンポーネントになっています。しかし簡易水冷CPUクーラーではウォーターブロックの内部にポンプを内蔵しています。
簡易水冷のポンプで特許権を持つAsetek
まず巷で呼ばれているいわゆる「特許」は正確には特許権と呼びます。そして特許権は先願主義であり、最初に発明したかどうかではなく最初に出願したかどうかが重要です。
そして簡易水冷において特許権で強いのはAsetekです。
この「ウォーターブロックの内部にポンプを内蔵」を最初に実現したのがAsetekであり、Asetekはこの新規性で特許権を米国で取得し保有しています。CoolItやCoolerMasterもこのウォーターブロックの内部にポンプを内蔵する手法で簡易水冷に参入しました。簡易水冷用のポンプを製造しているメーカーは他にもAlphacoolやDeepcool等いくつかあるのですが、Asetek、CoolIt、CoolerMasterの3社で簡易水冷のシェア9割を握っていると言われています。Corsair、NZXT、Thermaltakeといった簡易水冷CPUクーラーを提供しているメーカーもAsetekから簡易水冷用のポンプの供給を受けています。
Asetekに訴えられ敗訴となったCoolItとCoolerMaster CoolItはAsetekの軍門に下る
簡易水冷で強いのはAsetekであり、CoolItとCoolerMasterはAsetekに知的財産権違反を訴えられ2015年にCoolerMasterが敗訴しています。CoolItについてはライセンス料をAsetekに支払う形で和解して(事実上のCoolItの敗訴)、2015年6月にはAsetekがCoolItに勝ったことをAsetek公式サイトで宣言しています。そしてCoolItはライセンス料をAsetek社に支払うことで現在でも米国市場でCoolIt製ポンプを採用した簡易水冷を販売しています。
CoolerMasterはAsetekの特許請求の範囲を回避する独自技術を開発し、Asetek社にライセンス料を支払っていない
しかしCoolerMasterはAsetekに賠償金こそ支払ったものの、CoolerMasterは米国ではなくハーグで「Asetekが保有する特権権には新規性がなく無効」を訴えそれが認められました。そこで米国市場以外ではCoolerMasterは簡易水冷の販売を続けていました。その後、Asetek社の特許権の及ぶ範囲を回避するように設計したMasterLiquidシリーズを2016年にCoolerMasterが開発し、それ以降は米国市場でもCoolerMaster製のポンプを採用した簡易水冷が売られています。
結果的にCoolerMasterは現在でもAsetekにライセンス料を支払っておらず、CoolerMasterはAsetekに対し全面的に挑むほぼ唯一の簡易水冷メーカーになっています。
CoolerMasterはライセンス料を支払っていないため価格に占める材料費・労務費・経費が適切
ライセンス料を支払うということは全く同じ品質ものを作ろうとしたらAsetek社の製品より割高になってしまい市場競争で不利になります。その上、Asetek製と同じ価格を実現しようとしてもライセンス料がある分だけライセンス料以外の部分の製造原価を削らなくてはならないためAsetek製よりも品質が劣ることになります。こういった経緯で簡易水冷においては競争がほぼ働いていません。Asetek製第6世代(Gen6)ポンプになっても静音性は微妙・故障率が高いといった水準に留まっているのはこういった理由があります。
それでもAsetek製の品質は他のメーカーと比べても上で一日の長があるため、良い簡易水冷CPUクーラーを手に入れようとしたらAsetek製ウォーターブロックを採用した簡易水冷CPUクーラーを使うのが正しい判断になります。次点でCoolerMasterです。
CoolerMasterがAsetekの特許権を回避(特許請求の範囲を回避)した仕組み
ここではCoolerMasterがどのようにしてAsetekの特許請求の範囲を回避したのかを解説します。
まず事前知識として、特許権を取得するには出願が必要です。そして出願時には「特許請求の範囲」を記載します。その発明の何が新規性なのか、そしてその新規性の範囲を明確にしておかなければなりません。仮に出願が通って特許権を取得できても、その「特許請求の範囲」の範囲内でしか特許権を主張できないのです。
Asetek社の特許権は「ウォーターブロックにポンプを内蔵したこと」が新規性
一般的な水冷はポンプとウォーターブロック(ヘッドとも呼ぶ)が分離され別々のパーツになっていますが、簡易水冷ではウォーターブロックの中にポンプがあります。
実はこの仕組を最初に実現し特許権を取得したのがAsetekです。
そしてAsetekの特許請求の範囲をさらに詳細にみてみると以下のことがわかります。まずウォーターブロックの中にはコールドプレートと呼ばれるCPUと密着するプレートがあります。このコールドプレートを液体で冷やすことで間接的にCPUを冷やしています。Asetekの特許権では、このコールドプレートとポンプが一室(同じ空間)に搭載されていることが特許請求の範囲に明記されています。
つまり、この特許請求の範囲を回避すればAsetekの特許権を侵害しなくなり、Asetek社にライセンス料を支払わなくとも簡易水冷CPUクーラーを売ることができます。
CoolerMaster社はポンプとコールドプレートの「室」を分離しDual-Chamber構成とした
そこに目をつけたのがCoolerMasterです。CoolerMasterでは以下のように、ラジエータから熱を奪われた後の冷却液をまずはポンプ室に送り込み、その次にポンプ室とは分離されたコールドプレート室に冷却液を送り込むという二段階構成にしました。
ウォーターブロックの中にポンプとコールドプレートを搭載するという点ではAsetekと同じです。しかしCoolerMasterではポンプとコールドプレートを別室構成とし、空間的に分離された構造にしました。
しかしこのように回りくどいことをやると「CoolerMaster社は我が社(Asetek)の特許権を意図的に回避するためにわざわざこのような複雑な構造を採用した。なぜならこのような構造にする合理的な理由が無いから」と主張され裁判で不利になる蓋然性が高くなります。そこでCoolerMasterはうまい理由を作り上げました。
CoolerMaster社の言い分は「冷却液を最初にポンプ室に送り込むことでポンプの冷却効率を向上させ故障率を下げ可用性向上に貢献する」
法令の分野でも本音と建前があります。状況から見てどうみてもグレーでも、それを客観的証拠で立証できない限りはシロとなります。
CoolerMaster社は「我々がポンプを分離したのはポンプを優先的に冷却するため」「冷却液を最初にポンプ室に入れることでポンプを冷やすことができ故障率が下がる。よって可用性が向上する」と主張しました。これは非常にうまい説明でした。
もしAsetekが「そんなの後付けの理由だ」と悪あがきをしても、Asetekにはそれを立証することができません。つまり客観性のある証拠で論理的に立証をし合う法定の場ではAsetekの言い分は単なる言いがかりになってしまいます。この時点でAsetekは負けです。
結果的にAsetekはこのCoolerMasterの主張に反証することができず、AsetekはCoolerMaster社の特許権侵害を主張できませんでした。