2020年1月に販売開始されたAMD Radeon RX 5600 XTは、2019年7月に発売されたRadeon RX 5700の一つ下位のグレードに位置するGPUです。
上位版のRadeon RX 5700,5700XTは、歩留まりの問題からオリジナルファンモデルを2019年7月に投入できず、とりあえずリファレンスモデルが先に2019年7月に突貫で投入され、オリジナルファンモデルは2019年9月から順次発売されました。
それと比較すると、このRadeon RX 5600 XTは発売当初からオリジナルファンモデルが大量に投入されています。つまり2019年末頃にようやく歩留まりの問題が落ち着き、焦って前倒し販売をする必要がないところまで到達したことになります。
このRadeon RX 5600 XTにおいて、NVIDIA GeForceでいうところのCUDA Coreに相当するStream Processorの数は2,304コアです。これはRadeon RX 5700の2,304コアと全く同じ数です。
これはRadeon RX 5600 XTにおいて使われているチップがRadeon RX 5700と同じ「Navi 10」であり、有効化されているCompute Unit(NVIDIAでいうところのStreaming Multiprocessor)の数も同じ36基であるためです。
上図はNavi10の最大40CUのうち2ブロック分(4CU)を無効化し36CUにしたチップのブロック図です。このブロック図を実際に半導体回路に落とし込んだチップは以下のようになります。
コア数が同じである一方で、クロック周波数は両GPUの間で若干異なっています。
Radeon RX 5600 XTリファレンスモデルのベースクロックは1,375MHzであり、Radeon RX 5700のベースクロック1,465MHzを下回っています。Radeon RX 5600 XTのほうが下位グレードなので、クロック周波数が下回っているのは自然です。
一方で、Radeon RX 5600 XTのブーストクロックは1,750MHzであり、Radeon RX 5700のブーストクロック1,725MHzを上回っています。
このようにRadeon RX 5600 XTのブーストクロックが高くなっているのは、Radeon RX 5700が発売された2019年7月から時間が経過し、高クロックに耐えられるチップ個体を製造する上での良品率を向上させることが可能になったためです。
しかし、最終結果として重要な性能についてはRadeon RX 5600 XTの性能はRadeon RX 5700に負けています。
原因はRadeon RX 5600 XTのビデオメモリ周りが大幅に低性能化されているためです。
Radeon RX 5700はメモリ容量が8GBあり、メモリバス幅は256bitでメモリ帯域幅は448GB毎秒あります。一方で今回のRadeon RX 5600 XTはメモリ容量6GBと低容量化しているだけでなく、メモリバス幅が192bit、メモリ帯域幅が288GB毎秒~336GB毎秒と細くなっています。
まずRadeon RX 5700用のNavi10チップのブロック図を見てみます。
先程の図とCUの有効化数は同じ36基です。しかし、右側の「64bit Memory Controller」の部分がこのRadeon RX 5700用のチップでは有効化されています。先程のRadeon RX 5600XT用のNavi10ブロック図では、右下の「64bit Memory Controller」が無効化されていることに注意します。これによりRadeon RX 5600XTでは最大メモリ容量も帯域も減少しています。
このメモリ周りのコストカットにより、Radeon RX 5600 XTはRadeon RX 5700よりもフレームレート性能が伸びなくなっています。
グラフィックボードに限らず、電子機器はまず一番高性能なモデルを先に作り上げます。それを万人に買ってもらえれば一番いいのですが、実際は各消費者ごとに予算の制約があるため、低い予算でも買えるようにと部分的にコストカットをしてより価格が安い(廉価な)低性能モデルを追加します。
今回のRadeon RX 5600 XTも全く同じであり、CUDA Coreに相当するStream Processorの数がRadeon RX 5700とRadeon RX 5600 XTで同じなわけですから、そうなると別の部分でコストカットをしないとRadeon RX 5600 XTをRadeon RX 5700より安いグラフィックボードにすることができません。そのコストカット対象がRadeon RX 5600 XTにおいてはメモリ周りだったことになります。
つまり予算さえあれば、Radeon RX 5600 XTよりもRadeon RX 5700がおすすめです。
NVIDIA製グラフィックボードとの比較では、ローエンドモデルであるGeForce GTX 1660無印に負ける性能です。
このRadeon RX 5600 XTというモデル名から分かる通り、AMDが本来想定しているカウンターパートはNVIDIA GeForce RTX 2060 Superです。しかし、以前からAMDのグラフィックボードは「AMDが想定しているカウンターパートのNVIDIA GeForceグラフィックボードよりもさらに2グレード下のGeForceに負ける」ということが常態化しています。
この法則(ジンクス)は今回のRadeon RX 5600 XTにも当てはまっており、GeForce RTX 2060 Superよりも2グレード下のモデルはGeForce GTX 1660 Tiなので、そのGeForce GTX 1660 Tiに確かにRadeon RX 5600 XTは負けてしまっています。それどころか、更に下のグレード(つまりGeForce RTX 2060 Superよりも3グレードも下)であるGeForce GTX 1660 Superにも負けてしまい、加えてGeForce GTX 1660 Superよりもさらに1グレード下(GeForce RTX 2060 Superよりも4グレード下)であるGeForce GTX 1660無印にも負けてしまっている惨敗結果です。
AMD製グラボにこだわる理由がなければNVIDIA GeForceをおすすめします。
1位: SAPPHIRE PULSE RADEON RX 5600 XT 6G GDDR6 (SA-RX5600XTPULSE-6GBGDR6) 11296-01-20G (VD7193)
2020年1月発売。2.3スロット占有(厚さ46.5mm)。全長254mm。高さ135mm。ブーストクロック1,750MHz。ファン×2。補助電源8ピン×1
出力端子Displayport1.4×3、HDMI2.0b×1
全長が丁度10インチなのでコンパクトな部類に入るグラフィックボードです。dual BIOS(dual vBIOS)スイッチが搭載されており、コネクタパネルに近い側に設定するとサイレントモード、遠い側に設定するとパフォーマンスモードになります。またSapphire製上位グラボの特徴としてクイックコネクトファンに対応しており、ファンを簡単に取り外してメンテナンスすることができます。