おすすめRyzen 5 3600Xのベンチマーク性能比較レビュー Intel Core i5 9600Kに対し11%の差で第3世代Ryzenが負ける性能 Core i5 8500にも負ける惨敗結果

Ryzen 5 3600Xは2019年7月に発売された第3世代Ryzenの6コアプロセッサの中では最高峰でした。なぜ過去形かと言うと、2020年7月にRyzen 5 3600Xの焼き直し版であるRyzen 5 3600XTが発売されたからです。ただし、Ryzen 5 3600XTはRyzen 5 3600Xとベースクロックが同じで、ブーストクロックが0.1GHz上昇したのみなので殆ど真新しさはありません。

Ryzen 5 3600Xの詳細スペックと特徴

型番Ryzen 5 3600X (Zen2 第3世代AMD)
コア数6コア12スレッド
基本動作周波数3.8GHz
最大動作周波数4.4GHz
全コア同時最大周波数4.1GHz
発売日2019年7月
セキュアブート非対応
AMD Pro(AMD版vPro)非対応
同時マルチスレッディング有効
定格外オーバークロック対応
TDP(≒消費電力)95W
L1キャッシュ384KB
L2キャッシュ3MB
L3キャッシュ32MB
最大メモリサイズ128GB
メモリタイプDDR4-3200
メモリチャネル2
メモリ帯域幅47.68GB毎秒
コードネームMatisse
コンピュータの形態デスクトップ
グラフィクス(iGPU)非搭載
iGPU最大画面数0
iGPU最大ビデオメモリ0GB
iGPU基本周波数0Hz
iGPU最大周波数0Hz
iGPU CU数0基
iGPU単精度コア数0個
iGPU単精度性能0 FLOPS
ソケットSocket AM4
アーキテクチャZen 2
プロセスルールTSMC7nm
SIMD拡張命令Intel AVX2, SSE
SIMD演算器256bit FMA×2
SIMD倍精度演算性能16 FLOPs/cycle
AI(深層学習)拡張命令非搭載

Ryzen 5 3600Xのカタログスペックは上記の通りです。このスペック表の中で着目すべき点について記載していきます。

セキュリティ機能は皆無 TPMチップ非対応なのでセキュアブートもCドライブ暗号化も不可

マザーボードにTPMチップを搭載することでセキュアブートが可能になりブートドライブ(Cドライブ)を暗号化することができる仕組みがCPUにはあります。特にノートパソコンだと当たり前のようにTPMチップと組み合わせてセキュアブートを実施します。

デスクトップ向けの第9世代Intel CoreプロセッサだとCore i5 9500以上のCPUにはTPMチップに対応するIntel TXT機能が有効化されています。

このIntel TXTに相当するAMDの技術はGuardMIテクノロジというものですが、このRyzen 5 3600XにはこのGuardMIテクノロジ機能が備わっていません。

つまりCore i5 9500以上のCPUなら当然のようにできるセキュアブートやCドライブ暗号化がこのRyzen 5 3600Xではできないことになります。

ミドルグレードのRyzen 5ながら内蔵グラフィックス非搭載 別途グラフィックボードを用意しない限りディスプレイ出力不可

Ryzen 5 3600XはRyzen 7とRyzen 3の間に位置するミドルグレードのCPUです。このグレード帯のCPUを選択するユーザはゲームをやらず高性能なグラフィック性能を必要としない場合が多いです。そのようなユーザは別途グラフィックボードを用意せず内蔵グラフィックスで済ませようとしますが、このRyzen 5 3600Xは内蔵グラフィックスを搭載していません。グラフィックス機能が無効化されているのではなく、チップ上にそもそもグラフィクス用の半導体回路が存在しません。

「グラフィックボードが無くてもディスプレイ出力できて画面が映るのが普通」というのは、これまでIntel Coreでは当たり前のように内蔵グラフィックスを搭載してきたことにより、マザーボードのリアパネルのディスプレイ出力端子で画面が映るというのを当たり前のように体験してきたユーザが多いためです。

しかしグラフィック処理のためのコアを搭載するとチップ面積の半分程度がグラフィック用の半導体回路になってしまいます。そうなると汎用コアに割り当てることができる面積が減り、Ryzenお得意の「コア数を無駄に増やす」戦略が採用できないため、第1世代Ryzenから第3世代Ryzenに至るまでRyzenシリーズでは内蔵グラフィックスの回路を思い切って完全に削り、削って余ったチップ面積を汎用コアを増やすための回路に割り当ててきました。このような経緯から、たとえRyzen 5であってもローエンドのRyzen 3であっても内蔵グラフィックスが搭載されておらず、グラフィックボードを各自で用意することが必須になっています。

第3世代Ryzen全コア同時に4.2GHzを達成しRyzen 9 3900XやRyzen 7 3800Xと同じ 全コア同時最大クロックはRyzen 9 3950Xの4.0GHzよりも高い

このRyzen 5 3600Xは6コアプロセッサながらも、全コア同時稼働時の最大クロックは4.2GHzあります。これはRyzen 9 3900XやRyzen 7 3800Xの全コア同時稼働時の最大クロックと同じです。

一方で、Ryzen 7 3800Xの劣化版であるRyzen 7 3700Xの全コア同時最大クロックは4.0GHzしかありません。8コアの上位モデルがRyzen 7 3800X、8コアの下位モデルがRyzen 7 3700Xと考えるとRyzen 7 3700Xの全コア同時最大クロックが4.0GHzしかないのは理解できますが、第3世代Ryzenシリーズ全体を通してフラッグシップモデルであるRyzen 9 3950Xでも全コア同時最大クロックは4.0GHzしかありません。

実はRyzen 9 3950Xで採用されているのはRyzen 7 3700Xで使われているチップ×2枚なので、6コアとコア数は少ないもののクロック上昇の耐久性はRyzen 5 3600Xが上です。Ryzen 5 3600XはRyzen 7 3800Xの純粋な6コア版と捉えることができ、Ryzen 7 3700XやRyzen 9 3950Xよりも高い性能を叩き出す用途(アプリケーション)は多いです。

Ryzen 5 3600Xと第9世代Intel Core(2018年度発売)プロセッサを比較

Ryzen 5 3600Xが発売された当時に存在していた最新のIntel Coreプロセッサは第9世代Intel Coreだったため、Ryzen 5 3600Xは第9世代Intel Coreプロセッサとよく比較されます。その後2020年には第10世代Intel Coreプロセッサが発売されましたが、それだと尚更第3世代Ryzenプロセッサが不利になってしまうため第10世代Intel Coreと比較することはAMD Ryzen愛好家は嫌います。今回この記事では第10世代Intel Coreとも第8世代Intel Coreとも比較していきますが、まずはRyzen 5 3600Xが発売された2019年の1年前にリリースされた第9世代Intel Coreと比較していきます。

Ryzen 5 3600X vs. Core i5 9600K

2019年発売のRyzen 5 3600Xは2018年発売のCore i5 9600Kとよく比較されます。ともに6コアプロセッサであることと、双方ともに型番が600であり、Ryzen 5 3600XはCore i5 9600Kを意識して投入されたものだからです。加えて、2019年発売のRyzen 5 3600Xよりも1年も前に発売された2018年発売のCore i5 9600KならIntel Coreに勝てるかもしれないというRyzen愛好家の淡い期待も反映されています。しかし結果は以下の通りです。

1年前に発売されたCore i5相手ならAMD Ryzenが勝てるだろうという期待は裏切られ、Core i5 9600KがRyzen 5 3600Xに+11%の大差で勝利しています。同じ6コアのプロセッサであり、その上ベースクロックはCore i5 9600Kのほうが0.1GHz低いです。同じ6コアプロセッサにも関わらずRyzen 5 3600Xより+11%もCore i5 9600Kが高性能です。

さらにはCore i5 9600Kには内蔵グラフィックス(Intel UHD Graphics)を搭載しており、Ryzen 5 3600Xは内蔵グラフィックスを非搭載という差もあります。

そのような制約下でもCore i5 9600KがRyzen 5 3600Xに勝利したのは、Ryzen 5 3600XのZen2マイクロアーキテクチャと半導体製造プロセスが、Intel Coreのそれと比較して大きく劣っているためです。

Ryzen 5 3600Xと第8世代Intel Core(2017年度発売)プロセッサを比較

第8世代Intel CoreになるとRyzen 5 3600Xが発売された2年前のプロセッサなので、「さすがに第8世代Intel Core相手なら第3世代Ryzen 5 3600Xは楽勝だろう」と考えているRyzen愛好家が非常に多いです。実際にベンチマーク比較して確かめてみましょう。

Ryzen 5 3600X vs. Core i5 8500

第9世代Intel Core i5 9600K相手にRyzen 5 3600Xではまったく歯が立たなかったので、さらに1世代前の第8世代Intel Coreプロセッサ且つ、グレードも引き下げて型番500のCore i5 8500相手で勝負してみます。

このように2世代前のIntel Coreかつ、グレードを引き下げた型番500のCore i5 8500相手でもRyzen 5 3600Xは敗北してしまっています。コア数は6コアで同じであるものの、ベースクロックはRyzen 5 3600Xが3.8GHzもあるのに対しCore i5 8500はたった3.0GHzで、しかもCore i5 8500は手動でオーバークロック不可の”K無し型番”モデルなのでCore i5 8500の動作クロックには上限があります。そのような「低い動作クロック」の制約下でもCore i5 8500が勝利してしまったのは、AMD RyzenのマイクロアーキテクチャはZen,Zen+時代から根本的な欠陥を抱えているからです。RyzenはCCXという4コアのブロックを基礎単位として構成されています。Ryzenの欠陥は、このCCXごとに共有キャッシュを保有してることです。6コアを実現する場合、4コアのCCXの中の1コアを無効化しCCX(3コア)+CCX(3コア)という2つのCCX構成を取っています。

そのため、片方のCCXの共有キャッシュではキャッシュヒットになるのに、もう片方のCCXの共有キャッシュではキャッシュミスになるという致命的な欠陥を抱えています。

CPUはパイプラインを多段にすることで高クロックを実現しており、一度キャッシュミスが起こると数百クロックという単位でCPUが空回り(ストール)して、計算が滞ります。RISCアーキテクチャは1サイクルでレジスタからデータをLoadできることを前提としているので、それになるべく近づけるためにL1~L3キャッシュがあるわけですが、RyzenはL3キャッシュすらもなかなかヒットしない状況にあるためこれだけの性能低下が発生します。

この欠陥は第1世代RyzenのZenマイクロアーキテクチャのときから指摘されていたのですが、第2世代RyzenのZen+マイクロアーキテクチャでも改善されず、大幅刷新と位置づけられていた第3世代RyzenのZen2マイクロアーキテクチャでもそのまま維持されてまったく改善されませんでした。ここを正さない限り、数世代前のIntel Coreに敗北を喫する状況は今後も続くでしょう。

Ryzen 5 3600Xの最大動作クロックはあえて低く抑えている

コア数を増やせば増やすほど消費電力は増えて、1コアに割り当てることのできる電力は減ります。そのためTDP95Wで6コアのRyzen 5 3600Xのほうが、TDP105Wで12コアのRyzen 9 3900Xよりも1コアあたりに割り当てることのできる消費電力に余裕があります。

しかしRyzen 5 3600Xの動作クロックは最大でも4.4GHzであり、Ryzen 9 3900Xの4.6GHzよりも低いです。

答えから言うと、「わざと下位製品の最大動作クロックは低く抑えている」からです。

これはIntel Coreでも使っている手法で、上位の高価な製品ほど最大動作クロックが高くするようにして製品にしています。これは今回のAMD Ryzenでも同じです。

コア数の少ない製品ほど最大動作クロックを高くしやすいのですが、そうすると「12コアのRyzenよりも安い6コアのRyzenのほうが動作クロックが高い」といった逆転現象が起きてしまいます。ユーザーから見れば「価格が高いからには高性能」なものが欲しいと思っているので、「安い6コアのほうが動作クロックが高い」となるとより高いCPUの購買意欲を削ぐことになります。そのため商売上の理由としてわざと最大動作クロックは低くしてRyzen 5 3600Xの最大動作クロック4.4GHzが、Ryzen 9 3900Xの動作クロック4.6GHzよりも低くなってしまっています。

これは手動でオーバークロックするのならRyzen 5 3600Xのほうが有利だということも意味します。定格動作だとRyzen 5 3600Xの動作クロックがRyzen 9 3900Xより低くなりますが、定格動作外ならRyzen 5 3600Xのほうが動作クロックを高くできます。