2019年7月発売のRyzen 7 3800Xは、第3世代Ryzenの通常デスクトップ向けプロセッサとして発売されたモデルの中でRyzen 9 3950X, Ryzen 9 3900Xに次ぐ位置づけにあるCPUです。
動作クロックは3.9GHz~4.5GHzで8コア16スレッドです。
このRyzen 7 3800Xは2019年発売ですが、ここでは2018年発売の第9世代Intel Core CoffeeLakeRefreshプロセッサと主に比較していきます。発売日が古いプロセッサと比較する分にはAMD Ryzenにとって不利にはなりません。
Ryzen 7 3800Xの詳細カタログスペック
型番 | Ryzen 7 3800X (Zen2 第3世代AMD) |
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コア数 | 8コア16スレッド |
基本動作周波数 | 3.9GHz |
最大動作周波数 | 4.5GHz |
全コア同時最大周波数 | 4.1GHz |
発売日 | 2019年7月 |
セキュアブート | 非対応 |
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AMD Pro(AMD版vPro) | 非対応 |
同時マルチスレッディング | 有効 |
定格外オーバークロック | 対応 |
TDP(≒消費電力) | 105W |
L1キャッシュ | 512KB |
L2キャッシュ | 4MB |
L3キャッシュ | 32MB |
最大メモリサイズ | 128GB |
メモリタイプ | DDR4-3200 |
メモリチャネル | 2 |
メモリ帯域幅 | 47.68GB毎秒 |
コードネーム | Matisse |
コンピュータの形態 | デスクトップ |
グラフィクス(iGPU) | 非搭載 |
iGPU最大画面数 | 0 |
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iGPU最大ビデオメモリ | 0GB |
iGPU基本周波数 | 0Hz |
iGPU最大周波数 | 0Hz |
iGPU CU数 | 0基 |
iGPU単精度コア数 | 0個 |
iGPU単精度性能 | 0 FLOPS |
ソケット | Socket AM4 |
アーキテクチャ | Zen 2 |
プロセスルール | TSMC7nm |
SIMD拡張命令 | Intel AVX2, SSE |
SIMD演算器 | 256bit FMA×2 |
SIMD倍精度演算性能 | 16 FLOPs/cycle |
AI(深層学習)拡張命令 | 非搭載 |
Ryzen 7 3800Xのカタログスペックは上記の通りです。この中で特に注意をしてみるべき項目について解説しておきます。
Ryzen 7 3800Xの全コア同時最大クロック4.2GHzは、第3世代Ryzenシリーズ最高峰とされているRyzen 9 3950Xの4.0GHzよりも高い
8コアモデルRyzen 7 3800Xの最大クロックは4.5GHzしかありません。この最大クロックは16コアモデルRyzen 9 3950Xの4.7GHzに比べると低いです。
しかし、全コア同時に稼働させたときの最大クロックはRyzen 7 3800Xが4.2GHzまで上がるのに対して、Ryzen 9 3950Xはむしろ低く4.0GHzまでしか上がりません。
Ryzen 7 3800Xは8コアモデルであるため、消費電力に余裕があり動作クロックを高くできます。CPUの性能低下の要因となるのは発熱による温度上昇であり、温度が上昇するとトランジスタのスイッチング性能が低下するためCPUの処理性能も低下します。
Ryzen 7 3800Xは8コアであるため冷却がしやすく、最大クロックを高くする余裕がそもそもあります。にもかかわらず1コアあたりの最大クロックが4.5GHzしかないのは、AMDがわざと低く設定して出荷しているからです。
家電製品と同じでCPUも高価なモデルから安価なモデルまでラインナップします。最高峰のRyzen 9 3950Xを買うAMDユーザは「高い金払ったんだから高性能でないと許せない」と考えているので、AMDもそれを忖度して最大クロックを4.7GHzにしています。これは「Ryzen 9 3950Xだと保証の範囲内では4.7GHzまでしか高く出来ない」ため4.7GHzにAMDが設定しています。
一方でRyzen 7 3800Xは事情が異なります。8コアモデルであるため、本来なら4.7GHzよりも高い最大クロックを保証の範囲内で設定することが可能です。それでもあえて4.5GHzまで低くしているのは「上位モデルのRyzen 9 3950Xよりも高い最大クロックにするとRyzen 9 3950Xを購入したユーザから文句が来る」ためです。そこで、下位モデルであるRyzen 7 3800Xの最大クロックはわざと4.5GHzと低く設定されています。これはRyzen 9 3950Xのように「4.7GHzが技術的な限界だった」のではなく、Ryzen 7 3800Xでは「マーケティング上の都合でしかたなく4.5GHzに抑えている」というのが本当のところです。
そして、全コアを同時に稼働させたときの最大クロックでは以上のような「わざと最大クロックを低く設定している」化けの皮が剥がれます。
Ryzen 9 3950Xでは全16コアを稼働させたときの最大クロックは4.0GHzしかなく、Ryzen 8 3800Xでは4.2GHzまで上昇します。12コアモデルのRyzen 9 3900Xも4.2GHzまで上昇します。
つまりアプリケーション・ソフトウェアによってはRyzen 9 3950XよりもRyzen 7 3800Xのほうが高性能になることが普通に発生します。16コアを使い切るアプリケーションなんて普通の用途では発生しないので、8コアで十分なアプリケーションではRyzen 7 3800Xのほうがむしろ高速です。
Ryzen 7 3800Xと第9世代Intel Core(2018年~2019年発売)プロセッサを比較
Ryzen 7 3800Xは2019年7月発売なので、2018年~2019年にかけて発売された第9世代Intel Coreプロセッサと、2020年に発売された第10世代Intel Coreプロセッサの間の時期に発売された製品です。2019年7月にRyzen 7 3800Xが発売された時点では、第10世代Intel Coreプロセッサがまだリリースされていなかったので、その当時既に存在していた第9世代Intel Coreプロセッサと積極的に比較されていました。そのためまずは第9世代Intel Coreプロセッサと比較していきます。
Ryzen 7 3800X vs. Core i7 9700K
Ryzen 7 3800Xと比較するなら同じグレード8のCore i7 9800Kと比較するべきですがそのモデルは存在しないため、1グレード下のCore i7 9700Kと比較してみます。事実上カウンタパート同士の比較と言えます。
このようにRyzen 7 3800Xを+12%も上回る性能でCore i7 9700Kが勝利しています。Ryzen 7 3800XがCore i7 9700Kに10%以上の差で打ち負かされる結果です。同じ8コア同士の比較であるにもかかわらずここまで大差がついてしまったのは、IPC(クロックサイクルあたりの実行命令数)を先代より高めた第3世代RyzenのZen2マイクロアーキテクチャであっても未だにIPCが低くなってしまったからです。
しかも動作クロックはCore i7 9700Kのほうが低いのにRyzen 7 3800Xが負けてしまったということは、2019年発売の第3世代RyzenのIPCやFLOPS/cycle(1クロックサイクルあたりの浮動小数点演算性能)が、2018年発売の第9世代Intel Coreよりも大きく劣っていることを意味します。
Ryzen 7 3800X vs. Core i3 9350KF
Ryzen 7 3800Xは8コア16スレッドあるプロセッサであり、Intel Coreのカウンタパートで言えば8コア8スレッドのCore i7 9700Kを打ち負かすことを目標に据えて投入されたモデルです。しかし、たった4コア4スレッドしかないCore i3 9350KFにすら負けてしまっています。
Core i3 9350KFが+1%だけRyzen 7 3800Xに勝利しています。Ryzen 7 3800XはCore i3 9350KFよりも低い性能に留まってしまっています。4コアのCore i3 9350KFに8コアのRyzen 7 3800Xが負けてしまったのは、Intel Coreのマイクロアーキテクチャでは1コアあたりの性能が高くさらに動作クロックも高いこと、さらに第3世代Ryzenのマイクロアーキテクチャではキャッシュ機構に難がありキャッシュレイテンシが高いのみならず、8コア全体で1つの共有キャッシュを持っていないためキャッシュミスが頻発するためです。1コアあたりの性能が低すぎるが故に、8コアのRyzen 7 3800XはCore i3 9350KFに敗北しています。