第3世代Ryzen 9 3900Xは12コア止まり 16コア3950Xは8万円超確実でリリース先送りへ 6コアのRyzen 7 3600X用のチップを2つ連結させて12コアを実現

2019年5月27日にAMDから第3世代Ryzen 9 3900Xが発表されました。

海外メディアAdoredTVが発端となったリーク情報を拠り所として3800Xで16コアを期待していたAMDユーザーが多かったようですが、期待は裏切られ3900Xでも12コア止まりとなりました。

その要因はTSMC7nmプロセスの製造コストの高さです。16コアを実現するとなると800ドル近い売価になってしまうため、500ドル程度に収めるため12コアとしたようです。

Ryzenについては詳しくこちらの記事にまとめてあります。

事前の予測よりかなり低スペックとなった第3世代Ryzen 3000シリーズ(Mattise family)

事前に予測されていた第3世代Ryzenのスペックは2018年末に海外のAdoredTVから「リーク」として報道されたものが基礎となっており、2019年に正式発表されるまでの半年間に渡ってAMDユーザーの大方の予測はすべてそのリークを情報源・前提にしていました。

AMDユーザーの間では「5GHzの大台達成は堅い」というコンセンサスが存在

特にこのリークでは最高峰のフラッグシップモデルは最大クロック5.1GHzとされていたため、AMDユーザーの間では「5.1GHzは無理としても5GHzの大台達成は堅い」というコンセンサスがあったくらいです。

16コアになるはずだった3800Xはまさかの8コア しかも動作クロックが相当低い

海外AdoredTVからの「リーク」を根拠として事前予測されていたのは、3800Xが16コアになるというものでした。しかし実際でてきた3800Xは予想の半分の8コア。しかも最大動作クロックが予測では4.7GHzだったのが実際は4.5GHzでした。

AdoredTVのスペックは明らかに過大だとは私も思っていましたが、実際出てきた実物がまさかここまで低いスペックだとは思いませんでした。

事前予測では最高峰がRyzen 9 3850Xで16コア
実際はそれより上のナンバーであるRyzen 9 3900Xが振られたにも関わらず12コア

それよりもAMDユーザーにとってショックだったのは、リークを根拠とした事前予測で最高峰だとみられていたRyzen 9 3850Xのナンバリングを上回るRyzen 9 3900Xのナンバーが使われてしまったことです。

今回の12コア製品をRyzen 7 3700X程度のナンバーに留めておけば、「AMDは3900Xを持ち出すまでもなく3700Xですら12コア達成」というアピールも可能になるところでした。

12コアのRyzen 9 3900Xは6コアのRyzen 5 3600Xのチップ×2で実現されている

Ryzen 9 3900Xは12コア24スレッドであり、動作クロックは3.8GHz~4.6GHzです。重要なことは、最大動作クロックの4.6GHzというのは全コア同時ではなく一部のコアのみが4.6GHzを達成することになります。

TDPは105Wで全キャッシュの合計が70MBです。キャッシュサイズはL1命令キャッシュは前世代と比較し半減されておりL2キャッシュは従来の512KBを維持していてL1,L2の合計をみると減少しているのですが、4コアごとに存在するL3共有キャッシュが8MBから16MBに倍増されており全体として合計キャッシュサイズが増加しています。L3キャッシュサイズを倍増させたことによってL3キャッシュ・レイテンシは前世代の35サイクルから第3世代では40サイクルに悪化しました。

12コアのRyzen 9 3900Xは1チップ構成ではなく、IOチップ×1と6コアが載ったメインチップ×2の構成です。

そしてその6コアのチップはRyzen 5 3600Xで使われているものと同じです。

Ryzen 5 3600Xは6コア12スレッドであり、動作クロックは3.8GHz~4.4GHzでありTDPは95W。この6コアチップを単純に2つ接続して12コアを実現しています。

価格をみてもその傍証となっています。Ryzen 5 3600Xは249ドル。Ryzen 9 3900Xは499ドルで約2倍になっています。IOチップは7nmプロセスで製造されておらず十分に減価償却の済んだ半導体設備で製造されているため安いです。パッケージングのコストも無視できるほど小さいです。支配的なコスト要因は汎用コアが搭載されている6コアのチップです。つまりRyzen 9 3900Xの価格を決定するのはRyzen 5 3600Xで採用されているチップの価格です。

Ryzen 5 3600Xの最大動作クロックはあえて低く抑えている

コア数を増やせば増やすほど消費電力は増えて、1コアに割り当てることのできる電力は減ります。そのためTDP95Wで6コアのRyzen 5 3600Xのほうが、TDP105Wで12コアのRyzen 9 3900Xよりも1コアあたりに割り当てることのできる消費電力に余裕があります。

しかしRyzen 5 3600Xの動作クロックは最大でも4.4GHzであり、Ryzen 9 3900Xの4.6GHzよりも低いです。

答えから言うと、「わざと下位製品の最大動作クロックは低く抑えている」からです。

これはIntel Coreでも使っている手法で、上位の高価な製品ほど最大動作クロックが高くするようにして製品にしています。これは今回のAMD Ryzenでも同じです。

コア数の少ない製品ほど最大動作クロックを高くしやすいのですが、そうすると「12コアのRyzenよりも安い6コアのRyzenのほうが動作クロックが高い」といった逆転現象が起きてしまいます。ユーザーから見れば「価格が高いからには高性能」なものが欲しいと思っているので、「安い6コアのほうが動作クロックが高い」となるとより高いCPUの購買意欲を削ぐことになります。そのため商売上の理由としてわざと最大動作クロックは低くしてRyzen 5 3600Xの最大動作クロック4.4GHzが、Ryzen 9 3900Xの動作クロック4.6GHzよりも低くなってしまっています。

これは手動でオーバークロックするのならRyzen 5 3600Xのほうが有利だということも意味します。定格動作だとRyzen 5 3600Xの動作クロックがRyzen 9 3900Xより低くなりますが、定格動作外ならRyzen 5 3600Xのほうが動作クロックを高くできます。

16コア第3世代Ryzen 9 3950Xは8万超

では同じように第3世代Ryzenのアーキテクチャで3950Xのような16コア製品を実現するとしたらどうなるでしょうか。

実際、海外のAdoredTVといったフェイクニュースサイトから出てきた情報に「16コア32スレッドで5.1GHzを実現」といったものがあったので、大多数のAMDユーザーが16コア製品を心待ちにしていたというのが本当のところです。

8コア16スレッドの第3世代RyzenはRyzen 7 3800X(3.9GHz~4.5GHz、TDP105W)、Ryzen 7 3700X(3.6GHz~4.4GHz、TDP65W)の2機種が用意されています。

Ryzen 7 3700Xは、単にRyzen 7 3800Xの動作クロックを低くしたバージョンです。

半導体チップを作るとき、円形のウェーハから切り取ったダイには確率的に優劣が発生します。クロックを引き上げることのできる優秀なダイと、クロックを引き上げると動作しない瑕疵のあるダイです。中には全く動作しないダイもあります。

クロックを引き上げた場合に動作しないダイを捨ててしまうと、その捨てた分の製造原価を他の正常に動作するダイの製造原価に転嫁しなければならないため、製造原価が増加し価格の高騰を招きます。そのためクロックが上がらなかった瑕疵のあるダイでも、正常に動作する水準までクロックを引き下げて製品として販売します。それがRyzen 7 3700Xです。

Ryzen7 3700Xではクロックを引き下げているため、自然と消費電力も減るのでTDP65Wとなっています。

さて予定売価ですが、Ryzen 7 3800Xは399ドル、Ryzen 7 3700Xは329ドルです。

16コアのRyzenを用意するとしたら当然ながらクロックの高さも伴っていなければフラッグシップモデルになりえないので、Ryzen 7 3800Xの399ドルのチップを2つ連結することになります。そうなると16コアの第3世代Ryzenは800ドルにもなります。日本円で9万円(税抜)です。

そこで少し妥協して、安いRyzen 7 3700Xで採用されている動作クロックが低いダイを2つ連結して16コアを実現するとしましょう。それでも660ドルであり7万5千円に迫る価格になってしまいます。

結果的に予定価格は749ドルとなったので、Ryzen 7 3700Xで使われているチップよりはマシだけれどもRyzen 7 3800Xで使われているチップよりは劣る位置づけになります。

749ドルだと日本円に換算した上で消費税8~10%を上乗せすると8万~9万円といったところです。AMDがどのような為替ヘッジをしてるのかはわかりませんが今後円高が進むのは確実なのでこれより上がることはないでしょう。

16コアの第3世代Ryzenは歩留まりが悪く採算が取れないためリリース先送り

以上、16コアの第3世代Ryzenの価格について見てきましたがどちらにしてもAMD Ryzenがターゲットにしている低所得層には高すぎます。AMDのプロセッサというのはIntelプロセッサだと高くて買えない人が選択にするものなので、Intelより高くなってしまうとAMDの商売上は失敗です。

実際に低所得者に特徴的な購買行動として、すぐに第3世代Ryzenを試したいもののRyzen 9 3950Xが欲しいがためにRyzen 9 3900Xの購入を見送って来たユーザは、Ryzen 9 3950Xの発売延期で結局何も買えずにさらに購入を先送りしています。高所得で十分に資金があれば繋ぎとしてとりあえずRyzen 9 3900Xを購入して使用し、Ryzen 9 3950Xが発売されたらそれも購入して乗り換えればいいだけです。何か応用分野(ニーズ)があってCPUを購入する人はパソコン本体を含めてCPUは単なる手段なわけですから、計算資源が必要となった時点で市場に存在するCPUを購入して、何らかの応用分野の実現の手段としてCPUを使用します。つまりRyzen 9 3950Xの発売日が後になるにつれて購入を先送りするのは本末転倒であり、RyzenユーザはCPUを何らかの応用分野(例えば深層学習や金融工学)の計算実行に用いる目的を持っておらず、CPUそれ自体が目的となっていることを表しています。それなりの大学大学院等で高等教育を受けてきた人なら専攻していた各応用分野を持っているので発売日に関係なくさっさとCPUを購入してその応用(目的)のために役立てています。一方で、ベンチマークを回したらそれで終わりの「応用分野不在」はまともな高等教育を受けていない高卒(専門卒も高卒)やFランにありがちで(確率解析・統計学等の数学が苦手な層に多い)、こういった層だとCPUそれ自体が目的化しており「ベンチマーク以外の使い道がなくCPUそれ自体が目的だからRyzen 9 3900Xを買っても全く意味がない」となってしまっています。既に大量に出回っているRyzen 9 3900Xを購入せずにRyzen 9 3950Xをひたすら待っているRyzenユーザが多いのはこういった背景があります。

この歩留まりの悪化による実現可能性(feasibility)の低さとコストの高さはNVIDIAのTuring世代でTSMC7nmプロセス採用が見送られたことからもあらかじめ予見できていたことです。NVIDIA社CEOのJensen Huangは著名な人物ですが、彼が「AMDは7nmプロセスのGPUをリリースしてるのにNVIDIAはなぜ12nmのままなのか?」と質問されたところ「7nmプロセスを採用するとTSMCに非常に高いコストを支払わなければならない。我が社の技術力は高いので12nmプロセスで十分」と回答しています。

もう少し時間が経過して7nmプロセスの製造コストが下がるのを待つ必要があるとしたのがNVIDIAの判断で、第3世代Ryzen16コアも同じコストの問題です。

ただし、これらは「商売上」の理由です。現に小さい面積のダイで実際に動作する8コアを実現できており、それを2つ搭載して連結するだけなので消費電力やコスト度外視なら余裕で16コアのRyzen 9 3950Xを実現できてしまいます。

あとは採算が取れるかどうかの製造原価(歩留まり)と利益率の問題といった業績面の問題になります。Intelは4半期(3ヶ月)で40億ドルの純利益でしたがAMDは1600万ドルだったので、この純利益の低さを歩留まりの悪いCPUでカバーできるかどうかといったところです。

Ryzen 9 3900Xは6コアのRyzen 5 3600X用チップがベースとなっています。6コアチップは2コア分を無効化してあるため歩留まりが良いです。そのため早期の2019年7月にリリースできました。しかし16コアのRyzen 9 3950Xのベースとなっているのは8コアのチップであり、ただでさえ歩留まりが悪い8コアチップを2つも搭載しなければならないのでリリース先送りになりました。それなら先に歩留まりの良い6コア×2の12コアRyzen 9 3900Xを先行リリースするという運びになりました。

AMDは「第3世代Ryzenを2019年第3四半期までに投入する」と投資家(株主)に言い切ってしまっていたので、発売の遅延が許されても第3四半期末の9月一杯が限度でした。よってRyzen 9 3950Xは2019年9月発売となっていましたが、さらに発売が11月まで延期されてしまい有言実行できないほど歩留まりの悪さが深刻化していることが露呈してしまいました。

これは適切な判断です。歩留まりが改善し製造コストが下がる前の段階で16コアRyzenを12コアRyzenと同時にリリースしていたら、16コアを切望していたAMDユーザーのメンツは守られても企業としてのAMDは損失を被っていました。

このように第3世代Ryzen 9 3900Xを12コアにとどめたのも、高価なIntel Coreよりも安くし、「Intelより安いならAMDを買う」といった層に訴求するためです。

その上、Intelより安いのにコア数が多いAMD Ryzenは「コア数が2倍3倍になれば性能も2倍3倍」と単純に捉えてくれる高卒やFランの低所得者と親和的でアピールしやすいです。

お金の問題以外だとAMD Ryzenを強くおすすめできるのは「少数派」を好む人です。個人向けのゲーム用途でも2017年のRyzen発売以来からなぜかシェアが上がらず、未だにAMDシェアは20%程度である一方Intelのシェアは80%あります。大企業向けだとさらに差が広がってしまいAMDの採用比率はほぼゼロになってしまいます。NTT持株とKDDIのようにどの業界にも1位と2位がありますが2位を好む人にもAMD Ryzenをおすすめできます。

「実績があるけれども高価でお金がある人向けのIntel Core」、
「実績がないけれども安くお金が無い低所得者向けのAMD Ryzen」といった従来からのIntelとAMDの構図は今回も当てはまることになってしまいました。