おすすめRyzen 7 2700Xのベンチマーク性能比較レビュー Intel Core i7 9700Kに対し14%の大差で第2世代AMD Ryzenが敗北 Core i3 9350KFにすら負ける性能

2018年4月19日にAMD Zen+アーキテクチャを採用した第2世代Ryzen(Pinnacle Ridge)のフラッグシップモデルRyzen 7 2700Xに加えて2700,2600X,2600も発売されましたが、Ryzen 7 2700X以外ほぼ注目されていないと言っていいでしょう。

Intel Coreプロセッサに太刀打ちするためにはできるだけ性能が高いRyzenを使わなければならないということで、第2世代Ryzenの中でも最上位モデルのRyzen 7 2700Xが多くの人に選択されています。

2018年に発売された第2世代Ryzen 7 2700Xは同じく2018年に発売された第9世代Intel Core i7 9700Kと比較するのが妥当です。

しかし以下のベンチマーク結果が示す通り、シングルスレッドとマルチスレッドを織り交ぜた実際的なベンチマークでもIntel Core i5 9600Kを下回る結果となりました。当然9700Kも下回っておりCore i3 9350KFと互角の性能になっています。

さらに1世代前の2017年発売第8世代Intel Core i5 8600K, i7 8700Kが相手でも2018年発売のRyzen 7 2700Xが負けてしまっています。

Ryzenプロセッサは動画エンコードのように「スレッドレベル並列性」が高い並列処理目的に特化したプロセッサです。コア数の多さは性能向上に直結せず、スレッドレベルの並列性が十分にある用途(アプリケーション)で使わないと性能を引き出せません。

世の中の大多数のソフトウェア(アプリケーション)はシングルスレッドで動作します。シングルスレッドで動くアプリケーションでは1コアあたりの性能の高さが重要です。よって殆どの用途ではRyzenプロセッサよりも汎用的なIntel Coreプロセッサのほうが高速になります。

さらにIntel Coreプロセッサにはオンボードグラフィックス(iGPU)が搭載されており、グラフィックボードを別途購入しなくてもトリプルディスプレイで画面を表示することができます。しかしRyzen 7 2700Xにはオンボードグラフィックスが搭載されていません。オンボードグラフィックスを削る代わりに+4コア増やして8コアにすることで並列処理に特化したものがRyzenだからです。第2世代Ryzenプロセッサでも第1世代と同じように必ずグラフィックボードの別途購入が必要になります。

インデックス:

Ryzen 7 2700Xは型番上カウンターパートであるはずのCore i7 9700Kに大差で敗北

2018年発売のRyzen 7 2700Xは同じ2018年発売のCore i7 9700Kと第一に比較することになります。Ryzen 7 2700Xに内蔵グラフィクスが搭載されていないので、本来はIntel Core側も内蔵グラフィクスが搭載されていないCore-Xと比較するのが普通なのですがそうなると圧倒的大差でRyzenが負けてしまうのでIntel Core側は内蔵グラフィクス搭載というハンデを設けています。

2700Xと9700Kは共に2018年発売の世代の中でグレード7のモデルであり、かつ高クロック版のモデルでもあります。比較するなら2017年に発売されたCore i7 8700Kよりも、第2世代Ryzenと同じ2018年に発売された第9世代Intel Coreがカウンターパートになるのでそちらと比較することになります。

本来Ryzen 7 2700Xと比較すべき本来のプロセッサはCore i9 9900Kです。9700Kは8コア8スレッドですが、9900Kは8コア16スレッドであり、8コア16スレッドのRyzen 7 2700Xと内蔵グラフィクス搭載か否かという点以外については同じ土俵に立っているためです。

しかし、後述しているようにCore i5 9600K相手ですらRyzen 7 2700Xは性能で負けてしまったわけですから、Core i7 9700K相手だとさらに大きな差がつきます。

+14%もCore i7 9700Kが高い性能を叩き出しています。さらにCore i7 9700Kは4K@60fpsでトリプルディスプレイ可能なiGPUをチップ上に搭載しています。

Core i7 9700Kにデメリットがあるとしたら価格がRyzen 7 2700Xより高価だということです。お金がない人はRyzen 7 2700Xがいいでしょう。

同じ8コア16スレッド同士のCore i9 9900Kとの比較だとRyzen 7 2700XがCore i9 9900Kに惨敗

デスクトップ向け第9世代Intel CoreのフラッグシップモデルがCore i9 9900Kです。同じく第2世代RyzenのフラッグシップモデルもRyzen 7 2700Xです。Ryzen 7 2800Xや2900Xは存在しません。

9900KはRyzen 7 2700Xと同じ8コア16スレッドで、L3共有キャッシュサイズも16MBで同じです。基本動作周波数はCore i9 9900Kは3.6GHzなので、Ryzen 7 2700Xよりも0.1GHz低くなっています。

コア数が同じということは、全体の性能差=各コアの性能差だということです。1コアあたりの性能差がそのまま全体の性能差に直結します。

+19%もCore i9 9900Kが上回る結果となりました。同一年度に発売されたプロセッサの性能で19%は大差です。

RyzenとIntel Coreのコア数は同じであるため、1コアあたりの性能に19%差があることになります。+19%ほどCore i9 9900Kのほうが1コアあたりの性能が高いということです。

Core i9 9900Kのデメリットは価格が高いことです。ただしオンボードグラフィックス(iGPU)をCPUチップ上に搭載しているため、別途グラボを用意するほどグラフィック処理能力がいらない用途で使うのならiGPU搭載の9900Kのほうが優秀です。

8コアのRyzen 7 2700Xは6コアのCore i5 9600Kにも敗北

2018年10月20日発売されたCore i5 9600Kは6コア6スレッドのプロセッサです。コア数は6に留まっていて、さらに基本動作周波数はRyzen 7 2700Xと同じ3.7GHzであるにもかかわらず性能はCore i5 9600Kが上回ってしまいます。

+5%Core i5 9600Kが上回っています。マイクロアーキテクチャ設計がRyzenのほうが劣っているためです。グラボを別途用意しなくてもトリプルディスプレイ可能なオンボードグラフィックスをCore i5 9600Kは搭載しています。

Ryzen 7 2700Xのほうが安いならまだ「安いRyzen」として選択の余地はありそうですが、性能で負けている上に価格も高いとなると合理的判断をするならCore i5 9600Kのほうが上です。

まさかのCore i3 9350KFにも負けてしまう

次にCore i3と比較してみます。Core i3というと低性能なイメージがありますがCore i3 9350KFはそれなりに動作周波数が高いプロセッサです。

この結果には驚く人が多いと思いますが、Core i3 9350KFがたった+2%ですがRyzen 7 2700Xに勝ってしまっています。コア数に2倍の違いがあるためRyzen 7 2700Xが勝ちそうなものですが逆の結果です。Core i3がRyzen 7のフラッグシップモデルと互角な勝負をしていることになります。

Ryzen 7 2700X vs. Core i7 8700K

ここからは第9世代Intel Coreより1世代古い2017年発売の第8世代Intel Coreと比較していきます。

Ryzen 7 2700Xを第8世代Intel Coreと比較するにあたっては、同じグレード7の位置づけのCore i7 8700Kと第一に比較するのが妥当です。基本動作周波数が3.7GHzで同じです。また1コアあたりのL3キャッシュサイズが2MBでこれも同じです。TDPはCore i7 8700Kが95Wに対してRyzen 7 2700Xが105WでありRyzenのほうが大きいですが、これは技術的に後塵を拝しているAMDへの下駄履かせとして容認していい範囲だと思います。

両者で異なるのは、Ryzen 7 2700XはiGPU(オンボードグラフィックス)を搭載しておらずCore i7 8700KはiGPUを搭載している点と、Ryzen 7 2700Xは8コアでありCore i7 8700Kは6コアである点です。これはRyzenがIntelの背中に追いつくためにオンボードグラフィックスを削ってその部分にコアを割り当てて、1コアあたりの性能ではIntelには勝てないのでコアの数では勝つようにするという戦略から来ています。

上述したように、時間的に後に発売したCPUは時間経過による技術進歩のため速くなるのが当然です。しかしIntelとAMDには技術力の差が大きいため2018年4月に発売されたRyzen 7 2700Xは2017年11月に発売されたCore i5 8600Kに勝てない結果となっていました。その差の開きはCore i7 8700K相手だとさらに大きくなります。

このように+8%もCore i7 8700Kが勝利しています。たった+8%と思うか、+8%もと思うか直感的な捉え方は人それぞれでしょうが、技術的観点から客観的に言うとこれは非常に大きな差です。まずCPUは1年で22%の性能向上をすることは上述しましたが、この+8%というのは「半年弱分の技術的差異」に相当します。22%の性能向上を1.22倍と表して、半年分の性能向上を求めるために6/12乗する(平方根をとる)と1.108となるため、CPUは半年で10.8%の性能向上をすることになります。つまりRyzen 7 2700XはCore i7 8700Kよりも時期的に約半年ほど遅れた性能だということになります。さらにCore i7 8700Kは2017年11月発売なので、Ryzen 7 2700Xよりも5ヶ月も前に発売されたものです。Ryzen 7 2700XよりもCore i7のほうが昔に発売されたのに、性能評価ではなぜかRyzen 7 2700Xのほうが半年も昔に発売された性能になってしまっています。

5ヶ月も後に発売されたRyzen 7 2700XはCore i7 8700Kよりも本来+8.6%勝利しなければなりません。それなのに逆にCore i7 8700Kが+8%も勝利してしまっています。これはつまりRyzen 7 2700XとCore i7 8700Kの間には、発売時期による優劣をなくして対等に比較しようとすると1.086(8.6%)×1.08(8%%)=1.17(17%)もの性能差があるということです。

さらに重要なことは、Core i7 8700Kは6コアの汎用コアのチップ面積と同じ分だけの面積をiGPU(オンボードグラフィックス)のために割いているということです。Ryzen 7 2700XにはiGPUが搭載されていないためこの点もフェアではありません。そのためRyzen 7 2700XとCore i7 8700Kを対等に比較するためにはCore i7 8700KのiGPU部分をRyzenと同様削り、その部分が汎用コアであると想定しなければなりません。そうするとCore i7 8700Kの性能はiGPUの部分を汎用コアに置き換えたことで単純に2倍になり、先程の+17%の性能を2倍してCore i7 8700KはRyzen 7 2700Xよりも+34%も高い性能差があることになります。これはRyzen 7 2700XとCore i7 8700Kの発売時期の差による優劣をなくし、またiGPU(オンボードグラフィックス)と搭載しているか搭載していないかによる優劣をなくした上での性能差になります。

この性能差を技術力の時間的な差に換算すると、CPUは1年で22%の性能向上をすることから、lnを自然対数としてln(1.34)/ln(1.22)=1.47年になり、AMDとIntelの間には1年6ヶ月分の技術力の差があることになります。AMDがIntelと同時に同じカタログスペックでCPUを発売してしまったら、Intelが1年6ヶ月前に既にリリースした性能のCPUしか出せないため、Ryzenではその差を埋めるために「オンボードグラフィックスを削ってその部分を汎用コアに割り当てる」ことでなんとか差を縮めようとしていますがそれだけでは1年6ヶ月の差を埋めることができず、先程のベンチマーク結果の通りIntel Core i7 8700KがRyzen 7 2700Xに性能で+8%勝利する結果となってしまったことになります。

Ryzen 7 2700X vs. Core i7 8086K

2018年6月8日に発売されたCore i7 8086KはCore i7 8700Kと物自体は全く同じです。ウェーハから切り取ったチップの内、動作周波数を高くできるものを8700K、高くできないものを8700として販売されていますが、その中でも特に動作周波数を高くしても正常に動作するものがCore i7 8086Kとして販売されています。

つまり上記のCore i7 8700Kの1コアあたりの性能をさらに高めたものがCore i7 8086Kです。

このように+11%ほどCore i7 8086Kが勝利しており、Core i7 8700Kが+10%の勝利だったのと比較すると性能が更に伸びていることがわかります。

Ryzen 7 2700X vs. Core i7 8700

Core i7 8700Kよりも動作周波数が低いCore i7 8700であってもRyzen 7 2700Xに勝利する結果となっています。

+2%、Core i7 8700が性能で勝利していることがわかります。

重要なことはCore i7 8700は基本動作周波数が3.2GHzしかないため電圧を下げることで消費電力を下げてTDP65Wに抑えていることです。一方でRyzen 7 2700XはTDP105Wもあります。このように消費電力を抑えつつ性能で勝つことは技術的に難しいことであり、たった+2%勝利しているというよりも+2%も勝利していると捉えることができます。

このベンチマークによる示唆は3つあります。1つ目は動作周波数が高いからといって性能が高いわけではないということ。2つ目として発熱量(消費電力)が高いからといって性能が高いわけではないということ。そして3つ目はコア数が多くても性能が高いとは限らないということです。

消費電力を下げるためには動作周波数を下げる必要がありますが、動作周波数を下げつつも高い性能を維持することは技術的に難しいことです。Core i7 8700は動作周波数を3.2GHzに低く抑えつつも、3.7GHzのRyzen 7 2700Xに勝利しています。

また1コアあたりの性能を向上させるよりも、コア数を単純に増やすほうが技術的には簡単です。Intelでさえ2004年にはこれ以上シングルコアだけに頼った大幅な性能向上は難しいと判断しマルチコア化に舵を切りました(ヘネパタ第5版P4の3段落目参照)。しかしIntelは1コアあたりの性能を犠牲にしてまで多コア化はせず、世代を重ねてコア数を増やしても1コアあたりの性能を維持するか微増させています。1コアあたりの性能を犠牲にしてコア数を増やすことは実は技術的に簡単です。その方法に甘んじたのがRyzenであり、コア数は多いけれども性能が出ないのはそのためです。世の中のアプリケーションはスレッドレベル並列性が高くありません。コア数が多くてもそれを使い切るだけのスレッドレベル並列性がない場合がほとんどなので、このような実際的なベンチマークではRyzenはCoreに負ける結果になってしまいます。

Ryzen 7 2700XはCore i5 8600Kにすら勝てない

第2世代RyzenのフラッグシップモデルであるRyzen 7 2700XをIntel Coreプロセッサとベンチマーク比較してみます。Core i7 8700KだとIntel Coreプロセッサが圧勝しすぎてしまうので1グレード低いCore i5 8600Kとまずは比較します。

Core i5 8600KはTDP95Wプロセッサであり、TDP105WのRyzen 7 2700Xとほぼ同等とみていいでしょう。発熱量が大きいプロセッサほど高い性能を出しやすいので、TDP105WのRyzenに対してTDP95WのIntel Coreという時点でRyzenが有利な条件になっていますが、そのくらいはIntelとAMDの技術力の差を考慮し許容してあげなければならない範囲です。

このように+2%、Core i5 8600KがRyzen 7 2700Xに勝利しています。AMDの技術力がIntelと同等と仮定した場合、Core i7 8700K相手でもRyzen 7 2700X側が+8.6%勝利しなければならないのですが、実際はCore i5 8600K相手でもRyzen 7 2700Xが逆に+2%の差をつけられて負ける結果となっています。

本来は、5ヶ月も後に発売されており、かつCore i5 8600K相手であることからRyzen 7 2700Xが勝利しなければならないのですが、実際はCore i7 8700Kを持ち出すまでもなくCore i5 8600KでもRyzen 7 2700Xに勝ってしまったわけです。

しかも価格面をみても、Core i5 8600KのほうがRyzen 7 2700Xより1万円ほど安くなっています。

さらにCore i5 8600KにはiGPU(オンボードグラフィックス)が搭載されておりグラボ無しで4K60fpsトリプルディスプレイにできます。一方でRyzen 7 2700Xはコア数を8コアまで増やすためにオンボードグラフィックスを削ったプロセッサなので、グラボがないと画面すら映りません。

性能も高く、価格も安く、さらにiGPU搭載となると、合理的判断をするならばRyzen 7 2700XよりもCore i5 8600Kを選択することになります。ただし、非常にスレッドレベル並列性が高いアプリケーションに特化して使うのなら8コアのRyzen 7 2700Xを選択してもいいと思いますが、一般の人にとってはそのような用途で使うことはほぼないでしょう。将来どのような用途で使っても性能を出すことができるオールラウンドなCPUを選びたい場合はIntel Coreのほうが失敗がないです。

2017年発売第8世代Intel Core Coffee Lakeプロセッサ発売から5ヶ月経過しているので本来は+8.6%ほど第2世代Ryzenが性能で上回らなければならなかったが結果は真逆でRyzenの惨敗

プロセッサは後に発売した製品のほうが有利です。これはJohn L.HennessyとDavid A.Pattersonによる著書ComputerArchitecture邦訳第5版(通称ヘネパタ)のP3~P4に書いてある通り「マイクロプロセッサは、実装テクノロジ(集積度)の発展とアーキテクチャの改善の両輪により年率22%の性能向上を達成」する法則があります。2017年11月に発売されたIntel Core Coffee Lakeプロセッサと、2018年4月に発売された第2世代Ryzenプロセッサは約5ヶ月の時間差があるので、1.22(22%の性能向上を表す)の5/12乗(12ヶ月のうち5ヶ月分)は1.086になるため、本来ならば第2世代RyzenプロセッサはIntel Core Coffee Lakeプロセッサの+8.6%ほど勝っていなければなりません。

Ryzen 7 2700XはCore i7 8700Kをカウンタパートとして意識してリリースされたプロセッサです。Ryzen 7 2700Xの価格はCore i7 8700Kとほぼ同じですし、TDPもRyzen 7 2700Xの105WとCore i7 8700Kの95Wで高発熱(高消費電力)帯のCPUであり、また2700Xと8700Kの型番からもわかる通り、ともにグレード7のプロセッサであり高クロック版のプロセッサであることもわかります。

つまり5ヶ月遅く発売されたRyzen 7 2700Xは、同じ価格帯のCore i7 8700Kに+8.6%ほど勝っていなければおかしいことになります。ですが実際はRyzen 7 2700XはCore i7 8700Kに勝つどころか全く歯が立たずCore i5 8600Kにも負ける結果になっています。これは単純にAMDのマイクロアーキテクチャ設計技術と集積回路製造の技術力がIntelより劣っていることに起因します。

第2世代Ryzenはオンボードグラフィックス(iGPU)を削り空いた場所に4コア追加したもののIntel Coreに勝てず

実はRyzenではオンボードグラフィックス(iGPU)が搭載されていないので、マザーボード付属のディスプレイ出力端子で画面を映すことができません。

これは意外と知られていない事実だと思います。

しかしIntel Coreプロセッサはオンボードグラフィックスを搭載しています。

第9世代Intel Coreプロセッサのダイ(チップ)の画像は以下の通りです。

左側の青色の部分がオンボードグラフィックス(Integrated GPU)です。そしてその右にある黄色の部分が8コアの部分です。この黄色の部分が汎用コアになります。上に4つ、下に4つ対称的にブロックがあり合計8つのブロックがあることが視覚的にわかります。

ここで重要なことは右側のオンボードグラフィックスのためのチップ面積がかなり大きいということです。この青色のオンボードグラフィックスの部分に汎用コアを追加すれば、上に2つ、下に2つで4コア程度は追加できます。

実際そのようにオンボードグラフィックスを削ったものがCore-X(KabyLake-X,Skylake-X)というモデルになりますが、Core i7 9700KやCore i5 9600KやCore i3 9350KFのようなCoreプロセッサは上の画像のようにオンボードグラフィックスを搭載しています。

一方で、Ryzen 7 2700Xは以下のようにオンボードグラフィックス用のチップ部分がありません。

横長の長方形が左側に1つ、右側に1つで合計2つ見えます。この横長の長方形が4コアのブロックであり、これが左右に1つずつあるので合計8コアになっています。

この中にはどこにもオンボードグラフィックスに相当する部分がありません。Ryzenはオンボードグラフィックスを削る代わりに汎用コアを4つ割り当ててコア数を増やす手法でIntel Coreプロセッサに追いつくことをコンセプトにしているからです。1コアあたりの性能ではIntelに勝てないので、代わりにコア数を増やして「スレッドレベル並列性が高い用途」ではIntel Coreを上回ることを狙ったのがRyzenです。

このように、オンボードグラフィックスを削ってその部分に汎用コアを割り当てたRyzenと、オンボードグラフィックスを搭載しているIntel CoreではIntel Core側にハンデがあります。オンボードグラフィックスを搭載している分だけ汎用コアのために使えるチップ面積が狭くなるためコア数を増やせません。しかし、オンボードグラフィックスを搭載しているというハンディキャップを抱えながらもCore i5 9600KがRyzen 7 2700Xに性能と価格ともに勝利したのは上述した通りです。AMDの技術力はIntelより劣っているのでオンボードグラフィックスを搭載してしまってはIntel Coreに勝てません。そこで仕方なくオンボードグラフィックスを削ってその部分にコアを割り当ててコア数を増やしましたが、結果としてIntelとの技術力の差を埋めることができずCore i5 9600Kにも負けてしまったわけです。半導体企業は設備投資額の大きさで勝ち負けが決まってしまうので、あれだけIntelとAMDの資金力に差がありながらRyzenは十分健闘しているほうだとは思います。

第2世代Ryzenは10コアを諦めて動作周波数向上を優先

第2世代Ryzen(Pinnacle Ridge)プロセッサは12nmプロセスを採用したのが大きな改善点です。第1世代Ryzenプロセッサは14nmプロセスで製造されていました。逆に言えばそこしか変わっていません。

以下の画像は第2世代Ryzenプロセッサのものです。

先程説明した通り、横長の長方形が左右に一つずつ見えますが、この横長の長方形1つが4コアに相当します。左右に1つずつあるので合計8コアです。

次に第1世代Ryzenのチップ(ダイ)は以下の通りです。

何も変わってないことがわかると思います。色が違うと指摘する人がいるかもしれませんが、実はこの色というのは「魅せる」ために後から画像編集で着色しているものです。これはAMDに限らずIntelも昔からやっていることですが、本来半導体のダイというのはシリコンが材料ですからこんな青や赤の色をしているわけがありません。着色せずそのままだと単色で地味な色をしています。

しかしそれでは報道資料などで視覚的に映えないので、色を付けることで回路図を見えやすくしています。つまり第2世代Ryzenは赤で第1世代は青なのは、そうやって着色しているだけで本質的な違いはありません。見るべきところは色ではなく汎用コアやキャッシュやiGPU(オンボードグラフィックス)がどのように配置されているかというブロックの部分です。

このようにブロックの配置は同じであり、第2世代のZen+アーキテクチャというのは第1世代のZenアーキテクチャを微細化し動作周波数を上げただけのものです。そのためシビアなメモリ相性などの問題点はそのまま引き継がれています。

第2世代Ryzenでは12nmプロセスまで微細化を進めたことで、第1世代Ryzenよりも低消費電力化が可能になりました。つまりその空いた消費電力を使ってコア数を増やすこともできましたが、コア数を増やしても「Ryzenは1コアあたりの性能が低い」という弱点を補うことができないため、動作周波数を上げることを優先したのが第2世代Ryzenです。動作周波数を上げると消費電力も上がってしまうため、12nmプロセスにすることで低消費電力化をはかり、その低消費電力化できた分を動作周波数向上に割り当てることで第2世代Ryzenでは動作周波数を第1世代Ryzenより上げることに成功したことになります。

Ryzenは汎用目的プロセッサというよりも特定目的プロセッサ

CPUは本来どんな用途でも使える汎用(general purpose)プロセッサです。GPUのようにグラフィック計算処理に特化したものを特定目的(special purpose)プロセッサといいますが、本来CPUはどのような用途でも性能を出せるように汎用性を重視します。

しかしRyzenプロセッサはCPUであるにもかかわらず、動画エンコードのようにスレッドレベル並列性が高い特定の目的に特化したCPUです。

No Free Lunch定理という数理的な定理がありますが、特定の用途で性能を出そうとすると他の用途における性能を犠牲にしなければなりません。以下の図はNo Free Lunch定理を視覚化したものですが、ごく一部の「特殊用途」で性能を出すように設計すると、他の用途での性能が低くなってしまいます。

実は上の図において「特殊用途」も「汎用」も積分値は全く同じになります。つまり動画エンコードのようなスレッドレベル並列性が高い用途で高速になるようにRyzenを設計したことによって、その他の汎用的な用途での性能が犠牲になり遅くなってしまっていることを意味しています。

本来ゲームというのは並列性が比較的高く抽出できる用途です。しかし2017年から流行しているPUBGのようなバトルロワイヤルゲームでは、プレーヤー間の同期をリアルタイム性を維持して同期を取るため1つのコアで各オブジェクトの処理をさばいています。複数のコアで分散させて処理してしまうと待ち合わせの同期処理が頻繁に必要になりかえって遅くなるからです。

つまりPUBGのようなゲームでは1コアあたりの性能が高くないとフレームレートが伸びません。これはPUBGに限らず、他のメーカーがこぞって作成した同種のゲームでも同じです。

そのため一般論としてはRyzenのような「コア数重視で1コアあたりの性能は低い」プロセッサはゲーム向きなのですが、PUBGのようなゲームではIntel Coreのような「コア数よりも1コアあたりの性能が高い」プロセッサが向いています。PUBGの大会に出場しているプロゲーマーが軒並みCore i7を搭載したPCを使用しているのもIntel Coreのほうが1コアあたりの性能が高くフレームレートが伸びるといった理由があります。

動画エンコードや並列性の高いゲームは一握りのPC用途です。様々な用途で使うことを想定していたり、また現時点でどのような目的でPCを使うか確定していない場合は、どのような用途でも性能を発揮できる汎用プロセッサであるIntel Coreを選んでおいたほうが失敗がありません。