8TBのSSDを実際に使用したレビュー Micron製5210 IONシリーズMTFDDAK7T6QDE-2AV1ZABYYの評価 SATA接続で一般的な2.5インチ7mm厚サイズ

米国Micron社が販売する8TB帯大容量SSDの5210 ION MTFDDAK7T6QDE-2AV1ZABYYを入手したのでレビューしてみます。5210 IONシリーズの中では最大容量の7.68TBであり事実上の8TBSSDとして展開されています。

この5210 IONシリーズはエンタープライズ向けとして販売されています。日本国内のPCショップでも出回り始めてから急に脚光を浴びた1100シリーズの上位かつ後継モデルです。

エンタープライズ向けといっても米国Amazon.comでは普通に個人向けとして売られており簡単に個人輸入可能です。このSSDは「SSDは高々4TB」という認識が既に過去のものであることを再認識させられる注目に値する製品であり海外では注目されているので詳細にレビューしてみます。

エンタープライズ向けながらSATA接続であり厚さも7mmといったごく一般的なSSDと同じサイズです。

他社のエンタープライズ向けSSDは厚さが15mmだったり、接続規格がSASだったりと一般的なPCでは扱いづらいものになっていますが、このMicron 5210 IONシリーズはごく普通のSATA接続のSSDであり、単に今出回っているSSDの中では容量が飛び抜けて大きいという違いだけです。

14TB品が存在する3.5インチHDDであっても実際は4TB~8TB品を購入する人が多いので、SSDで8TBもあれば十分大容量のストレージだと言えます。

Micron 5210 ION(2018年モデル)は日本市場のSSD価格を大幅に下げることに貢献した1100シリーズ(2016年発売)2TBより上位の後継品

この5210 IONシリーズが発売される前の2018年2月ごろにMicron製の2TBのSSDが4万円程度で出回り始めたことでSSD価格下落に拍車がかかりました。そのMicron製SSDが1100 MTFDDAK2T0TBN-1AR1ZABYYです。これはMicron公式サイトにもデータシートが公表されているほど海外ではメジャーな製品であり、実際に米国Amazon.comでは2016年から取り扱われていた製品です。

今回私がレビューする5210 IONシリーズは2018年11月に発売されたQLCタイプのSSDです。

SSDは2.5インチで7.68TBを既に達成 一方でHDD(2.5インチ)は4~5TB止まりで成長鈍化

2.5インチサイズのHDDは未だに存在しておりPS4などでも採用されています。

しかし2.5インチHDDでは物理的な大きさの制約のため、プラッタ枚数をこれ以上増やすことができず容量の成長が止まってしまっています。

2.5インチHDDでは7mm厚でたったの2TBまでしか達成できません。7mm厚は一般的なSSDで採用されている厚さです。

そこで2.5インチHDDでは容量を増やすために厚さを15mmにして、ようやく容量を4TBまで伸ばしました。現在でも最大容量は5TB止まりとなっています。

厚さを7mmから15mmにして容量が2倍になったというのは、単純にプラッタ枚数を増やした、それだけです。HDDの容量はトラック密度の微細化による増加は既に限界に到達し、あとはプラッタ枚数を増やすか重ね書きをするかの選択肢しかありません。

重ね書き技術を使ってもそれは容量をスケーラブルに増やすだけの伸びしろはありません。

一方でSSDは2.5インチサイズで7mmという厚さにもかかわらず既に単品で8TBを達成してしまいました。

容量でも既にSSDがHDDに勝っている 「速度ならSSD、容量ならHDD」の構図は過去のもの

HDDは3.5インチでまだ14TB程度です。以前は数年で2倍程度の速さで容量が増加していたものですが、現在では数年で1割程度のペースになってしまいました。

HDDが大容量化の限界を迎える一方で、2019年には東芝から2.5インチ15TBのSSDが発表されました。SSDはチップの多層化技術で1年で1.5倍も容量を増やし続けています。

3.5インチHDDは重ね書き技術で16TBや20TBを目指している真っ最中です。HDDが大容量化に苦戦する中でもSSDはあっけなく15TBを達成してしまいました。

しかも2.5インチサイズで15TBも達成しています。これをHDDと同じ3.5インチサイズに詰め込んだSSDも存在しますが、そうなるとHDDは絶対容量でもSSDに全く勝てない状況となってしまっています。

以前は「SSDは速いけど容量が小さい」というのが常識でした。しかし既に容量でもSSDがHDDを上回っており、「容量ならHDDのほうがSSDよりも大きい」というのはもはや時代遅れの認識です。

5210 IONシリーズは2018年に発売された64層QLCタイプのSATA接続SSD

Micron 5210シリーズは2018年11月に発売されたQLCタイプのSSDです。Micron製64層3D QLC NANDを採用しています。NAND Flashダイ1枚あたりの容量は1Tbitです。

1世代前の32層3D TLC NANDは384Gbitでした。これは2TB SSDで有名になった1100シリーズで採用されていたNANDです。64層のTLC NANDは256Gbitと512Gbitの2種類が製品化されています。積層数が2倍になったのに768Gbitではないのは面積を縮小してコストで有利にするためです。新しい設備は減価償却が進んでいないため、同じダイ面積で展開すると1製品あたりの製造原価が高額になってしまいます。そこで同時に面積縮小も実施して256Gbitと512Gbitを展開しています。

QLCでは1Tbitが展開されているため、ダイ面積で言えばTLC 512Gbitより大きいです。しかし同一容量を実現するために必要なNAND Flashダイ枚数が少ないため全体で見ればQLCはTLCより低コストです。

この1Tbitの64層 3D QLC NANDはMicron社のシンガポール工場で製造されています。シンガポール工場はMicronのNAND Flashにおいて中心的役割を果たす工場です。一方でDRAM分野では日本の広島工場がNANDでいうシンガポール工場と同じ中心的役割を果たしています。

このシンガポール製3D QLC NANDを64枚搭載してこの8TBSSDは実現されています。64×1Tbit(128GB)=8,192GBあるはずですが差分の512GBは予備領域です。SLCバッファとして用いたりエラーが発生したブロックの代替として確保してあります。

QLCタイプだけあってTLCタイプよりも読み書き速度が少し遅くなっています。

7.68TBモデルの場合は、シーケンシャル読込速度が最大540MB毎秒で、シーケンシャル書込速度が360MB毎秒です。

SATA接続のSSDではシーケンシャル読込速度550MB毎秒、シーケンシャル書込速度540MB毎秒が一般的なので、書込速度は平均より遅めです。実際のベンチマーク結果は後半に掲載します。

5210 IONのTBW(総書込バイト数)は最大11.21ペタバイト ただし4Kランダムアクセス100%で書込み続けると700TB

QLCタイプのSSDで気になるのは書込み耐久性です。これについてはアクセス形態ごとに詳細なデータがMicronから公表されています。

上図のうち7.68TBモデルは一番右の列で、一番上の行は100%シーケンシャル書込みが行われた場合の総書込バイト数です。100%シーケンシャル書込みというのは、このSSDを使い始めてから使い終わるまでシーケンシャル書込みだけを行った場合という意味です。

このSSDにおいてシーケンシャル書込みの定義は「128KBを最小単位とし、128KBの整数倍の長さのデータ書き込み」になっていることもわかります。

これが下段の行になっていくに連れて単位が小さいランダムアクセスになっていきます。

最小が4Kバイトのランダムアクセスなのは、OSのメモリ管理では4Kバイト単位で物理メモリを「ページ」として区切っているからです。ページテーブルを使って論理アドレスを物理アドレスに変換するための仕組みを「ページング」といいますが、このページングは主記憶(メモリ)を4Kバイトごとに区切るように実装されていることが多いです。

理由はHDDの物理セクタが4Kバイトで規格化されたからです。HDDはそもそもが遅い補助記憶(ストレージ)なので、この4Kバイトに揃えてパフォーマンスを少しでも向上させるために4Kバイト刻みが主流になりました。

HDDをシステムドライブにしているパソコンを長時間使用していると動作が重くなってくることを体験したことのある人は多いと思います。これは主記憶(メモリ)上に置ききれなくなった4KBのページを補助記憶(HDD)に掃き出すページアウトが行われ、同時にHDDから4Kバイトのページがメモリ上に読み込まれるページインがひたすら繰り返される「スラッシング」という現象が起こるためです。SSDにするとパソコンが軽くなるのはこのスラッシングによる速度低下がなくなることに起因します。そのため4Kバイト単位のランダムアクセスというのは実効的な計測において重要です。このあたりのページングの仕組みがわからない場合は大学で教科書として使われる「オペレーティングシステム」の名称がついた学術的な書籍を読むことをおすすめします。

実際のSSDでは最小記憶単位(セクタ)が512バイトだったり最小書込み単位(ブロック)が128Kバイトだったりと様々です。しかし、SSDのベンチマークでは最小でも4Kバイト単位でのランダムアクセスで計測することが主流になっています。

上図を見てみると、4KBランダムアクセスでは1.92TBと7.68TBモデルでTBWに差がありません。16KBランダムアクセスの場合では7.68TBモデルのTBW(2520TB)は1.92TBモデルのTBW(700TB)の3.6倍となっています。

このように4KBランダムアクセスと16KBランダムアクセスで差が付くのは、このSSDは最小書込み単位(ブロック)が8KBだからです。

たとえ4KBだけ書込むとしても、8KB分のブロック全体を書換えることになるということです。

つまりこの5210 IONシリーズは8KBを1ブロックとして書き込む仕様になっていることがわかります。これは1バイト文字1つのみを書き込もうが8Kバイトのブロック書込みが発生するということです。SSDは4KBか8KBを読書の最小単位にしています。

5210 IONシリーズはシーケンシャル書込み耐久性が非常に高いため、例えば防犯カメラのような一筆書きの書込みになる用途など、ランダムアクセス要素が少ない用途に向いています。OSをインストールするシステムドライブ用の場合にはMLCかTLCのNVMeSSDがおすすめです。

書込み速度とランダム書込み耐久性を求めるならTLCタイプの5200 ECOシリーズがおすすめ

5210 IONの発売より少し前の2018年3月に発売されたMicron 5200 ECOはTLCタイプのSSDです。こちらのほうが書込み耐久性が高いものになっています。64層の3D TLCです。

上図はMicronが公式発表している書込み耐久性の表ですが、5200 ECOシリーズは左側の列です。5200 PROや5200 MAXは容量を少なくする替わりに書込み耐久性を向上させたものであり、これは個人向けとしてAmazon.comでもあまり出回っていません。個人が買うなら選択肢になるのは5200 ECOです。

この5200 ECOの7.68TBモデルは総書込バイト数(TBW)が8.4ペタバイト(8400テラバイト)もあります。実はこの8400TBというTBWは、4KBランダムアクセスが100%の場合という非常に厳しい条件下のものです。SSDを使い始めてから使い終わるまで常に4KBのランダムアクセスのみで使い続けた非常に厳しい前提でのTBWでも8400TBを確保しています。

ここまで大きいTBWを確保できるのはTLCタイプであるためです。QLCは1回のデータ書込みであっても多数回NANDを上書きする必要があるため大きくNANDを消耗させます。

TLCであれば少ない上書き数で1回のデータ書込みを行うことができるので、これが8400TBものTBWになっています。

もしCドライブ用(OSをインストールするシステムドライブ用)としてSSDを選ぶのなら、5210 IONよりも5200 ECOのほうがおすすめです。

私がこの記事を書いている時点では、米国Amazon.comにおいてAmazon.com販売かつ発送の5200 ECO 7.68TBモデルが掲載されています。

DiskInfo64で取得したステータス一覧

PCに接続しクイックフォーマット直後にDiskInfo64で確認したステータスです。

SNだけ白抜きにしてあります。

ファームウェアについてはMicron公式ページから「Micron Storage Executive」をダウンロード・インストールすることで更新チェックができます。開封直後の状態でもファームウェアは最新でした。

クイックフォーマット直後のディスク容量

Windowsの場合はディスクの管理からドライブの作成を行います。その後クイックフォーマットです。本格的なフォーマットをすると総書込バイト数を食いつぶしてしまうことになるのでクイックフォーマットにします。

これはまだ何もデータを書き込んでいないフォーマット直後の状態です。空き容量が約7TBになっているので、フォーマット後は空き容量が約7TBのSSDになります。

CrystalDiskMarkでのベンチマーク結果

実際にファイルを3分の2程度書き込んだ後にCrystalDiskMarkでベンチマークを実施しました。本来はギリギリ100%の99%ほどファイルを書き込んだ後のように厳しい前提条件の下でベンチマークを実施することが望ましいのですが、容量カラの状態でベンチマークを実施している人が大多数なので3分の2程度としておきました。

ディスクの管理でドライブを作成したときはZドライブとしてましたが、実際に使用するときにEドライブへ変更してあります。

このように書き込み速度については公称の360MB毎秒よりも+10MB毎秒ほど速い速度がでました。読込速度は公称の540MB毎秒ほぼぴったりです。

ランダム書込みについては63MB毎秒でほぼ一定になっています。重要なのは「4K Q32T1」で128KBデータをランダムに書き込んでいく速度も、「4K Q1T1」で4KBデータをランダムに書き込んでいく速度も同じだということです。これはこのSSDでは128KBを1ブロックとしているため、その1ブロック全体に書き込もうが、その1ブロックの中の4KB部分だけ書き込もうが速度は同じということを指しており、上述したTBWの部分での分析と整合的です。

そしてランダム読込における「4K Q1T1」の速度がランダム書込における「4K Q1T1」の速度より遅くなっていますが、これは他のメーカーのSSDでもよく見られる現象です。

このくらいの速度があればゲーミングPCにおいてゲームインストール用ドライブとしてこのSSDを使えばゲームロード速度が大きく向上します。HDDではランダム読込み速度が1MB毎秒を下回り0.数MB毎秒になってしまいます。ゲームが落ちたときに急いで復帰する必要のある場合ではSSDのほうがはるかに有利です。

容量でも速度でもHDDを上回ったSSDはあとは予算の問題 予算に余裕がある人ならSSD一択

ゲーミングPCでは、WindowsをインストールするCドライブ(システムドライブ)のみを1TBや512TBのSSDにして、ゲームインストール用のドライブは4TB以上のHDDにしている構成が多いです。

CドライブはOS用、Dドライブはデータ用と分ける手法はSSD登場以前から一般的です。OSをクリーンインストールする場合を考慮するとOSとデータは分けておいたほうが便利だからです。

しかしそれならばDドライブもSSDにしてしまったほうが、静音化(無音化)にもなるし消費電力も下がるしリードライト速度も向上するということでいいことづくめです。

それでもなぜDドライブはHDDにするパターンが多いのかといえば、PCの価格が高くなってしまうからです。

理想的にはCドライブに1TBのNVMeSSD、容量が必要なゲームインストール先をDドライブ8TBSSDのように両方ともSSDにしてしまうのが理想です。Steamではデフォルトのゲームダウンロード先はCドライブですが、設定でDドライブに変更することができます。

しかしPS4でもそうですが、大容量SSDを組み込んでしまうと販売価格が高くなってしまい多くの人が手が出せなくなってしまいます。

そのため世の中のゲーミングPCでは、価格を安く抑えるためにDドライブはHDDを採用していることが多くなっています。

ですがこれも結局は「高価だけど性能が高いIntel、安いけど性能が低いAMD」の棲み分けと同じで、「高価だけど高性能で無音低消費電力なSSD、安いけど性能が低く騒音高消費電力なHDD」で棲み分けされているだけです。

予算があるのならゲーム等をインストールするデータ用のドライブもSSDを採用するに越したことはありません。せっかくCドライブをSSDにして高速化しても、ゲームをやる目的のPCでゲームインストール先がHDDでは、HDDの遅さが足を引っ張ることになります。予算に余裕がある人ならDドライブもSSDの採用を考えてもいいくらいにSSDは大容量化し安くなってきています。