おすすめCore i9 10900Kのベンチマーク性能比較レビュー Ryzen 9 3950Xに対し+15%の大差で勝利 Ryzen 9 5950Xにも勝つ性能

Core i9 10900Kは2020年5月に発売されたデスクトップ向け第10世代Intel Core(Comet Lake-S)プロセッサの中ではフラッグシップのモデルです。

既に当サイトでは第3世代Ryzenを第10世代Intel Coreと比較しています。2018年発売の第9世代Intel Coreプロセッサシリーズであっても2019年発売の第3世代Ryzenに余裕で勝てていましたが、今回の第10世代Intel Core i9 10900Kの主たる比較対象は第3世代Ryzenプロセッサになります。第4世代Ryzenとの主たる比較対象は第11世代Intel Core(Rocket Lake)になりますが、第4世代Ryzenと第10世代Intel Coreも参考のために比較していきます。発売日が前の第10世代Intel Coreが、後に発売された第4世代Ryzenに勝ってしまったら第4世代Ryzenが大きく劣っていることを意味するからです。

Core i9 10900Kの詳細スペック

メーカー・モデル名Core i9-10900K (第10世代Intel)
コア数10コア20スレッド
基本動作周波数3.7GHz
最大動作周波数5.3GHz
全コア同時最大周波数4.9GHz
発売日2020年5月
セキュアブート対応
vProテクノロジ対応
同時マルチスレッディング有効
定格外オーバークロック対応
TDP(≒消費電力)125W
L1キャッシュ640KB
L2キャッシュ2.5MB
L3キャッシュ20MB
最大メモリサイズ128GB
メモリタイプDDR4-2933
メモリチャネル2
メモリ帯域幅45.8GB毎秒
コードネームComet Lake-S
コンピュータの形態デスクトップ
グラフィクス(iGPU)UHD Graphics 630
iGPU最大画面数3
iGPU最大ビデオメモリ64GB
iGPU基本周波数350MHz
iGPU最大周波数1,200MHz
iGPU EU数24
iGPU単精度コア数192
iGPU単精度性能0.4608TFLOPS
ソケットLGA 1200
アーキテクチャComet Lake
プロセスルールIntel14nm
SIMD拡張命令Intel AVX2, SSE
SIMD演算器256bit FMA×2
SIMD倍精度演算性能16 FLOPs/cycle
AI(深層学習)拡張命令非搭載

Core i9 10900Kのカタログスペックは上記の通りです。このスペック表で注目すべき点を記載していきます。

Core i9 10900Kでは8コアのCore i7 10700K,Core i9 9900Kから1コアあたりの性能向上と2コア追加を同時に達成

Intel Coreプロセッサでは必ず守っているルールがあります。それはコア数を増やしても1コアあたりの性能を最低でも維持するか、1コアあたりの性能も向上させつつコア数を増やすというものです。Core i9 10900KはCore i7 10700Kから1コアあたりの性能も高めつつもコア数を増やしているため、全コア同時稼働時の性能も単コアの性能も共に向上しています。また前世代のCore i9 9900Kと比較しても、1コアあたりの性能も向上しており同時にコア数も増えています。Intel Coreプロセッサの「1コアあたりの性能を落とさずにコア数を増やす」というルールはCore i9 10900Kでも守られていることになります。

一方で、第3世代Ryzenはコア数を増やすと1コアあたりの性能を犠牲にしているモデルが多いです。例えばRyzen 5 3600X(6コア)→Ryzen 7 3800X(8コア)においては1コアあたりの性能も向上させつつコア数も2コア増やしています。これは合格です。しかしRyzen 7 3800X(8コア)→Ryzen 9 3900X(12コア)においては 1コアあたりの性能が下がってしまっており、コア数を増やすために単コアの性能を犠牲にしています。Ryzen 9 3900X(12コア)→Ryzen 9 3950X(16コア)も同様であり、コア数を増やすために単コアの性能が落ちており犠牲になっています。つまり第3世代RyzenのZen2マイクロアーキテクチャと半導体製造プロセスでは、1コアあたりの性能を落とさずにコア数を増やすのは6コア→8コアが限界だったということです。

Core i9 10900Kの全コア同時最大クロックは4.9GHzまで上昇 前世代Core i9 9900Kの4.7GHzから0.2GHz向上 第3世代Ryzenの全コア同時最大クロック4.2GHzよりも大幅に高い

マルチコア化で重要なことは全コアが同時に稼働したときの全コア最大クロックがどこまで伸びるかどうかです。せっかくコア数を増やしても動作クロックが大幅に下がってしまっては、仮にスレッドレベル並列性が高い特殊なアプリケーションを実行するとしても多コアCPUのメリットが薄れてしまいます。

前世代の第9世代Intel Core i9 9900Kでは8コア全てが稼働するときの全コア同時最大クロックは4.7GHzでした。それが第10世代Intel Core i9 10900Kでは、全コア稼働時の最大クロックが4.9GHzまで伸びています。コア数が増えたにも関わらず全コア最大クロックも伸ばしているため、コア数が増えたことで最大クロックが下がってしまうという第3世代Ryzenのようなことは起きていません。

第3世代Ryzenの場合、Ryzen 9 3950X(16コア),Ryzen 7 3700X(8コア),Ryzen 5 3600(6コア)は全コア同時最大クロックはたったの4.0GHzしかありません。特に8コアのRyzen 7 3700Xの全コア同時最大クロックが4.0GHzしかないのは特筆すべきところです。

さらにRyzen 9 3900X(12コア), Ryzen 7 3800X(8コア), Ryzen 5 3600X(6コア)でも全コア同時最大クロック4.2GHzしか達成していません。この4.2GHzという数字は2019年発売の第3世代Ryzenの中では最大値です。2020年7月発売のRyzen 9 3900XT(12コア)でも全コア同時最大クロックは4.6GHz止まりです。2018年時点で8コア同時最大クロック4.7GHzを達成していたCore i9 9900Kに、2020年7月に発売された8コアのRyzen 7 3800XT(全コア同時最大クロック4.5GHz)は敗北しています。

つまり2020年7月発売の第3世代Ryzenをもってしても全コア同時最大クロックは4.6GHz止まりであり、Core i9 10900Kの4.9GHzに及んでいないことがわかります。また単コア最大クロックだとCore i9 10900Kが5.3GHz、Ryzen 9 3900XT,Ryzen 7 3800XTが4.7GHzであり更に差が開いてしまいます。

Core i9 10900KはTPMチップ対応でUEFI(BIOS)の改竄チェックとセキュアブートが可能

Core i9 10900Kは個人向けに売られているモデルも、法人向けに売られているモデルも全く同じです。そのため、個人向けであっても情報セキュリティ上重要な機能は当然のように搭載されています。一方で、AMD Ryzenの場合はRyzen Proという法人向けにしか売られていない限られたモデルでしか情報セキュリティ上重要な機能が搭載されていません。よって、普段一般消費者がパソコンショップやAmazonで目にするAMD Ryzenプロセッサはセキュリティ機能が非常に貧弱です。

情報セキュリティ機能の有名なところでいうと、CPUがTPMチップに対応しているかどうかです。TPMチップはマザーボード上に搭載するチップであり、これが搭載されているとUEFI(BIOS)が改竄されていないかどうかをチェックする機能が働きます。当然ながら、ブートするWindows10等のOSの改竄チェックも行われます。またブートドライブ(Cドライブ)を丸ごと暗号化するためにはハードウェアのサポートが必要ですが、そのサポートを行うのがTPMチップとCPUのセキュリティ機能です。

これらの機能を提供するのはIntel CoreプロセッサだとIntel TXT(Trusted eXecution Technology)というものが該当します。AMDの場合はIntel TXTのパクリでAMD GuardMIという機能を用意していますが、これはRyzen Proにしか搭載されていないため法人向けのみの提供です。そのためAMD愛好家でもAMD GuardMIを備えたRyzenを使っていないユーザは多いでしょう。普通に売られているRyzenプロセッサにはこのAMD GuardMI機能が搭載されていません。

このAMD GuardMIを個人消費者向けのRyzenに搭載してしまうとCPU価格が高くなってしまうため、「Intel Coreより安いAMD Ryzen」というマーケティング上好ましくなく、故意に情報セキュリティ機能が外されています。

他方、Intel CoreはCore i9 10900Kを含めて型番500以上のプロセッサではIntel TXTが有効化されているので、個人ユーザーにとっても情報セキュリティ上のメリットが大きいです。

Core i9 10900Kと第3世代Ryzen(2019年度発売)を比較

冒頭でも記載したように、第3世代Ryzenの主たる比較対象は第10世代Intel Coreシリーズですが、第3世代Ryzenの性能があまりにも低すぎてCore i9 10900Kのカウンターパートとしてふさわしくありません。

第3世代Ryzenは2017年発売の第8世代Intel Coreでも十分勝ててしまうため、Core i9 10900Kとまともに勝負になるのは最低でも第4世代Ryzenからです。しかし、2017年3月に第1世代Ryzen、2018年4月に第2世代Ryzen、2019年7月に第3世代Ryzenと発売されてきたにも関わらず、歩留りの悪さから2020年7月になっても第4世代Ryzenが出るどころかRyzen 9 3900XTという焼き直し品しか発売されなかった有様なので、とりあえずCore i9 10900Kが発売された時点で存在している第3世代Ryzenプロセッサシリーズとベンチマーク比較していくことにします。

Core i9 10900K vs. Ryzen 9 3950X

2019年7月に発売された第3世代Ryzenのフラッグシップモデル、Ryzen 9 3950Xと比較します。このRyzen 9 3950XはRyzen愛好家の精神的支柱とも言えるほど第3世代Ryzenの中でも最重要のCPUです。

16コアのRyzen 9 3950Xが10コアのCore i9 10900Kに15%の大差であっけなく敗北してしまっています。Ryzen 9 3950Xが敗北した原因は、全コア同時最大クロックが4.0GHzしかなく、Core i9 10900Kの全コア同時最大クロック4.9GHzと大きな開きがあるからです。単コアの最大クロックもCore i9 10900Kが5.3GHzである一方でRyzen 9 3950Xは4.7GHzしかなくこれも開きがあります。

さらにRyzen 9 3950XはCCXという4コアのブロックを4基搭載して16コアを実現していますが、そのCCXごとにL3共有キャッシュが存在しているため、「共有」キャッシュなのに4つにL3キャッシュが分散してしまっている欠陥アーキテクチャになっています。本来L3共有キャッシュは全てのコアで1つのキャッシュを共有するのが普通です。そうしないとキャッシュミスが多発するからです。L3キャッシュが別々になっていることでキャッシュミスが多発し、結局数百サイクルかけてデータを取りに行くことになり意味がありません。Ryzen 9 3950Xは4つのL3キャッシュに分割されていることでメモリアクセスコストが極めて高くパイプラインのストールが多発します。しかもキャッシュヒットになったとしても、第3世代Ryzenは第2世代Ryzenよりもキャッシュレイテンシが増加しているのでこれも性能向上の阻害要因になっています。

このように、Ryzen 9 3950Xは半導体製造プロセスルールの欠陥から歩留りがあまりにも悪く動作クロックが低いことがまず第一の敗因で、第二の敗因はZen2マイクロアーキテクチャが根本的な欠陥を抱えている点にあります。

他方、Core i9 10900Kは全10コアで1つのL3共有キャッシュを持っておりキャッシュミス率が低く、キャッシュレイテンシも低いのでLoad-Store命令ですぐにデータをレジスタまで持ってくることができます。そのためパイプラインがストールせず命令処理が高速です。このように半導体製造プロセスによる動作クロックの違いと、マイクロアーキテクチャ(特にキャッシュ)の優劣によりCore i9 10900KがRyzen 9 3950Xに大勝する結果となってしまっています。

Core i9 10900Kと第4世代Ryzen(2020年度発売)を比較

第4世代Ryzenは第10世代Intel Core i9 10900Kよりも6ヶ月も後に発売されたCPUであり、本来はもっと発売日が近い第11世代Intel Core(Rocket Lake)と比較すべきものです。

しかし、その6ヶ月も発売時期が古いCore i9 10900Kでも第4世代Ryzenに勝ててしまいます。

Core i9 10900K vs. Ryzen 9 5950X

16コアかつ発売時期が6ヶ月も新しいRyzen 9 5950Xと、10コアのCore i9 10900Kを比較してみます。

発売時期が6ヶ月も古いにも関わらずCore i9 10900KがRyzen 9 5950Xに+1%勝利してしまいます。第4世代Ryzen 9 5950Xは半導体(TSMC7nm)の身の丈以上にコア数を16コアまで増やしすぎてしまったため全体としての性能が下がってしまった好例です。

Core i9 10900K vs. Ryzen 9 5900X

次は12コアのRyzen 9 5900Xと比較してみます。このRyzen 9 5900Xも発売日はCore i9 10900Kより6ヶ月も新しいです。

12コアのRyzen 9 5900Xに対しても10コアのCore i9 10900Kが勝利しています。実は第4世代RyzenのZen3マイクロアーキテクチャは未だにSkylakeマイクロアーキテクチャを超えていません。Skylakeマイクロアーキテクチャは2015年に登場した古いマイクロアーキテクチャですが、IntelとAMDの技術的格差(特に純資産,純利益,売上高が10倍も差があることによるもの)が大きすぎて、未だにSkylakeマイクロアーキテクチャにすら追いついていません。第11世代Rocket LakeではWillow Coveマイクロアーキテクチャを元にしたCypress Coveマイクロアーキテクチャを採用し、第12世代Alder LakeではGolden Coveマイクロアーキテクチャを採用したため、Intelのマイクロアーキテクチャ更新頻度が上がったことによりIntelとAMDの差が2021年以降さらに拡大しています。

ゲーム単独の用途ならCore i9 10900Kはオーバースペック ゲームをキャプチャしリアルタイムエンコードして配信するのならCore i9 10900Kは最適

ゲーム用途だとTwitchやYoutubeの配信エンコード処理とゲームを同じ1台のPCで実行する場合にこの10900Kは有用です。

ゲーム単独ならCore i9 10900Kほどの性能は必要ありません。実際にいまだにCore i7 8700Kを使っているApexLegendsプロゲーマーがいます。その人は別PCでエンコードをしつつTwitch配信をしている著名ストリーマーでもあります。

6コアのCore i7 8700Kでは配信も同時にやるのなら別途PCをもう一台用意する方法もありますが、このCore i9 10900Kならゲームとリアルタイム動画エンコード処理の両方を同時に1台のPCで可能です。

事務作業用途なら個人・法人問わずCore i9 10900Kは汎用性が高くおすすめ 金融工学の数値計算用途にも耐えられる

ゲーム以外でこのCPUのおすすめの応用事例は、事務仕事用のデスクトップPC用途です。

たとえばExcelの再計算をするときには複数のスレッドが発生するので10コアを使い切れます。さらにExcelはIntel CoreのSIMD演算命令セットに最適化されているのでAMD Ryzenよりも高速に数値計算可能です。

2020年において急に発生したテレワーク特需において、職場からPCを貸与されず(情報セキュリティ規定が厳しい官公庁・金融機関等は普通貸与される)、各自で用意した自宅PCで職務をして良い許可が出ている場合にはこのCore i9 10900Kは事務仕事にもプライベートにも応用できるプロセッサです。

スレッドレベル並列性が高いモンテカルロ・シミュレーションもIntel Coreのほうが高速

これは実際に金融工学の数理モデルを実装して計算を走らせてみると理解できますが、モンテカルロ・シミュレーションでもIntel Coreのほうが高速です。

モンテカルロ・シミュレーションとは計算量が指数関数的に増えてしまう数理モデルにおいて、ランダム(通常はMersenne twister等で発生させた準乱数を用いる)で数千の時系列シナリオを生成し、それぞれのシナリオの平均値(期待値)を取ることで、現時点での将来予測の期待値を算出する手法です。

それぞれの時系列シナリオの計算は独立しており、別々のコアにスレッドを割り当てて並列実行することができます。全ての計算結果が揃ったら平均値を算出すればいいためです(最後は同期処理)。これはスレッドレベル並列性が極めて高い応用事例であり、AMD Ryzenが得意とする分野に一見思えますが、SIMD演算を多用した数値計算が伴う分野はIntel Coreのほうが有利です。

また、数理モデルを使ったパラメータ探索を必要とする数値計算を実行するのにも有効です。

実際に金融機関の市場部門ではCore i9プロセッサを搭載した端末が配備されています。

Core i9 10900Kは内蔵グラフィックス(Intel UHD Graphics)搭載 事務作業用途なら内蔵グラフィックスで十分

さらにこのCore i9 10900Kは内蔵グラフィックスを搭載しているため、グラフィックボードを別途用意しなくても60fps@4Kを3画面(トリプルディスプレイ)表示できてしまいます。横に画面を広くして事務作業の効率を上げることができ、わざわざ別途グラフィックボードを用意する必要がない事務作業用途に好まれるプロセッサです。そのため官公庁・民間企業では好んで採用されます。

ExcelやWordのみならずYoutube再生やTwitch再生であっても60fpsの十分なフレームレートを出してくれます。