本記事では2020年11月に発売された第4世代AMD Ryzen5000シリーズ(コードネームVermeer:フェルメール)プロセッサのベンチマーク評価を総合的にまとめています。
AMDが開発したZen3マイクロアーキテクチャを採用したプロセッサの代表的プロセッサであり、前世代と比較しキャッシュサイズやコア数は変わっていないものの、Zen2までは4コアごとに分割されていたL3共有キャッシュが8コアごとに共有されたことで、ようやく「共有キャッシュ」として機能するようになった違いがあります。しかし16コアプロセッサではこれまで通りL3キャッシュが2分割されて共有されておらず、オペレーティングシステム(Windows)が実施するタスクスケジューリングの制約でキャッシュミスになる欠点が未だに残っています。
Dell
Dell Alienware Aurora R14 【Ryzen 9 5800X3D, GeForceRTX3070, メモリ16GB, SSD512GB, 67.6ℓ】
Dell Alienware Aurora R14はCPUもGPUも自由度が高いカスタマイズが可能ですが、その中でRyzen 7 5800X3DとRTX3070にカスタマイズ済みのモデルがこれです。
Ryzen5000シリーズのベンチマーク性能比較
Ryzen5000シリーズ(Zen2マイクロアーキテクチャ:Vermeer)の各プロセッサをベンチマーク比較した結果をここにまとめています。
Ryzen 9 5950XとIntel Coreプロセッサのベンチマーク性能比較

メーカー・モデル名 | AMD Ryzen 9 5950X |
---|---|
合計コア数 | 16コア32スレッド |
基本クロック | 3.4GHz |
最大クロック | 4.9GHz |
コードネーム | Vermeer (AMD Zen3世代Ryzen 5000) |
発売日 | 2020年11月 |
AMD Pro(AMD版vPro) | 非対応 |
---|---|
定格外オーバークロック | 対応 |
TDP(≒消費電力) | 105W |
L1キャッシュ | 1MB |
L2キャッシュ | 8MB |
L3キャッシュ | 64MB |
最大メモリサイズ | 128GB |
メモリタイプ | DDR4-3200 |
メモリチャネル | 2 |
メモリ帯域幅 | 47.68GB毎秒 |
コンピュータの形態 | デスクトップ |
ソケット | Socket AM4 |
グラフィクス(iGPU) | — |
iGPU最大画面数 | — |
---|---|
iGPU最大周波数 | — |
iGPU CU数 | — |
iGPU単精度コア数 | — |
iGPU単精度性能 | — |
アーキテクチャ | Zen 3 |
プロセスルール | TSMC N7(7nm) |
Userbenchmark(Effective) | 100 |
Userbenchmark(Normal) | 187 |
Userbenchmark(Heavy) | 905 |
Userbenchmark(Server) | 2,707 |
PCMark 10 | 10,003 |
CrossMark | 2,082 |
Ryzen 9 5950Xは第4世代Ryzenの中で最高峰の位置付けとされているプロセッサです。AMDもこれがフラッグシップだと認識しています。しかし、実は性能面で言えばRyzen 9 5900Xと対して変わりありません。TSMCの7nmプロセスだと単位時間あたりの発熱量(≒消費電力)の制約で12コアが性能上の限界であり、16コアにすると1コアあたりの性能が急激に下がってしまいます。結果的にコア数の多さとクロック上昇の伸び悩みで相殺されて、第4世代Ryzenにおいては16コアと12コアは同性能であり、むしろ若干Ryzen 9 5900Xの方がトータルとして高性能なぐらいです。
Ryzen 9 5950XとIntel Coreプロセッサとのベンチマーク性能比較の結果はこちらに掲載しています。
Ryzen 9 5900XとIntel Coreプロセッサのベンチマーク性能比較

メーカー・モデル名 | AMD Ryzen 9 5900X |
---|---|
合計コア数 | 12コア24スレッド |
基本クロック | 3.7GHz |
最大クロック | 4.8GHz |
コードネーム | Vermeer (AMD Zen3世代Ryzen 5000) |
発売日 | 2020年11月 |
AMD Pro(AMD版vPro) | 非対応 |
---|---|
定格外オーバークロック | 対応 |
TDP(≒消費電力) | 105W |
L1キャッシュ | 768KB |
L2キャッシュ | 6MB |
L3キャッシュ | 64MB |
最大メモリサイズ | 128GB |
メモリタイプ | DDR4-3200 |
メモリチャネル | 2 |
メモリ帯域幅 | 47.68GB毎秒 |
コンピュータの形態 | デスクトップ |
ソケット | Socket AM4 |
グラフィクス(iGPU) | — |
iGPU最大画面数 | — |
---|---|
iGPU最大周波数 | — |
iGPU CU数 | — |
iGPU単精度コア数 | — |
iGPU単精度性能 | — |
アーキテクチャ | Zen 3 |
プロセスルール | TSMC N7(7nm) |
Userbenchmark(Effective) | 98.7 |
Userbenchmark(Normal) | 188 |
Userbenchmark(Heavy) | 879 |
Userbenchmark(Server) | 2,086 |
PCMark 10 | 10,040 |
CrossMark | 2,017 |
Ryzen 9 5900Xは第4世代Ryzenで12コアを担当する位置づけのプロセッサです。他にRyzen 9 5900という低クロックの無印版が存在しますが、Ryzen 9 5900はパソコン組立て業者等の法人向けにOEM供給されているのみで小売店等で個人向けには正規販売されていません。つまり実質的に2020年11月の発売時点で第4世代Ryzenの中ではこれが唯一の12コアプロセッサです。
Ryzen 9 5900Xの性能は1コアあたりの性能とコア数のバランスが採れていて、コア数の数を増やしすぎて逆に1コアあたりの性能が大幅に低下しているRyzen 9 5950Xよりもおすすめです。
Ryzen 9 5900XとIntel Coreプロセッサとのベンチマーク性能比較の結果はこちらに掲載しています。
Ryzen 7 5800XとIntel Coreプロセッサのベンチマーク性能比較

メーカー・モデル名 | AMD Ryzen 7 5800X |
---|---|
合計コア数 | 8コア16スレッド |
基本クロック | 3.8GHz |
最大クロック | 4.7GHz |
コードネーム | Vermeer (AMD Zen3世代Ryzen 5000) |
発売日 | 2020年11月 |
AMD Pro(AMD版vPro) | 非対応 |
---|---|
定格外オーバークロック | 対応 |
TDP(≒消費電力) | 105W |
L1キャッシュ | 512KB |
L2キャッシュ | 4MB |
L3キャッシュ | 32MB |
最大メモリサイズ | 128GB |
メモリタイプ | DDR4-3200 |
メモリチャネル | 2 |
メモリ帯域幅 | 47.68GB毎秒 |
コンピュータの形態 | デスクトップ |
ソケット | Socket AM4 |
グラフィクス(iGPU) | — |
iGPU最大画面数 | — |
---|---|
iGPU最大周波数 | — |
iGPU CU数 | — |
iGPU単精度コア数 | — |
iGPU単精度性能 | — |
アーキテクチャ | Zen 3 |
プロセスルール | TSMC N7(7nm) |
Userbenchmark(Effective) | 98.2 |
Userbenchmark(Normal) | 189 |
Userbenchmark(Heavy) | 825 |
Userbenchmark(Server) | 1,495 |
PCMark 10 | 10,292 |
CrossMark | 1,801 |
Ryzen 7 5800Xは第4世代Ryzenの中で8コアを担当するプロセッサです。第4世代Ryzenが発売された時点では、Ryzen 7 5800Xは第4世代Ryzenの8コアプロセッサの中では最も高クロックなモデルです。これより低クロックなモデルとして無印版のRyzen 7 5800が設定されていますが、他のモデルと同様で法人向けのOEM供給のみであり、個人向け小売店で正規としては並んでいません。つまり実質的に第4世代Ryzenの8コアモデルと言ったらこのRyzen 7 5800Xを指すことになります。
16コアのRyzen 9 5950Xでは無理にコア数を増やしたことにより、12コアのRyzen 9 5900Xと同格の性能でしかありませんでしたが、8コアのRyzen 7 5800Xは12コアのRyzen 9 5900Xよりもしっかり低性能になっています。
Ryzen 7 5800XとIntel Coreプロセッサとのベンチマーク性能比較の結果はこちらに掲載しています。
Ryzen 5 5600XとIntel Coreプロセッサのベンチマーク性能比較

メーカー・モデル名 | AMD Ryzen 5 5600X |
---|---|
合計コア数 | 6コア12スレッド |
基本クロック | 3.7GHz |
最大クロック | 4.6GHz |
コードネーム | Vermeer (AMD Zen3世代Ryzen 5000) |
発売日 | 2020年11月 |
AMD Pro(AMD版vPro) | 非対応 |
---|---|
定格外オーバークロック | 対応 |
TDP(≒消費電力) | 65W |
L1キャッシュ | 384KB |
L2キャッシュ | 3MB |
L3キャッシュ | 32MB |
最大メモリサイズ | 128GB |
メモリタイプ | DDR4-3200 |
メモリチャネル | 2 |
メモリ帯域幅 | 47.68GB毎秒 |
コンピュータの形態 | デスクトップ |
ソケット | Socket AM4 |
グラフィクス(iGPU) | — |
iGPU最大画面数 | — |
---|---|
iGPU最大周波数 | — |
iGPU CU数 | — |
iGPU単精度コア数 | — |
iGPU単精度性能 | — |
アーキテクチャ | Zen 3 |
プロセスルール | TSMC N7(7nm) |
Userbenchmark(Effective) | 96 |
Userbenchmark(Normal) | 185 |
Userbenchmark(Heavy) | 738 |
Userbenchmark(Server) | 1,092 |
PCMark 10 | 10,150 |
CrossMark | 1,710 |
Ryzen 5 5600Xは第4世代Ryzenの中で6コアを担当するモデルです。2020年11月に第4世代Ryzenが発売された時点では、第4世代Ryzenの6コアモデルの中では最も高クロックな位置付けです。これより低クロックな無印版プロセッサとしてRyzen 5 5600が存在しますが、他の第4世代Ryzenプロセッサ同様でパソコンメーカーへのOEM供給のみとなっており、Ryzen 5 5600は正規品として個人向けの小売店では売られていません。そのため第4世代Ryzenの6コアモデルといったら事実上
8コアのうち2コアを無効化している上に1チップ構成のため価格が安いことから第4世代Ryzenの中では最も普及しているプロセッサです。しかし性能面では微妙であり、Ryzen 5 5600Xは第11世代Intel Core(Rocket Lake)の6コアの中で最も低クロックなCore i5 11400に対しても負けています。
Ryzen 5 5600XとIntel Coreプロセッサとのベンチマーク性能比較の結果はこちらに掲載しています。
半導体需要の高まりによるTSMCの逼迫が原因で当初は非常に少ない4モデルしかラインナップされなかったRyzen5000シリーズ
AMD社は自前のファウンダリを持っていません。つまり半導体の論理回路の設計のみに専念し、半導体の製造。TSMCに委託しています。しかしTSMCは、代わりがきかないApple社のM1プロセッサ(ARM命令セット)やQualcommの通信用プロセッサに生産枠を割り当てており、代わりがきくAMD Ryzenには生産枠を少ししか割り当てませんでした。
それにより非常に少ないモデル数と、非常に少ない生産数しか確保できていないことにより、「発売すれど流通せず」で有名になったのが第4世代Ryzenです。
一応、末尾文字(suffix)に”X”がない無印版の低クロック版プロセッサ(例:Ryzen 9 5900)は存在はしていますが、PCの組立てメーカーへのOEM品として供給されているのみであり、個人消費者向け小売店では売られていません。つまり第4世代Ryzenは2020年11月の発売時点で実質的に4モデルしかラインナップされていないことになります。
Ryzen5000から見て最も発売日が近い第11世代Intel Coreが第一義的に比較する対象
2020年11月に発売された第4世代Ryzenプロセッサから見て最も発売日が近いIntel Coreプロセッサは同じ2020年度に発売された第11世代Intel Core(Rocket Lake)プロセッサです。
第4世代Ryzen最高峰のRyzen 9 5950Xをもってしても第10世代Intel Core(Comet Lake)のCore i9 10900Kに対し勝てていないのが実際のところなので(下記リンク先のベンチマーク結果参照)、第10世代Intel Core(Comet Lake)でも第4世代Ryzenに勝つためには十分です。
しかし、発売日の近さは比較対象の公平さを確保する上での客観的な指標であるため、第一義的に第11世代Intel Core(Rocket Lake)と比較します。
まとめ:Core i5 11400に対し負けたのはRyzen 5 5600のみだが、Core i5 11500に対してはRyzen 9 5950X, Ryzen 9 5900X, Ryzen 7 5800Xも敗北
第4世代Ryzenから見て最も発売日が近い第11世代Intel Core(Rocket Lake)が第4世代Ryzenとの比較対象になりますが、最も性能が低いCore i5 11400(内蔵グラフィックス搭載)&Core i5 11400F(内蔵グラフィックス非搭載)に対しRyzen 5 5600Xは負けてしまいました。第11世代Intel Coreの6コアかつ低クロックなCore i5 11400に対し、第4世代Ryzenの6コアかつ高クロックなRyzen 5 5600Xが負けてしまったことになります。
さらに、Core i5 11400よりも1グレード上のCore i5 11500に対してはRyzen 9 5950X, Ryzen 9 5900X, Ryzen 7 5800Xまでもが敗北してしまいました。6コアかつ低クロックなCore i5 11500に対し、16コアかつ高クロックな第4世代Ryzenが負けてしまう結果です。
コンピュータ・アーキテクチャ分野においては「コア数を増やしたところで全体の性能はスケールしない」というのは常識です。「スケールする」というのはコア数が2倍3倍となれば性能も2倍3倍となることを指します。第4世代Ryzenに限らず、過去発売されてきたRyzenシリーズにおいてはコア数を増やしても性能が「スケールしない」ことが常態化しており、それは今回も妥当しました。
1コアあたりの性能が低いZen3マイクロアーキテクチャを採用した第4世代5000シリーズでは、コア数を増やしたところで全体の性能は低いままです。さらにはTSMC7nmプロセスが高クロック時の低消費電力性に劣る製造プロセスであるため、単位時間あたりの発熱量上限(≒電力上限)が足かせとなり、コア数を身の丈以上に増やしてしまったことで発熱許容量枠の共食い状態となってしまい、12コアのRyzen 9 5900Xに比べて16コアのRyzen 9 5950Xの性能が伸びないという微妙な結果で終わっています。