2020年11月に発売されたRadeon RX 6800 XTは動作クロックの上昇を優先し、単精度演算器数(コア数)の増加はほぼ諦めたGPUです。アーキテクチャはRadeon RX 5000シリーズのRDNA1.0から殆ど変わっておらずマイナーチェンジに留まっており、キャッシュサイズを増やした程度の違いしかありません。
前世代のRadeon RX 5000シリーズ(Navi10)と同様にAMDはGPUアーキテクチャがNVIDIAよりも劣っており、1コア(単精度演算器)あたりの性能が低いためその欠点を隠すために動作クロックを引き上げたことで、性能の割に消費電力が高くなってしまっています。動作クロックを引き上げると、動作クロック引き上げ率の二乗に比例して消費電力が増加するためです。
Radeon RX 6800 XTは消費電力が300Wもありますが、消費電力が220WしかないGeForce RTX 3070に対して性能で敗北しています。
これまで、AMDのGPUはNVIDIA製GPUと比べてコア数では上回っていたため、ゲーム用としては使い物にならなくても科学技術計算用のコプロセッサ(co-processor)としては使い道がありました。
にもかかわらず今回のAMD Radeon RX 6000(Navi21)シリーズは、NVIDIA GeForce RTX 3000(Ampere)シリーズの約半分の単精度演算器しか搭載しておらず、ゲーム用としてもGeForce RTX 3070に負け、科学技術計算用としてもTensorCoreを有するGeForce RTX 3070に負けるという結果になり、これまでのAMD Radeonの唯一の強みを一気に失ってしまった形です。
AMD Radeon RX 6800 XTの詳細スペック
メーカー・モデル名 | AMD Radeon RX 6800 XT |
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SP数 | 4,608 |
ブーストクロック | 2,250 MHz |
メモリ容量 | 16GB |
共有キャッシュ | 4MB |
単精度性能 | 20.736 TFLOPS |
倍精度性能 | 1.296 TFLOPS |
Tensor Core性能 | 0 FLOPS |
TDP | 300W |
発売日 | 2020年11月 |
Ray Tracing性能 | 0 FLOPS |
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ベースクロック | 1,825 MHz |
ピクセル・レート | 288.0 GPixel毎秒 |
テクスチャ・レート | 648.0 GTexel毎秒 |
メモリタイプ | GDDR6 |
メモリクロック | 16 GT毎秒 |
メモリバス幅 | 256bit |
メモリ帯域幅 | 512 GB毎秒 |
接続規格 | PCIe 4.0 |
アーキテクチャ | RDNA 2.0 (Radeon RX 6000 series) |
コードネーム | Navi 21 |
ファウンドリ | TSMC |
プロセスルール | 7nm |
トランジスタ密度 | 51.5 MTr/mm² |
トランジスタ数 | 268億 |
ダイサイズ | 519.8mm² |
Compute Unit数 | 72 |
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無効化CU数 | 8 |
TMU数 | 288 |
ROPユニット数 | 128 |
Tensor Core数 | 0 |
RayTracing Core数 | 0 |
Multi GPU | 非対応 |
3DMark Speed Way(DX12) | 3,634 |
3DMark Port Royal(DX12) | 9,534 |
3DMark NightRaid(DX12) | 155,724 |
3DMark TimeSpy(DX12) | 19,103 |
3DMark Wild Life(DX12) | 99,507 |
3DMark FireStrike(DX11) | 52,957 |
PassMark GPU | 24,079 |
Userbenchmark GPU(実効) | 146 |
Userbenchmark DX10 | 251 |
上記の表がAMD Radeon RX 6800 XTの詳細スペックです。これはリファレンスモデルのスペックであり、オリジナルファンモデルはこれよりもブーストクロックが上がる可能性があります。ただ、オリジナルファンモデルであってもコア数は全く同じです。
Radeon RX 6800 XTのCompute Unit数はRadeon RX 5700の2倍の72基
AMD Radeon GPUでは”Compute Unit(CU)”が基本単位になっています。これはNVIDIA GeForceでいうところの”Streaming Multiprocessor(SM)”に該当します。
Radeon RX 6800 XTではNavi21というチップを使っており、これは本来80基のCompute Unitがあります。そのうち8基を無効化し、72基としたのがRadeon RX 6800 XTです。
なぜわざわざ8基も無効化するかというと、全80基が正常に動作するチップは少量しか生産できず不良品が多数発生してしまうためです。80基全てが正常に動作しない不良品でも、不良の8基を無効化することで残り72基が動作する製品として売ることができ、本来チップを破棄して損失となってしまうコストを回収できる商売上の狙いがあります。
前世代のRadeon RX 5700では40基のCompute Unitのうち4基を無効化し36基のCompute Unitが有効化されていました。今回のRadeon RX 6800 XTでは72基のCompute Unitが有効であるため、Radeon RX 5700と比較してコア数が2倍になっていることを意味します。
一方で、Radeon RX 6800 XTとRadeon RX 5700には共通点があります。
Radeon RX 6800 XTはNavi21チップの80基のCompute Unitのうち1割に相当する8基を無効化して72基のCompute Unitとしています。同様に、Radeon RX 5700はNavi10チップの40基のCompute Unitのうち1割に相当する4基を無効化し36基のCompute Unitとしています。
両方とも、その世代のフラッグシップGPUのうち1割のCompute Unitを無効化しているという点で類似しています。
ただし、Navi10もNavi21もTSMC7nmプロセスであり製造コストは殆ど下がっていません。その中でチップ面積(トランジスタ数)を増やしたため、製造コストは大幅に上がっています。
NVIDIA GeForce RTX 3000(Ampere世代)シリーズが予想以上にコア数を増やしてきたため、動作クロック上昇に頼らざるを得なくなったAMD
AMD側にとってショックだったのは、Ampere世代のGeForce RTX 3000シリーズが思いのほかコア数を増やしてきたことです。以前のNVIDIA GeForceはコア数を増やすことに積極的でなかったため、Ampere世代のGeForce RTX 3000シリーズでも単精度コア数は微増に留まるとAMDは踏んでいました。
例えばGeForce RTX 2000シリーズ(Turing世代)のフラッグシップモデルであるTITAN RTXは4,608コアでした。しかも価格は30万円弱。これがNVIDIA Turing世代の最高峰だったわけです。
つまりAMDとしては、GeForce RTX 2000シリーズのフラッグシップであるTITAN RTXと同じ単精度コア(StreamProcessor)数4,608コアを、Radeon RX 6000シリーズの下位モデル(Radeon RX 6800 XT)で実現することを目標に据えていました。
しかしAMDの予想は外れて、GeForce RTX 3000シリーズ(Ampere世代)の単精度コア数は大幅な増加率で増えてしまい、GeForce RTX 3090に至ってはTITAN RTX(4,608コア)から2倍(100%増)を大幅に超える1万コアの大台に乗ってしまいます。
今回Radeon RX 6800 XTの単精度コア(StreamProcessor)数を4,608コアにしたのは、「あれだけ高価だったTITAN RTXと同じ単精度コア数4,608コアをRadeon RX 6800 XTではここまで安い価格で実現した」とAMDが誇らしげにアピールする意図がありました。
しかし、AMD Radeon RX 6000シリーズ(Navi21)の実装が既に固まった段階の2020年9月にNVIDIA GeForce RTX 3000シリーズが公式発表され、CUDA Core数が大幅に増加することが明らかになり、発表されたGeForce RTX 3090,3080,3070の中で最下位のモデルであるRTX3070でもCUDA Core5,888コアを搭載することがわかってしまいました。
Navi21チップのCompute Unit80基全てを有効化した上位モデルRadeon RX 6900 XTでも5,120コアに過ぎず、コア数に関してはRTX3070に対しRadeon RX 6000シリーズの大敗です。
Radeon RX 6000シリーズのNavi21チップが既に固まってしまっている2020年9月の段階で、AMDが今更コア数を増やすような設計をやり直すわけにはいかず、AMDは「コア数で勝てないなら動作クロックを引き上げるしかない」戦略を採ることになります。
NVIDIA GeForce RTX 3000シリーズ(Ampere)に対するAMD RDNAアーキテクチャの劣りを動作クロックの高さでカバーしようとするもRTX3070に勝てず
まず、AMD Radeon RX 6800 XTで採用されているRDNA 2アーキテクチャは、NVIDIAのAmpereアーキテクチャよりも大幅に技術力で劣っています。
つまり、同じ動作クロックと同じコア数の「NVIDIA GeForce(Ampere) vs. AMD Radeon(RDNA2)」で勝負したらAMD Radeonが大差で負けます。
このNVIDIAとAMDの技術力の差をカバーするには、AMDとしては「コア数を増やす」か「動作クロックを高くする」、またはその両方を同時に実施するしかありません。
上述した通り、2020年9月に発表されたNVIDIA GeForce RTX 3000シリーズはコア数が大幅に増加しRTX30901万コアの大台に乗ってしまい、下位のRTX3070でも5,888コアになったため、AMDが「コア数を増やす」戦略を採っても勝てなくなってしまいました。
しかもAMD Radeon RX 6000シリーズの発売時期が2020年11月と迫っている中で、2020年9月の時点で今更AMD Radeon RX 6800 XTのNavi21のコア数を増やす設計変更をする時間的余裕も無くなっていました。
そこでAMDが採用した一時しのぎ(弥縫策)が「動作クロックを高くする」ことです。
Radeon RX 6800 XTではベースクロックでも1,825MHzを達成しており、リファレンスモデルのブーストクロックでも2,250MHzを達成しています。
しかしこの戦略は逆に仇となってしまいました。
本来AMDとしては「NVIDIA TITAN RTXと同じ4,608コアなのにAMD Radeon RX 6800 XTはここまで消費電力が低い」とアピールする予定でしたが、2020年9月のNVIDIA Ampere世代GPUの発表により、動作クロックを引き上げなければならない想定外の事態が発生したため、「GeForce RTX 3070よりコア数が少ないのに,消費電力が無駄に高いRadeon RX 6800 XT」という格好悪い結果となってしまいました。
1位: ASUS ROG-STRIX-LC-RX6800XT-O16G-GAMING
GPU | AMD Radeon RX 6800 XT |
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型番 | ASUS ROG-STRIX-LC-RX6800XT-O16G-GAMING |
専有スロット数 | 2.2 slot |
全幅 | 43.5 mm |
全長 | 277 mm |
全高 | 130.8 mm |
ブーストクロック | 2,360 MHz |
ベースクロック | 2,015 MHz |
単精度性能 | 21.74976 TFLOPS |
倍精度性能 | 1.359 TFLOPS |
発売日 | 2021年2月 |
深層学習コア性能 | 0 FLOPS |
---|---|
メモリ容量 | 16GB |
メモリタイプ | GDDR6 |
メモリクロック | 16.0 GT毎秒 |
メモリバス幅 | 256bit |
メモリ帯域幅 | 512 GB毎秒 |
補助電源 | 8pin×2 |
推奨電源容量 | 750W |
冷却機構 | 水冷(51.7×120×276mm) |
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ファン数 | 本体×1、ラジエータ×2 |
最大表示モニタ数 | 4画面 |
DisplayPort | DisplayPort 1.4a×2 |
USB Type C | (DP alt mode)×1 |
HDMI | HDMI 2.1×1 |
DVI-D | 非搭載 |
D-Sub | 非搭載 |
簡易水冷一体型のRX6800XTグラボです。ラジエータサイズは厚さが51.7mm, 縦120mm, 全長276mmであり、12cmファン×2基の典型的なラジエータサイズです。この厚さはファン込みなので、25mm厚ファンとラジエータ27mm厚の一般的なサイズです。14cm×28cmサイズのラジエータを採用した簡易水冷一体型のグラボは殆ど見かけないため、事実上今回のような24cm×12cmサイズのラジエータは簡易水冷一体型グラボの中では最大サイズのラジエータです。
ボード本体の厚さは42mmであり、バックプレート側への厚みに加えてブロワーファン側にも1mmほどはみ出しています。ブロワーファン(シロッコファン)は電源回路やRAM(メモリ)を冷却する目的で搭載されています。
簡易水冷はメンテナンスフリーといっても、それは故障する時までメンテナンスをしなくていいという意味なので可用性は低く、平均故障間隔は空冷と比べて非常に短いです。PCを仕事等の重要な用途に使う人は空冷を選択することをおすすめします。故障してもパーツ交換等の作業をいとわず実施できたり、その間仕事が中断しても支障がない人は、こういった簡易水冷一体型グラボでGPUのクロックを最大限に引き出すのは理にかなっています。
このグラボの欠点は水冷を要因とした可用性の低さの他に、冷却性能が高いのに補助電源コネクタ8ピン×2しか搭載してないところです。ASRockからは空冷にも関わらず8ピン×3のグラボが出ています。工場出荷時のブーストクロックはこちらの方が高いですが、簡易水冷一体型は手動で高いオーバークロックが狙えるのがメリットの一つなので、せっかく冷却性能が高くても電力供給能力が8ピン×2(150W×2+マザーボードからの75W=375W)しかないのは簡易水冷一体型グラボの大きなメリットを潰しています。
2位: ASUS TUF-RX6800XT-O16G-GAMING
GPU | AMD Radeon RX 6800 XT |
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型番 | ASUS TUF-RX6800XT-O16G-GAMING |
専有スロット数 | 2.9 slot |
全幅 | 57.8 mm |
全長 | 320 mm |
全高 | 140.2 mm |
ブーストクロック | 2,340 MHz |
ベースクロック | 2,015 MHz |
単精度性能 | 21.56544 TFLOPS |
倍精度性能 | 1.348 TFLOPS |
発売日 | 2021年2月 |
深層学習コア性能 | 0 FLOPS |
---|---|
メモリ容量 | 16GB |
メモリタイプ | GDDR6 |
メモリクロック | 16.0 GT毎秒 |
メモリバス幅 | 256bit |
メモリ帯域幅 | 512 GB毎秒 |
補助電源 | 8pin×2 |
推奨電源容量 | 750W |
冷却機構 | 空冷 |
---|---|
ファン数 | 3基 |
最大表示モニタ数 | 4画面 |
DisplayPort | DisplayPort 1.4a×3 |
USB Type C | 非搭載 |
HDMI | HDMI 2.1×1 |
DVI-D | 非搭載 |
D-Sub | 非搭載 |
このグラボは同じTUFシリーズでRX6900XT版の「TUF-RX6900XT-O16G-GAMING」とブーストクロックも補助電源コネクタ数も同じです。当然ながら外形サイズも同じです。違いはGPU(演算器数)の違い)だけになります。「TUF-RX6900XT-O16G-GAMING」と冷却性能が同じだということを意味するため、Compute Unit数が少ないこちらの方が冷却面で有利です。そのためコア数よりクロック値の高さを重視したいなら「TUF-RX6900XT-O16G-GAMING」よりこちらのグラボの方がいいでしょう。
同じRX6800XTで比べると、ASUSの上位モデルである「ASUS ROG-STRIX-LC-RX6800XT-O16G-GAMING」は簡易水冷一体型モデルになってしまっています。簡易水冷一体型といっても工場出荷時のブーストクロックは2,360MHzであり、本グラボと殆ど変わりません。手動でオーバークロックしなかったり、可用性の高い空冷を選びたい場合は、Radeon RX6800XTに関しては本グラボの方がROG STRIXシリーズよりおすすめです。