Core i9 11900は第11世代Intel Core(Rocket Lake)のフラッグシップモデルCore i9 11900Kのクロックを引き下げた上で、Adaptive Boostを無効化したものです。
一方で、Thermal Velocity BoostはCore i9 11900Kと同様に有効化されているため、Core i9 11900は低クロックモデルながらも、高クロックモデルのCore i7 11700Kとほぼ互角の性能を持っています。
第4世代Ryzenとの比較ではRyzen 9 5900が型番上は比較対象になりますが、Ryzen 9 5900程度ではCore i9 11900に対して全く歯が立ちません。Ryzen 9 5900どころかRyzen 9 5900XやRyzen 9 5950X相手でも、Core i9 11900は+5%の性能差で勝利してしまうレベルの性能を有しているためです。
Core i9 11900の詳細スペックと特徴
メーカー・モデル名 | Core i9-11900 (第11世代Intel) |
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コア数 | 8コア16スレッド |
基本動作周波数 | 2.5 GHz |
最大動作周波数 | 5.2 GHz |
全コア同時最大周波数 | 4.7 GHz |
発売日 | 2021年3月 |
セキュアブート | 対応 |
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vProテクノロジ | 対応 |
同時マルチスレッディング | 有効 |
定格外オーバークロック | 非対応 |
TDP(≒消費電力) | 65W |
L1キャッシュ | 640KB |
L2キャッシュ | 4MB |
L3キャッシュ | 16MB |
最大メモリサイズ | 128GB |
メモリタイプ | DDR4-3200 |
メモリチャネル | 2 |
メモリ帯域幅 | 50GB毎秒 |
コードネーム | Rocket Lake-S |
コンピュータの形態 | デスクトップ |
ソケット | LGA 1200 |
グラフィクス(iGPU) | UHD Graphics 750 |
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iGPU最大画面数 | 3 |
iGPU最大ビデオメモリ | 64GB |
iGPU基本周波数 | 350MHz |
iGPU最大周波数 | 1,300MHz |
iGPU EU数 | 32 |
iGPU単精度コア数 | 256 |
iGPU単精度性能 | 0.6656TFLOPS |
アーキテクチャ | Cypress Cove |
プロセスルール | Intel14nm |
SIMD拡張命令 | Intel AVX2, SSE |
SIMD演算器 | 256bit FMA×2 |
SIMD倍精度演算性能 | 16 FLOPs/cycle |
AI(深層学習)拡張命令 | AVX-512 VNNI |
Core i9 11900はCore i9 11900Kのクロックを単純に引き下げただけのモデルではないところが、Core i9 11900を捉える上でのポイントです。Core i9 11900はCore i9 11900Kとキャッシュサイズが同じであるため共通点は多いのですが、Adaptive Boostが無効化されているためそこだけ特異になっています。
Core i9 11900Kで有効なAdaptive BoostはCore i9 11900では無効化されている
Adaptive Boostは「Turbo Boost2.0の1~2コア最大クロックと同じクロックを全コアに対しても適用する」ブースト機能です。Turbo Boost2.0では1~2コアのみをブーストさせる時と、全コアをブーストさせる時で、上昇する上限のクロックが異なります。Adaptive Boostは、Turbo Boost2.0の1~2コア用最大クロックを全コアに適用できるところが新しい点(新規性)です。
このAdaptive Boostが有効化されたのは第11世代Intel CoreではCore i9 11900KとCore i9 11900KFだけで、Core i9 11900ではAdaptive Boostが無効化されています。
Core i9 11900でもThermal Velocity BoostはCore i9 11900Kと同様に有効
Adaptive Boostが無効化されていても、Thermal Velocity Boostは有効化されていています。第11世代Intel CoreではAdaptive Boostが有効化されているのはCore i9シリーズのみであるため、「Adaptive Boost無効&Thermal Velocity Boost有効」のCPUはこのCore i9 11900とCore i9 11900Fしか存在しません。
Core i9 11900と第4世代Ryzen(2020年度発売)の比較
AMD Zen3マイクロアーキテクチャを採用した第4世代Ryzen5000シリーズ(Vermeer)は2020年11月に発売されたプロセッサです。第4世代Ryzenからみて最も発売日が近いIntel Coreプロセッサは、Core i9 11900が属する第11世代Intel Core(Rocket Lake)プロセッサであるため、Core i9 11900の比較対象として第4世代Ryzenは最も適切です。
Core i9 11900 vs. Ryzen 9 5950X
第4世代Ryzenの中で最高峰と位置付けられているRyzen 9 5950XとCore i9 11900を比較します。Ryzen 9 5950Xのコア数は16コアもあり、8コアのCore i9 11900の2倍ものコア数を有しています。しかもクロック面でもRyzen 9 5950Xは末尾文字(suffix)に”X”が付く高クロックモデルだけあって、+0.9GHzだけCore i9 11900よりもベースクロックが高いです。Ryzen 9 5950Xの方がコア数は2倍でベースクロックも高いとなったら、Core i9 11900が勝てないようにも思えますが実際の結果は異なります。
このように+5%も、Ryzen 9 5950Xに対してCore i9 11900が勝利してしまいます。コア数に2倍の差があっても性能が2倍になるどころかむしろ逆にコア数が多いRyzen 9 5950Xが敗北してしまった格好です。いくらコア数が多くてもZen3マイクロアーキテクチャが、第11世代Intel Core(Rocket Lake)のCypress Cove(Willow Cove)マイクロアーキテクチャよりも劣っていたら勝ち目がないことを示しています。
Core i9 11900 vs. Ryzen 9 5900X
12コアを有するRyzen 9 5900XとCore i9 11900を比較します。Ryzen 9 5900Xは第4世代Ryzenプロセッサの中で12コアを担当しており、加えて高クロックの位置づけのモデルです。12コアはこの他にRyzen 9 5900という無印版がありますが、Ryzen 9 5900はRyzen 9 5900Xよりも低クロックです。
つまり本来ならばCore i9 11900と比較すべき対抗馬はRyzen 9 5900なのですが、ここではあえて高クロック版のRyzen 9 5900Xと比較してみます。Ryzen 9 5900XとCore i9 11900を比較してRyzen 9 5900Xが負けてしまったら、高クロック版のRyzen 9 5900Xが低クロック版のCore i9 11900よりも劣っていることを意味し、第4世代Ryzenにとって屈辱になるためです。またRyzen 9 5900X相手にCore i9 11900が勝てた場合、それはRyzen 9 5900相手にも勝ててしまうことを意味します。
このようにRyzen 9 5900Xに対してCore i9 11900が+4%の性能差で勝利してしまいます。12コアかつ高クロックモデルの第4世代Ryzenが、8コアかつ低クロックモデルの第11世代Intel Coreに負けてしまった格好です。コア数も少なくクロックも低いCore i9 11900に対しRyzen 9 5900Xが負けてしまったのはZen3マイクロアーキテクチャが根本的欠陥を抱えており第4世代Ryzenの1コアあたりの性能が低すぎるため、コア数を増やしたりクロックを上げたところで基本性能が高い第11世代Intel Coreのマイクロアーキテクチャに勝てないためです。
しかもCore i9 11900は内蔵グラフィックス搭載なので、グラボ無しでトリプルディスプレイ出力可能です。他方Ryzen 9 5900は12コア分のチップ面積を確保するために内蔵グラフィックスを削っており、グラボを別途用意しないとそもそもディスプレイが映りません。その点でも内蔵グラフィックス搭載のCore i9 11900の方が製品として優れています。
Core i9 11900 vs. Ryzen 7 5800X
第4世代Ryzenプロセッサで8コアを担当するRyzen 7 5800Xと比較してみます。Ryzen 7 5800Xは第4世代Ryzenの中では8コアというだけでなく高クロックの位置付けです。つまり、8コアかつ低クロックなCore i9 11900と、8コアかつ高クロックなRyzen 7 5800Xの比較になります。カタログスペックだけ見るとRyzen 7 5800Xが有利そうですが実際は異なります。
Ryzen 7 5800Xに対して、+7%もCore i9 11900が上回る性能です。これは圧勝とも言っていいほどの大差です。末尾文字(suffix)に”X”が付くRyzen 7 5800Xが、末尾文字無しの無印モデルCore i9 11900に対して負けてしまったのは第4世代Ryzen利用者にとっては屈辱です。当然ながらRyzen 7 5800Xは内蔵グラフィックス非搭載。Core i9 11900は内蔵グラフィックス搭載でありながらも、内蔵グラフィックス非搭載のRyzen 7 5800Xに対し汎用コアの性能で勝ってしまったことになります。
Core i9 11900 vs. Ryzen 5 5600X
第4世代Ryzenの中で6コアを担当するRyzen 5 5600XとCore i9 11900を比較します。Ryzen 5 5600Xは6コアというだけでなく、2020年11月発売時点の第4世代では最も高クロックな6コアプロセッサです。コア数だけみればCore i9 11900が優勢ですが、ベースクロックはRyzen 5 5600Xの方が+1.2GHzも高いです。ベースクロックはCore i9 11900からみれば約+50%もRyzen 5 5600Xの方が高く、コア数はRyzen 5 5600Xからみれば+33%分だけCore i9 11900の方が高いです。そうなると差し引きでRyzen 5 5600Xが勝ちそうなものですが実際の結果はそうなりません。
このように+9%も、Ryzen 5 5600Xに対してCore i9 11900が勝利してしまいます。もし潜在的な1コアあたりの性能(SIMD命令のFLOPSやSISD命令のIPC)が第11世代Intel Coreと第4世代Ryzenで同じなら、このような結果にはなりません。クロックとコア数の差し引きでRyzen 5 5600Xの方がカタログスペック上は有利に一見思えるのに真逆の結果になったのは、1コアあたりの性能でRyzen 5 5600Xが劣っていることを表します。これはZen3マイクロアーキテクチャの設計が悪いことに起因します。