2020年11月に発売された第4世代Ryzen5000シリーズの各プロセッサの中で最もコア数が多いRyzen 9 5950Xの性能をベンチマークで比較します。
第4世代Ryzenはただでさえ歩留まり(良品率)が悪かった第3世代から更に歩留まりが悪化しているため、CPU単体では殆ど小売市場に出回らず、BTOパソコンに組込まれる形で若干数が流通しているのみとなっています。そのBTOパソコンでも流通量は多くなく、Ryzen 9 5950Xを搭載したモデルは在庫切れになっていることが多いです。
AMD Ryzen 9 5950Xの詳細スペックと特徴
メーカー・モデル名 | AMD Ryzen 9 5950X |
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コア数 | 16コア32スレッド |
基本動作周波数 | 3.4GHz |
最大動作周波数 | 4.9GHz |
全コア同時最大周波数 | 3.7GHz |
発売日 | 2020年11月 |
セキュアブート | 非対応 |
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AMD Pro(AMD版vPro) | 非対応 |
同時マルチスレッディング | 有効 |
定格外オーバークロック | 対応 |
TDP(≒消費電力) | 105W |
L1キャッシュ | 1MB |
L2キャッシュ | 8MB |
L3キャッシュ | 64MB |
最大メモリサイズ | 128GB |
メモリタイプ | DDR4-3200 |
メモリチャネル | 2 |
メモリ帯域幅 | 47.68GB毎秒 |
コードネーム | Vermeer (AMD Zen3世代Ryzen 5000) |
コンピュータの形態 | デスクトップ |
グラフィクス(iGPU) | 非搭載 |
iGPU最大画面数 | 0 |
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iGPU最大ビデオメモリ | 0GB |
iGPU基本周波数 | 0Hz |
iGPU最大周波数 | 0Hz |
iGPU CU数 | 0基 |
iGPU単精度コア数 | 0個 |
iGPU単精度性能 | 0 FLOPS |
ソケット | Socket AM4 |
アーキテクチャ | Zen 3 |
プロセスルール | TSMC7nm |
SIMD拡張命令 | Intel AVX2, SSE |
SIMD演算器 | 256bit FMA×2 |
SIMD倍精度演算性能 | 16 FLOPs/cycle |
AI(深層学習)拡張命令 | 非搭載 |
Ryzen 9 5950Xでは単コア最大クロックは上がっていますが、ベースクロックが下がっています。
Ryzen 9 5950Xでは単コアだけの最大クロックを0.2GHz引き上げ4.9GHzにしました。全コア同時ではなく1つのコアだけが達成できるクロックが4.9GHzという意味です。
しかし、ベースクロックがRyzen 9 3950Xと同じ水準(3.5GHz)のままでは発熱量の問題で、単コア最大クロック4.9GHzを実現できません。第3世代Ryzen 9 3950Xの頃からRyzen 9 5950Xでも半導体の特性は変わっていないからです。
そこで、残り15コアのベースクロックを3.4GHzに引き下げて消費電力(単位時間あたり発熱量)の余力を作り、その余力を使い切る形で1コアだけ最大クロックを4.9GHzまで引き上げたことになります。
簡単に言えば、他の15コアのクロックを3.4GHzまで引き下げて犠牲にし、その代わりたった1つのコアだけでも背伸びして4.9GHzを達成できるようにしただけということになります。第3世代Ryzenから根本的な進歩はないため、何かを犠牲にしないと他の部分の性能を向上できない状態に陥っています。
Ryzen 9 5950Xと第12世代Intel Core(2021年度発売)の比較
2021年度は本来発売されるはずだったRyzen 6000シリーズ(Warhol世代)が半導体生産枠を確保できないために開発打ち切りの憂き目を見てしまった影響で、L3キャッシュサイズを増やしただけの第4世代Ryzen焼き直し番が出たのみでした。つまり2021年度は実質的にRyzenのリリースはありませんでした。そこで第4世代Ryzen 9 5950Xを2021年度に発売された第12世代Intel Core(Alder Lake)とも比較します。
Ryzen 9 5950X vs. Core i9 12900KS
Ryzen 9 5950Xと同じ16コアのCore i9 12900KSと比較してみます。
このように、Core i9 12900KSに対し14%もの大差を付けられてRyzen 9 5950Xが敗北しています。ゲーム用途や事務作業用途で14ポイントの差を付けられてRyzen 9 5950Xが敗北するのは想定の範囲内です。しかし多コアを用いるWorkstation用途でも14ポイントの大差をつけられてRyzen 9 5950Xが敗北している事実はAMDユーザに衝撃をもたらしています。なぜならRyzenの存在意義が「マルチスレッド性能だけでもIntelに勝つ」だったためです。その最後の砦もIntelに奪われてしまったことになります。
Ryzen 9 5950X vs. Core i9 12900K
第12世代Intel Core(Alder Lake)のCore i9 12900Kは16コアCPUです。つまり16コア同士の比較になります。極めてフェアな比較だと言っていいでしょう。コア数が同じなら単純に1コアあたりの性能の差が結果として出てきます。
このようにRyzen 9 5950Xの惨敗です。12%の大差を付けてCore i9 12900Kが勝利します。特にWorkstation用途での惨敗はRyzen 9 5950Xにとって痛手です。これまでRyzenは「1コアあたりの性能ではIntelに勝てないけれどもコア数を多くしてマルチスレッド性能ではIntelに勝つ」を存在意義としてきました。その存在意義が否定され、Intelの方がマルチスレッド性能でも優位になってしまったことはRyzenの存在価値が無くなってしまったことを意味します。
Ryzen 9 5950Xと第11世代Intel Core(2020年度発売)の比較
第4世代Ryzenと発売日が最も近い第11世代Intel Core(Rocket Lake)と比較します。Core i9 11900Kどころか、Core i5 11600Kに対してもRyzen 9 5950Xは敗北してしまうのは確実ですが、もしかしたらCore i5 11400とRyzen 9 5950Xが互角の性能になってしまうかもしれない勢いです。
Ryzen 9 5950X vs. Core i9 11900K
Ryzen 9 5950Xは第4世代Ryzenで最高峰とされる、第4世代Ryzenの顔とも言えるCPUです。当然ながら、第4世代Ryzenで最高峰のRyzen 9 5950Xには、第11世代Intel Core(Rocket Lake)で最高峰のCore i9 11900Kには勝って欲しいというバイアスがAMD Ryzenを好むユーザにはかかっています。カタログスペックだけ見るとコア数で二倍も差が付いており、どうみてもRyzen 9 5950Xが勝つように見えます。
しかし結果は真逆で、Core i9 11900Kに対しRyzen 9 5950Xが9%の差をつけられて惨敗します。第4世代Ryzenの下位モデル(Ryzen 7 5800X)がCore i9 11900Kに対して9%の差で負けるならまだわかりますが、第4世代Ryzen最高峰のRyzen 9 5950Xがこれだけの大差を付けられて、半分のコア数のCore i9 11900Kに負けるのは致命的です。このRyzen 9 5950Xの惨敗は、Zen3マイクロアーキテクチャがIntel CoreのWillow Cove(Cypress Cove)マイクロアーキテクチャより遥かに劣っていることに起因します。
Ryzen 9 5950X vs. Core i9 11900
8コアのCore i9 11900と比較します。Core i9 11900はCore i9 11900Kの低クロック版です。Core i9 11900Kでは有効化されているAdaptive Boostが無効化されていますがその他は同じであり、実質的にCore i9 11900Kの低クロック版として位置付けられています。一方でRyzen 9 5950Xは16コアであるのみならず高クロックモデルです。ベースクロックは+0.9GHzだけRyzen 9 5950Xの方が高いため、コア数は2倍の差、クロックもRyzen 9 5950Xが高いとなれば、一見Ryzen 9 5950Xが圧勝するかのように思えます。
しかし結果は真逆で、むしろCore i9 11900が勝利してしまいます。性能差5%も付けてRyzen 9 5950Xに対しCore i9 11900が勝つ性能です。Ryzen 9 5950Xはコア数2倍も有しており且つ高クロックモデルながら、低クロックモデルでコア数1/2のCore i9 11900に対し負けてしまったのは第4世代Ryzenの根本的な性能が大きく劣っていることの現れです。
Ryzen 9 5950X vs. Core i7 11700K
8コアのCore i7 11700Kと、16コアのRyzen 9 5950Xを比較してみます。コア数にして差はなんと2倍です。コンピュータアーキテクチャに詳しくない初心者は絶対に16コアが勝つと思うでしょう。しかし結果は真逆になります。
+6%もCore i7 11700KがRyzen 9 5950Xに対し勝利しています。コア数に2倍の差があるCPU同士の不公平な比較なので、Intel Core i7 11700Kとしてはプラマイ0%の互角に持ち込んでも勝利することになりますが、互角どころか+6%もCore i7 11700Kが勝っています。これはコア数を増やしたからといって性能が伸びるわけではないという、マルチプロセッサのMIMD概念が提唱されてから現在でも通用する学術的理論通りです。
Ryzen 9 5950X vs. Core i5 11600K
Ryzen 9 5950XはCore i5にすら負けています。AMD愛好家にとっての精神的支柱、第4世代RyzenのフラッグシップモデルがたかがCore i5程度に敗北してしまっているのは屈辱と言ってもいいでしょう。
このように4%の性能差を付けられてRyzen 9 5950Xが敗北しています。Core i5の中でもCore i5 11600Kだからこそ+4%上回っていますが、Core i5 11500ですらもRyzen 9 5950Xを上回ってしまうほどのザマです。
Ryzen 9 5950X vs. Core i5 11600
第11世代Intel Core(Rocket Lake)の6コアモデルの中では上から2番目の性能を持つCore i5 11600とRyzen 9 5950Xを比較します。Core i5 11600はCore i5 11600Kのクロックを単に引き下げただけのCPUであり、型番を見てもわかる通り無印の低クロックモデルです。コア数はRyzen 9 5950Xと2.7倍もの差があり、クロック面でもRyzen 9 5950Xは高クロックモデルなのでCore i5 11600は不利な条件です。
しかしそのような不利な条件でも、Core i5 11600に対しRyzen 9 5950Xが性能差3%で敗北する結果です。Ryzen 9 5950Xで採用されたTSMC7nmプロセスは12コアまでが性能がスケールする限界であり、それ以上コアを増やすと電力枠(単位時間あたりの発熱量枠)が足りずに1コアあたりの性能が大幅に下がります。コア数を増やしてもチップの発熱による性能低下と相殺してしまい結果としてRyzen 9 5950Xは12コアのRyzen 9 5900Xと同レベルの性能しか出ません。またRyzen 9 5950Xでは16コア全体でL3キャッシュを共有しておらず、8コアごとでしかL3キャッシュが共有されていないのも敗北要因です。
Ryzen 9 5950X vs. Core i5 11500
第11世代Intel Core(Rocket Lake)の中で6コアモデルのCore i5 11500と比較します。Core i5 11500は、Core i5 11600よりも低クロックで、Core i5 11400よりも高クロックという位置付けですが、機能上Core i5 11500は重要な境界線に存在します。Core i5 11500よりも下位のCore i5 11400はvProとIntel Trusted Execution Technologyが無効化されていますが、Core i5 11500では有効化されています。Ryzen 9 5950XではvProやIntel Trusted Execution Technology相当の技術は一切搭載していませんが、Core i5 11500ではそれらが搭載されていることになります。つまりCore i5 11500は第11世代Intel Coreの中でvPro等が有効化されている最も廉価なプロセッサということになります。当然ながら内蔵グラフィックスも有効化されており、Core i5 11500はビジネス用途で使うプロセッサとして最も低価格なCPUです。
一方で、Ryzen 9 5950Xは内蔵グラフィックスもvPro相当の機能も存在せず、ビジネス用途を完全に捨てています。その代わり、それらの機能を削った代わりに汎用コアにチップ面積(トランジスタ数)を優先的に割り当てており、汎用コアの性能だけはIntel Coreに太刀打ちできるよう意図されています。しかし、そのような細工を行ってもRyzen 9 5950Xの性能は以下の通りです。
これはかなり衝撃的な結果です。Core i5 11500に対し、Ryzen 9 5950Xが敗北してしまっています。性能差は1%なのでほぼ互角と言えますが、Ryzen 9 5950X側が負けてしまっていることには変わりありません。Core i5 11500は6コアなので、Ryzen 9 5950Xはコア数で言えば2倍超の差があります。さらに、Core i5 11500はTDP65Wの低クロックモデルであるため、ベースクロック面でも+0.7GHzRyzen 9 5950Xの方が高くなっています。コア数でもクロック数でもカタログスペック上はRyzen 9 5950Xが優位であるのに、Core i5 11500に対して敗北してしまった理由はRyzen 9 5950Xのマイクロアーキテクチャが劣っているからです。さらに、マイクロアーキテクチャを実装するTSMC7nmプロセスが劣っているのも要因の一つです。TSMC7nmプロセスはクロックを引き上げたときの低消費電力性で劣るため、12コアのRyzen 9 5900Xと16コアのRyzen 9 5950Xの実効性能がほぼ同等です。身の丈以上の16コアに増やしたことによって1コアあたりの性能が犠牲となり全体として性能が伸びなくなっているためです。このように「コア数を身の丈以上に増やしたことが仇」となり、結果として全体的な性能でもCore i5 11500に負けることになりました。Core i5 11500は型番からもわかる通り、型番500のグレードに位置付けられるプロセッサです。しかもCore i5 11500は末尾文字(suffix)が無く無印モデルであり低クロック版です。末尾文字”X”の高クロックモデルであるRyzen 9 5950Xが、無印モデルのCore i5 11500に負けてしまったのは屈辱以外の何ものでもありません。
Ryzen 9 5950X vs. Core i5 11400
Core i5 11400は内蔵グラフィックス搭載かつvProは無効化されているCPUです。下記のCore i5 11400Fと並んで第11世代Intel Core(Rocket Lake)6コアプロセッサの中では最も下位のグレードに位置します。Ryzen 9 5950Xは16コアですが、Core i5 11400はたった6コア。その差2.7倍です。「コア数が2倍になれば性能も2倍になる」という、コンピュータアーキテクチャ分野を高等教育(学部・大学院)で履修した人にとっては100%嘘だとわかる理論を振りかざすAMD愛好家の見解が、仮に正しいと前提を置くならば、Ryzen 9 5950XはCore i5 11400の2.7倍の性能(+170%の性能)を実現できているはずです。
このようにRyzen 9 5950Xはたった+3%しかCore i5 11400に対し性能差を付けることができていません。コア数の多さを重視するAMD Ryzenユーザからすると、コア数が2.7倍もあるのにたった+3%の性能差しか付けられたなかったのは屈辱以外の何ものでもないでしょう。
Ryzen 9 5950X vs. Core i5 11400F
第11世代Intel Core(Rocket Lake)発売時点で最も下位のグレードだったのがこのCore i5 11400Fです。下位といってもあらゆる点でRyzen 9 5950Xと似通っています。両方とも内蔵グラフィックス非搭載であり、セキュアブートやvPro相当の機能も非搭載です。AMD Ryzenにおいては、セキュアブートやvPro相当の機能はRyzen Proにしか搭載されていないためです。
Core i5 11400Fは第11世代Intel Coreの6コアプロセッサに相当しますが、6コアプロセッサだけでも5モデル設定されています。その5モデルの中でもCore i5 11400Fは最も下位に位置するものです。たった6コアかつ下位グレードのCore i5 11400Fと、第4世代Ryzenで最高峰かつ16コアのRyzen 9 5950Xを比較してみます。
16コアのRyzen 9 5950Xが、6コアのCore i5 11400Fに対して+2%の性能差で勝利しています。16コアもあるのにたった2%の差に留まっている理由は、第4世代Ryzenで採用されたZen3マイクロアーキテクチャが、第11世代Intel Coreで採用されたWillow Cove(Cypress Cove)マイクロアーキテクチャよりも劣っているからです。ベースクロックの差をみてもRyzen 9 5950Xが有利ですし、コア数に至っては圧倒的にRyzen 9 5950Xが有利なので、カタログスペックだけみたらRyzen 9 5950Xの圧勝になるはずです。それがたったの2%しかCore i5 11400Fに対して勝てなかったのは、16コアが2枚のマルチレットに分割されているためL3キャッシュが共有されていないというマイクロアーキテクチャ上の欠陥によるものです。L3キャッシュが分割されていると、キャッシュミスによるペナルティ(パイプラインストール)の影響で命令の実行が滞りパイプラインのスループットが下がります。
Ryzen 9 5950Xと第10世代Intel Core(2020年度発売)の比較
第4世代Ryzenよりも半年も前に発売された第10世代Intel Core(Comet Lake)は発売時期的に第4世代Ryzen 9 5950Xよりも不利になるはずですが、それでもRyzen 9 5950Xに勝ててしまいます。
Ryzen 9 5950X vs. Core i9 10900K
16コアのRyzen 9 5950Xに対して、10コアかつ発売日が6ヶ月も古いCore i9 10900Kと比較してみます。コア数からみても発売時期からみても条件はRyzen 9 5950Xが有利に一見思えます。
しかし結果はCore i9 10900KがRyzen 9 5950Xに+1%勝利してしまいます。第4世代Ryzenでも12コアを超えると発熱量が急増し性能が低下するTSMC7nmを用いているため、12コアを超えているRyzen 9 5950Xだと全コア同時周波数が大きく下がるためです。
Ryzen 9 5950Xと第9世代Intel Core(2018年度発売)の比較
Ryzen 9 5950Xは本来、最も発売時期が近い第11世代Intel Core(Rocket Lake)と比較するべきものですが、2018年度以降に発売された第9世代Intel Coreと比較してみます。
Ryzen 9 5950X vs. Core i9 9900KS
2020年度に発売された第4世代RyzenのフラッグシップモデルであるRyzen 9 5950Xに対して、2019年度に発売されたCore i9 9900KSが勝ててしまいます。
このように16コアのRyzen 9 5950Xが、8コアのCore i9 9900KSに対して+1%の性能差で敗北してしまっています。
歩留まりが悪いTSMC7nmを使って背伸びし16コアまで増やしてみたところ、8コアかつ発売時期が1年以上も前のCore i9 9900KSに敗北してしまうという恥ずかしいことをやらかしてしまったのがRyzen 9 5950Xです。