Radeon RX 6800は2020年11月に発表されたRadeon RX 6000シリーズの中では最も下位の位置づけのGPUです。厳密に言うと、Navi21チップを搭載したRadeon RX 6000シリーズの中では最下位のモデルです。
このRadeon RX 6800は前世代のRadeon RX 5000シリーズには存在しなかったほどの異例の処置が施されています。それはNavi21チップの80基のComputeUnitの内、25%にも相当する20基のComputeUnitが無効化されていることです。前世代のRadeon RX 5000シリーズでは高々20%しか無効化されていなかったのと比べるとあまりにも無効化されているComputeUnit数が多すぎます。
そのようになってしまった理由は、あまりに歩留まりが悪いNavi21チップの合計80基のComputeUnitの内、できるだけ多数のComputeUnitを無効化しないと良品として売れないため商売上失敗してしまうからです。
Radeon RX 6800に搭載されるGPUはComputeUnitが20基も無効化されており、一部コアが動作しない不良品でも、その不良のコアを無効化すれば売り物にできるため生産数を確保できます。
今回Radeon RX 6800で採用されたNavi21チップの製造プロセスはTSMC7nmであり、前世代のRadeon RX 5000シリーズから変わっていません。つまり歩留まりの悪さも変わっていません。
そんな中で、前世代Radeon RX 5000シリーズのNavi10チップが有していたComputeUnit数40基から、今回Radeon RX 6000シリーズのNavi21チップでは2倍のComputeUnit数80基に背伸びして無理に実現してしまったため、できるだけ多くのComputeUnitを無効化して低コスト化を図らざるを得なかったAMDの都合があります。多くのComputeUnitを無効化すれば不良が出たNavi21チップでも売り物にできるため、製造原価を下げることができるからです。
特にAMD愛好家でもない普通のユーザーの場合、NVIDIA GeForceとAMD Radeonが同じ価格ならリーダー企業であるNVIDIA社のGeForceシリーズを買います。AMDは「NVIDIAより安いけど一応使える性能」を提供する立ち位置のフォロワー企業に過ぎないからです。
AMDは価格の安さで購買層に訴えるのが唯一の戦略なので、できるだけ多くのComputeUnitを無効化しGPUを安く提供する必要があり、その都合で25%ものComputeUnitが無効化されたのが今回のRadeon RX 6800になります。
AMD Radeon RX 6800の詳細スペック
メーカー・モデル名 | AMD Radeon RX 6800 |
---|---|
SP数 | 3,840 |
ブーストクロック | 2,105 MHz |
メモリ容量 | 16GB |
共有キャッシュ | 4MB |
単精度性能 | 16.166 TFLOPS |
倍精度性能 | 1.0104 TFLOPS |
Tensor Core性能 | 0 FLOPS |
TDP | 250W |
発売日 | 2020年11月 |
Ray Tracing性能 | 0 FLOPS |
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ベースクロック | 1,700 MHz |
ピクセル・レート | 202.1 GPixel毎秒 |
テクスチャ・レート | 505.2 GTexel毎秒 |
メモリタイプ | GDDR6 |
メモリクロック | 16 GT毎秒 |
メモリバス幅 | 256bit |
メモリ帯域幅 | 512 GB毎秒 |
接続規格 | PCIe 4.0 |
アーキテクチャ | RDNA 2.0 (Radeon RX 6000 series) |
コードネーム | Navi 21 |
ファウンドリ | TSMC |
プロセスルール | 7nm |
トランジスタ密度 | 51.5 MTr/mm² |
トランジスタ数 | 268億 |
ダイサイズ | 519.8mm² |
Compute Unit数 | 60 |
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無効化CU数 | 20 |
TMU数 | 240 |
ROPユニット数 | 96 |
Tensor Core数 | 0 |
RayTracing Core数 | 0 |
Multi GPU | 非対応 |
3DMark Speed Way(DX12) | 3,059 |
3DMark Port Royal(DX12) | 7,812 |
3DMark NightRaid(DX12) | 134,980 |
3DMark TimeSpy(DX12) | 15,828 |
3DMark Wild Life(DX12) | 89,046 |
3DMark FireStrike(DX11) | 44,117 |
PassMark GPU | 21,206 |
Userbenchmark GPU(実効) | 126 |
Userbenchmark DX10 | 199 |
AMD Radeon RX 6800の詳細スペックは上表の通りです。
NVIDIA GeForceのCUDA Coreに相当するのはStreamProcessor(SP)数の3,840コアです。この単精度コア数は、NVIDIA GeForceで言えばTuring世代のGeForce RTX 2080Tiの4,352コアよりは少なく、GeForce RTX 2080Superの3,072コアよりは多い水準です。
最も注目すべき点は、「無効化CU数」の部分が20基になっていることです。CU数とはComputeUnit数のことで、NVIDIA GeForceではStreamMultiprocessor(SM)数に相当します。
この非常に大きな無効化CU数がRadeon RX 6800の特徴を決定づけるポイントです。
Radeon RX 6800で採用されたGPUはNavi21チップです。このNavi21はフラッグシップモデルのRadeon RX 6900 XTで採用されているものと全く同じGPUです。
Radeon RX 6900 XTは80基のComputeUnitが全て有効化されています。つまりRadeon RX 6900 XTは全く不良が許されない厳しい条件をクリアしたNavi21チップのみが使われており、それが流通量の少なさに直結しています。
一方で、今回のRadeon RX 6800はNavi21のComputeUnitの内、25%にも相当する20基のComputeUnitを無効化しています。一部のComputeUnitに不良が発生し動作しなくても、不良ComputeUnitを無効化して正常に動作するComputeUnitのみで作動するようにしてあります。
そのため、Navi21全体としては不良品でも、チップ上の不良の部位を無効化することで正常に動作するように見せかけてあるのがこのRadeon RX 6800です。
Navi21チップの全体の1/4にも相当するComputeUnit20基が無効化されているため、相当高い不良率であってもRadeon RX 6800として売ることができるため生産数を増やすことができ製造原価を低くできます。低い製造原価は低い売価に直結するため、市場で低い価格で提供できるわけです。
RDNA1.0アーキテクチャを採用し2019年に発売されたRadeon RX 5000シリーズにはRadeon RX 5600というモデルが存在しました。Radeon RX 5600は法人向けにOEM供給されたモデルであり、個人消費者向けのPCパーツ市場では流通しませんでした。
Radeon RX 5600はNavi10チップ(ComputeUnit40基)を搭載しており、その点ではRadeon RX 5700XTと同じです。Radeon RX 5700XTもNavi10を搭載していました。
ただし、Radeon RX 5600は40基のComputeUnitの内20%に相当する8基が無効化されておりComputeUnit32基のGPUでした。他方Radeon RX 5700XTはComputeUnit40基が全て有効化されていました。
グレードとしてはRadeon RX 5600無印よりも下位にも関わらず、Radeon RX 6800の型番を振る無理筋
そして今回のRadeon RX 6800では本来80基存在するNavi21チップのComputeUnitの内、25%に相当する20基も無効化されています。Radeon RX 5600では20%しか無効化されていなかったのと比較するとそれを上回る無効化率です。
Radeon RX 6900XTは全てのComputeUnitが有効化されており、その点では同様に全てのComputeUnitが有効化されていたRadeon RX 5700XTと同格です。
しかし、Radeon RX 6800は25%ものComputeUnitが無効化されているので、20%のComputeUnitが無効化されていたRadeon RX 5600よりも”格下”です。
Radeon RX 6800はRadeon RX 5600よりも格下にもかかわらず、型番としてはグレード800+αに相当するRadeon RX 6800 XTを振っており、グレード600のRadeon RX 5600よりも上位モデルに見せかけています。これはAMD製品によく見られるミスリードです。
Radeon RX 6000シリーズの中ではRadeon RX 6800が真っ先に発売されました。25%もComputeUnitを無効化しているため生産数を確保できるためです。
本来、正常に機能しない演算器を無効化することは良品率を向上させることで製造原価を下げて低価格を実現するために実施されます。不良チップを破棄してしまうと、その不良チップの製造にかかったコストを他の良品に”転嫁”しなければならず、その結果良品の製造原価が上がってしまい店頭売価も上がってしまうためです。
しかし、AMDの製品の場合無効化ComputeUnit数を増やしているのは別の理由もあります。
それは流通量を確保する目的です。近年のAMD製品は流通量が極めて少なくまともに生産数を確保できていません。そこでComputeUnitをできるだけ多く無効化して、販売できるチップを増やしています。
価格以前に、歩留まりが悪すぎて流通量が極めて乏しいのもAMD製品の特徴です。
当然ながら、コストを下げて低価格を実現するために25%ものComputeUnitを無効化しているという側面もあります。
NVIDIAと同じ価格のGPUだったら、安くしないと買ってもらえないため、NVIDIA GeForceよりもコストを抑えることを優先するしかないためです。
1位: ASUS ROG-STRIX-RX6800-O16G-GAMING
GPU | AMD Radeon RX 6800 |
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型番 | ASUS ROG-STRIX-RX6800-O16G-GAMING |
専有スロット数 | 2.9 slot |
全幅 | 57.3 mm |
全長 | 320 mm |
全高 | 128.7 mm |
ブーストクロック | 2,190 MHz |
ベースクロック | 1,815 MHz |
単精度性能 | 16.8192 TFLOPS |
倍精度性能 | 1.0512 TFLOPS |
発売日 | 2021年2月 |
深層学習コア性能 | 0 FLOPS |
---|---|
メモリ容量 | 16GB |
メモリタイプ | GDDR6 |
メモリクロック | 16.0 GT毎秒 |
メモリバス幅 | 256bit |
メモリ帯域幅 | 512 GB毎秒 |
補助電源 | 8pin×2 |
推奨電源容量 | 650W |
冷却機構 | 空冷 |
---|---|
ファン数 | 3基 |
最大表示モニタ数 | 4画面 |
DisplayPort | DisplayPort 1.4a×2 |
USB Type C | (DP alt mode)×1 |
HDMI | HDMI 2.1×1 |
DVI-D | 非搭載 |
D-Sub | 非搭載 |
空冷グラボの中で最高の冷却性能を持つROG STRIXシリーズでも、このRadeon RX6800だと2,190MHzしかブーストクロックが出ません。大型ヒートシンクを搭載したオリジナルファンモデルにも関わらず、リファレンスモデルのブーストクロック2,105MHzと比較して本当に微々たるクロックの増加です。
このようになってしまった原因は、RX6800で使われているGPUチップは、RX6800XTやRX6900XTとして合格しなかったクロックが上がりにくい個体を採用しているからです。
NVIDIA製のGPU(Ampere世代)では、ROG STRIXの空冷モデルでも補助電源コネクタ8ピン×3を搭載していました。つまりこのグラボの冷却性能が不十分なわけではなく、ASUS側に問題があるわけではありません。
本グラボの冷却機構は本来、補助電源コネクタ8ピン×3(150W×3+マザーボード供給75W=525W)の電力供給があっても十分冷やしきれるものです。
にもかかわらず、フラッグシップのROG STRIXシリーズであっても、RX6800やRX6800XT搭載モデルが補助電源コネクタ8ピン×2になってしまったのは、RX6800チップでは温度を大幅に下げないとGPUが正常動作しないからです。
優秀な個体を採用したRadeon RXを求めている場合、RX6900XTを選ぶのがいいでしょう。
RX 6800XTだと事情はさらに深刻で、ROG STRIXシリーズでは空冷モデルではなく簡易水冷一体型モデルとなってしまいます。NVIDIA製GPUでは空冷でも十分冷やしきれるのにRadeon RX6800XTになると簡易水冷一体型が必要になるのは、RX6800の事情と同じで温度を大幅に下げないとチップが正常動作しないからです。
Radeon RX 6000番台シリーズのGPUには、ASUSやMSI等のグラボメーカー以前にGPUメーカーであるAMDの熱設計に根本的な無理があるので、次期GPUまで様子見するかNVIDIA製のAmpere世代を選ぶのが得策です。