日本株アルファ・カルテット(毎月分配型)の評価

この投資信託は、①株、②株オプション、③為替、④為替オプションという、4つの戦略を用いています。

この投資信託はオプション取引というデリバティブを利用し、カバードコール戦略を用いた投資信託であり、分配金を良くするためにデリバティブを用いている投資信託の真骨頂です。

ここでいう真骨頂というのは褒めて言っているのではありません。分配金の多さに惑わされて買ってしまう人が続出してしまう、買ってはいけない投資信託の代名詞とも言えるものです。

オプションというものは、オプションの買い戦略は損失は限定的、利益は無限大なのですが、この投資信託が採用しているオプションの売り戦略は利益は限定的、損失はいくらでも大きくなる(最悪残高ゼロ)というものです。証券会社ならオプションの売りを持つのも良いでしょうが、個人投資家がオプションの売りポジションを持つのはあまりにも危険すぎます。

実際にeワラントという商品では、オプションの売りを提供していません。利益は限定的、損失はいくらでも大きくなるというのは、損失を被った時の不利益が個人投資家には大きすぎるからです。そのオプションの売りというものをこの投資信託は使用しています。

数字は嘘をつきませんので、まずはこの投資信託の近況を見ていきます。

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まずは結論を見てみます

この投資信託はまだ新しい投資信託であり、販売が始まったのが2014年の7月です。

ひとまず2015年3月までの基準価格の推移をみてみましょう。

以下のグラフをみると、青い線の分配金込みは一応当初の10,000円よりはわずかに上回っています。しかし、赤い線の基準価格は綺麗に右肩下がりです。これは信託報酬が高過ぎること、元本を切り崩すタコ足配当を行って分配金を多くしすぎているためです。

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では次に、2015年9月いっぱいまでの基準価格をみてみます。

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2015年9月末時点では、基準価格は5,263まで下落しています。この投資信託ができたときは10,000円からスタートしており、1年ちょっとなのにもう半分近くまで基準価格が下落しています。

さらに青い線は分配金込みの基準価格ですが、これも最近右肩下がりで、そろそろ10,000円を割りそうです。

最近のTOPIX下落とブラジルレアル安のせいでこの投資信託は大きな損失を被っています。これも上海総合株価指数の暴落が波及しているせいですが、それ以前は分配金の多さでなんとか下落をカバーできていたものの、チャイナ株崩壊のせいでカバーしきれなくなっています。

この投資信託が売上上位にくるということは、「基準価格がここまで下がっている今が買いですよ」で売り込んでいるわけですが、問題は「基準価格が本当にこの先上がるのか」、「分配金がこのペースで出続けるのか」ということですが、基準価格が上がらないことを図を用いてこの下で説明していきます。また分配金の財源が足りなくなっていつか分配金を減らさざるを得ないだろうことも説明していきます。

日本株(TOPIX)上昇の恩恵を受けることができません

この投資信託は株価上昇の恩恵をうけることができません。それはコールオプションの売りという、利益は限定的・損失は無限大というデリバティブを使っているからです。

カバードコール戦略とは、原資産(ここでは日本株)とコールオプションの売りの組み合わせのことです。

オプションは図でみないと理解し難いので図にしてみました。

オプションを知っている方の中で、この図をみて「これはプット・オプションの売りじゃないか」と思った人がいるかもしれませんが、これはこの投資信託がTOPIXの現物を買い付けた上でコールオプションを売っているので、両方あわせるとプット・オプションの売りの「ような」損益線になるのです。同様に、ブラジルレアルの先物買いとブラジルレアルのコールオプションの売りもしているので、ブラジルレアル円についても以下の図のようになります。

この投資信託は株式現物が90%を占めていますが、「TOPIXコールオプションの売り、ブラジルレアル円の先物買い、ブラジルレアル円のコールオプションの売り」については証拠金さえあれば取引できるので、ほとんどの資金を株式に投入しているわけです。後述しますが、デリバティブ部分についてはクレディ・スイスとスワップ契約しているので、デリバティブ部分の損益はクレディ・スイスから提供されることになります。

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オレンジの線が、この投資信託を購入した個人投資家の損益線です。つまり、株価があがっても、オレンジの線は右側ずっと横ばいになっています。つまり株価が上がっても頭打ちなのです。そして株価が下がって左側にいくと、普通のTOPIX投資信託のように、しっかり損失を被ります。

つまりこの投資信託は、利益は頭打ち、損失はいくらでも大きくなる、という投資信託商品なのです。とはいっても投資信託を買い付けた金額以上に損はしないので、最悪でも投資信託に投じたお金がゼロになるところでストップします。

株価上昇の恩恵を「放棄」するかわりに分配金が高額になっています

さきほどの図では、たとえ株高になってもその株価上昇の恩恵が受けられない、つまり基準価格が上がらないと説明しました。

でもその代わり得ているものがあります。それがプレミアムです。赤い矢印の部分です。

つまり、株価上昇の恩恵を受けられない引き換えに、一定額のプレミアムという分配金を得ているわけです。実際に、株価上昇の恩恵が受けられないのでこの投資信託の基準価格はずっと横ばいが右肩さがりですよね。分配金を考慮してやっと上がるかどうかです。

これはどちらが得でしょうか?分配金を選ぶか、株価上昇を選ぶか。

実は、デリバティブではどちらを選んでも確率的には同じになるように設計されています。

つまり、株価上昇の恩恵を受けられる単純なTOPIX投資信託をかっても、分配金が偉い多い受け取りのこの投資信託をかっても、確率的には同じなわけです。

ですが、ここにはトリックがあります。デリバティブはコストが膨大だということです。

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この投資信託の全体像ですが、注目すべきは右側中央の、「スワップ取引の相手方」というところです。実はココがデリバティブ取引を行っているクレディ・スイス・インターナショナルという外資系証券会社です。

デリバティブというのは手数料が高いです。だからこそ証券会社が儲かるわけですが、投資家にとってはメリットがあまりありません。

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この投資信託の手数料体系をみてみます。下から2行目に0.795%というのがあります。これがデリバティブにかかる手数料であり、クレディ・スイス・インターナショナルという外資系証券会社に支払っている手数料が含まれています。

委託会社は大和住銀であり、販売会社は投資信託を購入した銀行なり証券会社ですから、トータルで1.9%も手数料を持っていかれる、つまり100万円買ったら2万円近く毎年持っていかれるということです。

だから、確率的にはとんとんであるはずが、このようにデリバティブの手数料が高すぎるためにトータルではマイナスなのです。

ブラジルレアル買い・円売りによる金利差は雀の涙

この投資信託はブラジルレアルあるという高金利通貨を買って、円という低金利通貨を売ることによって、差額の金利を得るという戦略もとっていますが、これはおまけのようなものであって、得られる利益は雀の涙です。

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さらに、今ブラジルレアルはブラジル経済の低迷のせいでレアル安になっており、金利も下落傾向です。これは中国人民元が利下げと通貨切り下げをしているせいです。なので今新興国通貨は総崩れですね。だからこの金利差の収益はますます小さくなっていきます。

なぜこの投資信託の基準価格が最近暴落しているのか

基準価格が下がっている要因は2つです。まず日経平均株価とTOPIXが上海総合株価指数のバブル崩壊にともなって大きく下落したことです。

もう一つは、ブラジルレアルが対円で暴落したことです。2015年初頭には1レアル45円あったのが今は30円です。まさに33%の暴落です。つまりブラジルレアル安、円高になったことに起因します。

ドル円はそこまで円高になっていません。およそ120円あります。これは円が上がったというより、ブラジルレアルが大きく下がったのです。

原因は、ブラジルレアルのお得意さんであるチャイナ経済の大幅な失速です。ブラジルとオーストラリアはチャイナと運命共同体といえるほど経済で繋がっていますから、上海の株価がこれだけ下がればブラジルレアルも下がります。よって、以下の図のうち、いままでは真ん中のポジションに居たのが、今は左に大きく傾いているわけです。toushin-JP90C000A931-4

再びブラジルレアルやTOPIXが持ち直しても、オレンジの線のように右側は頭打ちですから、基準価格が復活することはできません。

カバードコール戦略は、下がるのは楽、上がるのは難しい

カバードコール戦略はオプションというデリバティブをつかっていますが、このオプションには満期日があります。つまり期限が過ぎたらオプションは消えてしまうわけです。

消えたらどうするかというと、再びオプションを新たに組みます。これをずっと繰り返します。

もしオプションの満期日時点で、以下の図で左側の水準に来なかったら勝ちです。

この投資信託は毎月オプションの満期を迎え、また新たにオプションを組んでいます。上場しているカバードコールETFでも一ヶ月ごとにオプションを組んでいるのでこの方法は一般的です。

例えば、まず中央の地点で組んだオプションを考えます。以下の図の真ん中がスタート地点です。最初に、株価が上がって図の右側に行ったパターンをみてみます。

オレンジの線が右側はずっと横ばいですね。これはつまり、株価がいくらあがっても、株価上昇の恩恵は受けられないのです。たとえば日経平均株価が1か月で1万円も上がったとしても、もらえる利益は図の赤い矢印↕で表される一定額に限られるわけです。

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次に、株価が大きく下がったとしましょう。ここでは図の左に行きます。そうすると、オプションの満期に損が確定してしまいます。

そしてここが重要です。オプションを使わない単なるインデックス投資や先物買いなら、またTOPIXやブラジルレアル円が上がって右側に来るのを待ちさえすれば、また基準価格は元に戻ります。

ですが、この投資信託はオプションを使っているため、一度TOPIXなりブラジルレアル円なりが下がって上の図の左側に来てしまうと、そこを新たなスタート地点として新たにオプションを組むことになるのです。

そうするとどうなってしまうかというと、もしTOPIXやブラジルレアル円が回復して上昇したとしても、上の赤い矢印の部分だけしか上昇できず、単にインデックスだけを買っていた人は回復しているのに、カバードコール戦略(オプションの売り)をやっていた人は株価やブラジルレアル円が回復しても利益を受けられないのです。

だから、このカバードコール戦略というのは、一度下がってしまうとそのペナルティを取り戻すことが非常に困難です。地道に、時間がすぎるのをまって、赤い矢印のオプションプレミアムが積み上がっていくのを待つしかないということです。

逆に、この投資信託が勝ちとなるのは、株価もブラジルレアルの為替レートも全く動かないときです。このときはTOPIXを買っている人は儲かりませんね。株価が上がらないとTOPIXは上がらないからです。またブラジルレアルを買っている人も儲かりません。

ですが、そういう全く相場が動かない時はこの投資信託はとても強いのです。ボラティリティが低いときに得をするので、ボラティリティショート戦略といいます。

こういった戦略は2006~2007年のように、投資家心理がきわめてよく、恐怖指数が低く、ボラティリティが低いときにはとても良い魔法の杖のようなものなのですが、昨今のように国際情勢が荒れていて、各国が軍拡競争をしているような地政学的リスクが高まったり、新興国が不調なときには不利な戦略です。

この先、中国経済が安定、ロシアとウクライナが仲直り、中国が南シナ海から撤退のようなミラクルでも起きないかぎり、市場は荒れていくのでこの投資信託は不利でしょう。

とはいっても、もし仮にそういうミラクルが起こったとしても、すでにこの投資信託は上の図の左にハマってしまい、大きく基準価格を下げてしまいましたら、復活するのは極めて難しいと言えます。

基準価格が下がり過ぎると分配金がいつか減ります

基準価格が下がると、すでに持っている人にとっては不愉快ですが、これから買う人にとってはメリット!と言わんばかりに営業員が攻勢をかけます。基準価格が下がれば、分配金を基準価格で割った分配金利回りが上がるからです。ですが、基準価格が下がり過ぎると分配金が減額されることが起きます。

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お決まりの元本切り崩しのタコ足配当の図ですが、この投資信託の分配金はカバードコール戦略のプレミアムだけではなくて、元本の切り崩しも分配金の財源になっているのです。その証拠として基準価格はこの投資信託が設定されて以来ずっと右肩下がりですからね。

そうするとついには元本が足りなくなりタコ足配当ができなくなります。そうすると起きるのは、分配金の減額か、投資信託の償還・つまりは投資信託を強制的に終わらせるということです。このペースだと、いつか分配金は減らさざるを得ない事態になるだろうということが想像できます。

この投資信託の評価

この投資信託はTOPIXに投資し、加えてデリバティブを使って分配金を多く見せているものです。そしてそのデリバティブの部分で失敗し、2015年8月から10月にかけて基準価格が暴落しています。そして、TOPIXや日経平均株価がこの先上昇していっても、その恩恵を受けることができないのがカバードコール戦略です。

それならばTOPIXのインデックス投資信託を買ったほうが利益が出る上に、信託報酬も格安です。

分配金を多く見せるためならあらゆるデリバティブを駆使するという、金融知識の乏しい人を食い物にする商品の代表格です。Fランクとします。