フィデリティ・USリート・ファンド B(為替ヘッジなし)の評価

この米国リートファンドは、海外リートを組み込んだ投資信託の方では比較的まともな方だと言えます。ポイントはダイワグローバルリートやラサールグローバルリートのように米国以外のリートに分散していないということです。

分散投資というととても響きが良い言葉と認識されており、とくに個人投資家の間では人気です。卵を一つのバスケットに~というスローガンを非常によく見かけます。ですが私は法人相手の金融実務に身を置いている人(業界人なのでプロの人)の中で、一人もそのようなことを言っている人を見かけたことがありません。

私は機関投資家内だけで出回るレポートの中で「分散投資は愚の骨頂」というものを読んだことがあります。なぜなら分散投資を徹底していけば、それは無リスク金利に収束するのであり、それなら最初から無リスク資産に投資すれば良いというものです。「分散投資する運用者は腕に自信がないから逃げている」とも書いてあり、確かに本当に腕に自身のある運用者なら徹底的に勝てる部分を選択をして、アルファを獲得できる部分にだけ注力すれば良いはずです。ですが、分散しておけばもしパフォーマンスが負けても「分散して負けたのはそもそも市況が芳しくないから仕方ない」と責任を回避できるメリットがあります。特にこれは日系の職場では重要です。そういった意味では金融業界側としては分散投資ほど楽に、かつ、責任も回避しつつ儲かるものはありません。

とはいってもこのファンドはその「選択」をしてベンチマークを超えることを目標にしつつ、実際は負けています。姿勢は良いのですが、結果が伴わないならインデックス連動のパッシブ運用でも良いのではないかなと私は思っています。ですがそれだとコスト面や流動性でETFに勝てないので、プラスアルファを狙っているのでしょう。

実際はこの投資信託はベンチマークに負けているかほぼ同じ動きをしているので、実質はほとんどパッシブ運用と言えます。ですが運用者はベンチマークを超えることを目標と言っているのでアクティブ運用に分類しています。

これから手数料体系や今後の見通しも含めてみていきますが、ですが投資環境や今後の見通しについては若干甘い印象を受けます。ポジショントークも入っていますし、も少し厳し目にリートの投資環境を見ておくくらいが丁度良いと考えています。

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FTSE NAREIT Equity Reit Indexを超えることを目標にしています

先程も書きましたが、この投資信託はベンチマークを超えることを目標にしていますが、実際は負けています。まずはベンチマークがそもそもどんなものか確認しておくのが重要です。

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ここにある通り、ベンチマークはFTSE社が提供している指数であり、NAという米国不動産投資信託協会が算出するREIT指数です。

このFTSE NAREITには様々な種類があり、その中でもこの投資信託が採用しているのはEquity REIT指数です。Equityリートというのは一体何の範囲を言っているかということですが、これはFTSE本家のファクトシートに説明があります。

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最後の2行が重要で、このリートは森林(Timber)リートとインフラリートを除いたもの、と定義しています。この森林リートとインフラリートも含めたものは、All Equity Reits指数として提供されています。

ですがこの投資信託のベンチマークとして採用しているのはAllがついていない方なので、森林リートとインフラリートを除いています。なぜ森林とインフラリートを除いているかということですが、森林リートやインフラリートは、オフィス、小売、住宅やホテルといったリートと逆相関にあるからです。

つまり値動きからいうと森林リートやインフラリートは仲間はずれの値動きをするので除外した指数を用意しているわけです。この投資信託はそれを採用しています。

また、モーゲージなども含まれていません。モーゲージを含めたものはUS Real Estate指数として定義されており、以前紹介したiシェアーズ米国不動産ETFで採用しているダウ・ジョーンズ社のUS Real Estate指数とほぼ同じです。

なのでこの投資信託は、iシェアーズ米国不動産ETFとほとんど似ていますが、モーゲージを含むか否かといったところで違うわけです。

ちなみにJ-REITは森林もインフラも含んでおらず、この投資信託が採用しているベンチマークのUS Equity REIT指数が一番、日本のJ-REIT指数のイメージに近いと言えます。インフラを証券化したものはインフラファンドとして今後東証で上場市場が整備されることが決まっているので、日本ではまだまだこれからの分野です。

売り圧力が強まっている米国リート

まずは米国リートの投資環境についてどう解説されているかみていきます。

当作成期初の米国リート相場は、堅調な上昇となりました。米連邦準備制度理事会(FRB)は2014年10月で量的緩和策を終了し、また、市場では地政学リスクの懸念が高まる局面もあったなか、FRBが当面の間は低金利政策を継続する姿勢を示したことが好感されました。

まずは金利の話から始まっています。リートとは利回りで運用される商品なので、どちらかというと債券に近い商品です。一方でデット商品ではなくエクイティ商品なので、株という側面も持っているわけです。

「FRBが低金利政策を継続する姿勢」が好感されたということは、やはりリートは金利上昇局面には弱いということです。また、「地政学リスクの懸念が高まる局面もあったなか」と書いてありますが、これは2015年10月の現時点でも存在します。むしろ高まっており、イギリスメディアの報道によると米国のオバマ大統領は近いうちに、米海軍に南シナ海のチャイナ軍事拠点に介入する許可を出すようです。大統領任期中はなんとか穏便に済ましたとしても、ヒラリー・クリントンでさえいつの間にか強硬派になったので、共和党が勝っても民主党が勝っても、地政学リスクはチャイナリスクがある限り高まるでしょう。

2015年1月下旬から当作成期末にかけて米国リートは下落基調に転じました。原油安などを背景に1%台半ばまで低下していた米国10年国債利回りが、米国の雇用関連指標の堅調な回復などを受けて2%前後にまで上昇したことや、2014年第4四半期決算で多くの米国リートが良好な内容の決算を発表するなか、米国リートの利益を確定する動きが投資家の間で一旦優勢となったことが背景です。

FRBの低金利政策維持でなんとか持ちこたえたと思ったリートも、2015年初頭から下落を初めます。理由は米国債利回りの上昇です。国債の方が有利になれば、代替資産としての米国リートは相対的に不利になり、需要が低迷するために下落します。この流れは2015年10月現在も続いていると言えます。

次に今度の動向についての見通しを見てみます。

米国金融政策については引き続き注視する必要がありますが、金融引き締めの動きが経済状況に即したものである限り、米国金融政策の米国リート相場への影響は短期的なものにとどまり、米国商業用不動産の良好なファンダメンタルズを反映し、米国リート相場は、長期的に堅調に上昇するものと考えています。

この部分はポジショントークと割りきっておいたほうが良いです。「金融引き締めの動きが経済状況に即したものである限り」という部分が重要です。つまり実体経済が好調な上で利上げに踏み切るのなら大丈夫と言っているのですが、おそらくそのような状況になくても利上げするくらいFRBは利上げにこだわっています。理由は利上げをすることによって米国に資金を引き戻したいからであり、新興国から資金を引き上げさせたいからです。新興国とはロシア、チャイナです。この二カ国は確実に利上げの被害者となるので、上げてほしくないでしょうが、おそらく今の米国の姿勢を見ていると何が何でも引き上げてくるでしょう。

リスクの高い分野で負けているので投資環境が良くない

この投資信託はベンチマークに勝っている要因と負けている要因があります。ベンチマークに完全連動することを目標にするのではなく、選択によってベンチマークを超えることを目標にしているので、プラス要因とマイナス要因に分けることができるわけです。その要因を見てみると、リートの投資環境の厳しさがわかります。

主なプラス要因は以下の通りです。
・AMERICAN RLTY CAP PROPRTY INC(小売セクター)の保有比率をベンチマークに対し低くしていたこと
・倉庫セクターの保有比率をベンチマークに対し高くしていたこと
一方、主なマイナス要因は以下の通りです。
・HOST HOTELS & RESORTS INC(ホテル・リゾートセクター)の保有比率をベンチマークに対し高くしていたこと
・DIGITAL REALTY TRUST INC(多角セクター)の保有比率をベンチマークに対し高くしていたこと

まずプラス要因からみると、小売セクターの保有比率を低くしていたことがプラス要因だと書いてあります。小売セクターというのはリートの中ではハイリスクなので、ハイリスクな資産を低くしていたことがプラスに働いたということです。

またマイナス要因については、ホテル/リゾートセクターの保有比率を高くしていたこと、と説明されています。ホテルというのはリートの中でも最もリスクが高い分野であり、物件の汎用性も低いことから手堅い投資対象とは言えません。うまくあたればオフィスを上回るリターンを提供してくれますが、その部分の比率を高くしていたことがマイナス要因となったということは、楽観できる投資環境ではないということです。

小売の比率が高いのがリスク

この投資信託が組み入れている米国リートの分野別比率をみていきます。

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これを見ると小売の比率が一番高くて、オフィス・工場が2番手だということがわかります。J-REITのように、オフィスの比率が圧倒的に高い中では小売の比率の高さが目につきますが、実はこれでも小売の比率は低くなった方です。

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このように前期末からの比率の推移をみてみると、小売の比率が下がりオフィスの比率が上がっています。これはより手堅くなったと言えるでしょう。オフィス物件というのは流動性が高く、汎用性も高いので不動産の価値が高めです。一方で小売はテナントが潰れたり、景気の影響も受けやすいのでオフィスほど手堅くありません。どちらかというと小売の方がハイリスクです。ハイリスクということは、景気が良いときにはオフィスを上回るレベルのリターンを提供してくれますが、低迷すると逆に重しになるということです。

この比率の変化を見ると、オフィスの比率を増やし小売の比率を下げたことは守りの姿勢への転換が見えます。

過去5年の時期がずれるとここまで変わります

目論見書には過去5年のリターンを他の資産クラスと比較した上で明記することが義務付けられています。よって以下のような図はどのような投資信託の目論見書でも似たようなものを必ず目にすることになります。まずは2015年4月までのリターンを他の資産クラスと比較したものを見てみます。

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この図からすると、この投資信託は極めて優良に見えます。なぜなら、リターンの22.7%が他の資産クラス全てに勝っている上に、最大値と最小値の差(これは標準偏差としてのリスクではありませんが、リスクのようなものと考えていいでしょう)も日本国債ほどでないにしろ小さくなっています。特に日本株や先進国株よりもリスクが小さいのにリターンが上がっているのはとても見栄えが良いです。

ですが、これは2015年4月からみた過去5年が米国の金融市場にとって極めて有利だったということなのです。次に2015年2月時点での過去5年の比較をみてみます。

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そうすると大きく図が様変わりします。この投資信託のリターンは確かに一番大きく、他の資産クラスを圧倒していますが、その代わり最大値が大きすぎます。これは2009年3月頃に底をうった米国のリートが大きく再上昇する時期を含んでおり、そのおかげで最大値が大きくなっている=リスクが大きくなっているのです。リスクが大きいと言っても、利益が出ている良い方向に大きいので悪いことではないのですが、価格の振れ幅が大きいことはあまり褒められたものではありません。このようにたった半年ずれるだけでも、過去5年のグラフはここまで変わるのです。私はこの後者のグラフを提示されたら良くは思いません。あまりにも変化幅が大きすぎるからです。この大きな上振れが下振れになることが十分蓋然性が高いからです。

ですが前者のグラフを出されたら、この投資信託は良いと一瞬でも錯覚してしまいます。できるだけ目論見書だけでなく運用報告書にまで目を通すのが良いと言えます。

手数料体系

この投資信託の手数料体系は良心的な方です。以下は税抜きの信託報酬の内訳です。

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まず販売会社への手数料が0.6%で固定なのが良いです。0.6%はお世辞にもやすいと言えないというより、むしろ高すぎますが、固定であるということは販売量に応じて営業員に報いるというインセンティブが働かないので個人投資家をはめるために営業という危険性が減ります。

過去6ヶ月のうち2ヶ月分がタコ足配当

iシェアーズ米国不動産ETFが年4回の分配、J-RETのETFでも多くて年6回の分配(隔月分配)でるかとからしても明らかですが、リートで毎月分配を行うのはかなり無謀なことを行っています。実際に、このリートは1月、2月と2ヶ月連続でタコ足配当を行っています。

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しかも分配金を100円にまで増やしています。不動産からの賃料収益に裏付けされた分配金なら増やしても良いと思いますが、タコ足配当で100円に増額というのは理解し難いものです。これにより配当金利回りは1.2%から、1.5%まで上昇していますから、配当金利回りを大きくみせて配当金利回りランキングで上位に食い込みたいのでしょう。配当金利回りで上に来ないと個人投資家に見向きされないという現状は本当に残念です。

ベンチマークと比較

この投資信託はベンチマークを上回ることが目標なので、ベンチマークと比べてどうなっているかをみていきます。まず交付目論見書の基準価額の図ですが、これにはベンチマークとの比較図が書いてありません。

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分配金再投資の青い線は好調ですが、基準価額はタコ足配当で横ばいです。海外リートは分配金を多くしたいがためにどこもこんな感じですね。

次に半年間のベンチマークとの対比をみてみます。

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これをみると、グレーの線のベンチマークに青い線の再投資基準価額がほぼ連動していることがわかります。ここまでくるとアクティブ運用ではなくパッシブ運用ではないかと思えてくるのですが、最終的にはベンチマークの方が上回っています。ベンチマークを上回ろうとして、逆に下回ってしまった例です。赤い線の基準価額がどんどん離れていっていることからしても分配金を出し過ぎだとわかります。

次に過去5年のベンチマークとの比較をみてみます。

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ここまでくるとベンチマークの方が圧倒的に勝っているということがよくわかります。この乖離が大きくなってきたのは、日本の金融緩和第二弾があってからです。日本が低金利、米国が相対的に金利が高くなるという状況において、積極的にリスクのある銘柄を選択しているこの投資信託は、より保守的なベンチマークに負けてしまっているのです。

次にこの投資信託が設定されてからの推移をみてみます。

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一番上を行っている点線がベンチマークです。ベンチマークが完全に引き離しています。これならベンチマーク連動のパッシブ運用を行っている、FTSE NAREIT Equity REITs連動の米国リートETFがもしあったら、そちらを選択したいところです。モーゲージを含んでいる点でiシェアーズ米国不動産ETFとは異なりますが、それが気にならないのならiシェアーズ米国不動産ETFでも良いかもしれません。

米国以外も含めたワールドリートと比較

このリートは米国のみが対象のリートですが、以前ダイワグローバルリートとラサールグローバルリートを比較してラサールグローバルリートの方に軍配が上がったので、ラサールグローバルリートとこのUSリートを比較してみます。米国以外のリートにも分散しているラサールグローバルリートと、米国リートのみのフィデリティUSリートの差がよくわかります。

リスク量

リスク量は1日あたりの値動きの大きさを標準偏差(ヒストリカルボラティリティ)として計算したものです。

年度 ラサール・グローバルREITファンド フィデリティUSリート
2014 0.66% 0.72%
2013 1.06% 1.13%
2012 0.90% 0.93%
2011 1.36% 1.51%
2010 1.40% 1.71%
2009 2.22% 3.54%

リスク量は小さいほうが良いとみなします。赤い文字の方が勝っていることを表します。これをみるとラサールグローバルリートの方がすべての年においてリスク量が小さいです。米国のみのこの投資信託と、米国以外にも分散させるグローバルリートならグローバルリートの方がリスク量が小さくなるということです。

シャープレシオ

次にリターンをリスク量で割ったシャープレシオをみていきます。リターンを加味しているシャープレシオは大きい方が良いと言えます。赤い文字が勝っている方です。

年度 ラサール・グローバルREITファンド フィデリティUSリート
2014 3.85 4.23
2013 1.25 1.29
2012 2.38 1.97
2011 -0.19 0.12
2010 0.27 0.36
2009 0.93 0.83

これもわりと面白い結果です。まず2009年はフィデリティUSリート(今回評価している投資信託)が負けています。これはリーマンショックの影響を完全に受けた米国リートが負けた年と言えます。

ですがその後はこの投資信託の方が上回っていることが多いです。特に2011年はラサールグローバルリートはマイナスですが、この投資信託はプラスですし、2014年にいたってはこの投資信託はとても大きいリターンを獲得しています。

つまりリスク量だけでみると米国リートの方がリスクは大きいですが、リスクあたりのリターンでみると、米国リートのほうが優っていると言えます。

単にリスク量だけみれば分散しているラサールグローバルリートの方がリスクは小さいですが、獲得しているリスクあたりのリターンは米国リートが大きいことを考慮すると、オーストラリアやイギリスのように対チャイナ依存が強い地域よりは強硬姿勢を示している米国の方が展望が明るいでしょう。