上場インデックスファンド MSCI 日本株高配当低ボラティリティの評価

風変わりなETFの上場が決定しました。日興アセットマネジメントの上場インデックスファンド MSCI 日本株高配当低ボラティリティというETFです。恣意的な運用を排除した客観的なルールベースのアクティブファンドは手法が再現可能なので、上場日にはまだ遠いですが評価していきたいと思います。

上場が決定したのは日興アセットマネジメントのMSCIカスタム指数に連動するファンドです。MSCIジャパン指数という親指数をベースに日興が考案したものですが、MSCIが算出しており著作権もMSCIにあります。

これはアクティブファンドに属しますが、計算方法が公開されています。それに従えば個人のパソコンでも全く同じポートフォリオが再現できます。上場審査を通るにはルールに客観性があり、誰でも再現できなければならないので、そういった意味では投資家にやさしいアクティブファンドです。アクティブファンドの多くでは、「ボトムアップアプローチとトップダウンアプローチで総合的に決定します」という定型文を目にしますが、要は運用者の裁量と好みで運用されているものがほとんどで、そういうファンドはETFとして上場できません。またどういうときにそのファンドが成功し、どういうときに失敗するのか要因分解ができないので投資家の不利益に繋がることが多いのです。

一方で今回の高配当低ボラティリティETFは客観的なルールが公開されているため、他の高配当ETFや最小分散ETFと比較できる部分と比較できない部分が明確にわかります。

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大口である金融機関に敬遠されない絞り込み

このETFは金融機関が保有しやすくすることを念頭に置かれています。特に国債の入札となると生保や銀行が数千億の単位で入札しますから、やはりお客さんとしての金融機関の存在は投資信託といえども無視できないわけです。

まずこのETFは金融機関の銘柄を除外しています。より厳しくなったバーゼルルールでは金融機関の株を購入するとそれは銀行の自己資本比率から差っ引くことになるため、金融機関にとっては不利です。そのため金融機関を除外したEx-financialsというETFも存在します。

ですが、間接的に金融機関と連動する銘柄はあります。

例えばこのETFの組み入れ比率、同列1位に野村総合研究所があります。野村総合研究所はセブン&アイなども顧客にいますが、全体でみれば野村證券による貢献が大きいですから、事実上金融機関の業績に連動する銘柄が入っているとも言えます。

さらに細かいところをみると、このETFはJ-REITには投資していません。なぜなら金融機関のリスク管理というのは普通、株とJ-REITは別物の商品として管理しているからです。そのため株とリートが混ざっているETFは敬遠されます。儲かればなんでも良いというものではなく、しっかり要因別に損益を分解できることが金融機関にとっては重要なのです。

1流動性→2高配当→3ボラティリティを下げる比率決定の順序

このファンドでとても印象的なのは名称です。「高流動性高利回り低ボラティリティ」と言われても一体何に投資するのかわかりにくいですが、インデックスの詳細を読んでみると極めて明快なファンドです。

まずこのETFは「一ヶ月の売買代金上位400銘柄」で最初に絞り込みます。高配当な銘柄というものは、配当金利回り200%のようなボロ株が上位に来てしまうので、それらを除外するためです。

次に高配当のものに絞るために「配当利回り上位150銘柄」で絞り込みます。そして最後に、150銘柄の構成比率を均等割ではなく、「ボラティリティを低くするために数理計画法で比率の最適化」を行います。

iシェアーズ最小分散ETFは、MSCIジャパン(こちらもリートは除く)を対象にしていきなり比率の最適化をしていました。今回のETFは「高配当」という絞り込みをしてから、数理モデルであるBarraモデルで比率の最適化をしています。

このようにまずは流動性で絞り込み、次に配当利回りで絞り込み、最後に各銘柄の保有比率の決定という順序が名称にも織り込まれています。

売買代金で流動性を判断して絞り込み

なぜ流動性で絞り込む必要があるかというと、高配当な株というのは価格が下がりきっている低位のものが多いからです。配当金利回りは分母の株価が小さければいくらでも大きくなってしまうので、ボロ株が配当金利回り上位を独占してしまいます。そういうのを排除するために、ある程度取引があるものに絞り込んでから、配当金利回りで上位から並べるわけです。

今回のETFとは別にMSCIジャパン高配当インデックスというものもあります。これはブラックロックのiシェアーズとして上場していますが、iシェアーズの方は配当金利回り上位5%を除外ということをやっています。

配当金利回りが大きい順に並べると配当金利回り数百%というとんでもないものが上位にくるので、銘柄数ベースで上位5%を除外すれば、そういう特異な銘柄は除外できるだろう、ということです。

こういったぶっとんでいる銘柄はルールベースの、クオンツ運用にとってはとてもやっかいなノイズとなります。ほんの小さな買いがはいっただけでも価格が20%とか上がってしまうので、そういうものは数理モデルに馴染みません。

最小ボラティリティではなく「低ボラティリティ」

iシェアーズから最小分散ETFがでていますが、最小分散ETFと違うのはまずユニバースが挙げられます。最小分散ETFは「高配当のみ」といった絞り込みをせず、MSCIジャパン指数を構成する銘柄を対象としているので対象銘柄数が多いです。

さらに違うのは、最小分散ETFは分散を最小化するように比率の決定をするときに1.5%を上限としています。2015年10月31日時点で、最小分散ETFを構成する銘柄の最上位は西日本旅客鉄道の1.8%です。1.5%を超えてるじゃないかと思うかもしれませんが、これはリバランスを行うのが2月末と5月末の年2回なので、その間に時価総額が動くと比率が上限を超えてしまうことが起きます。これは今回のETFでも起きています。

例えば2015年8月31日時点の組み入れ比率で野村総合研究所が同列1位と先ほど書きましたが、この比率も1.02%となっており1%の上限を超えています。今回のETFは2,5,8,11月にリバランスがあるため、その間に時価総額が動くと上限比率を超えてしまうこともあるわけです。

またこのように上限を決めている理由は、制限なしで最小分散の最適化を行うと1つの銘柄で組み入れ比率30%のようなことが普通に起きてしまうからです。

私は日経平均株価のように、特定の銘柄:ファーストリテイリングやソフトバンクのようなものを恣意的に5%を超えるような高い比率でひいきしているものが嫌いなのですが、日経平均でさえ1銘柄あたり10%を下回るようにしているのです。

また浮動時価総額平均であるTOPIXではトヨタが5%で1位ですから、高々5%くらいが組み入れ比率の上限だと言えます。

今回評価している高配当低ボラティリティETFは、上限を1%として比率を決定していますが、さすがに1%は低すぎるのではないかという印象です。制限なしで最小分散を実現するための比率を計算したら1.3%だったとしても、1%を上限として最適化せざるを得ないということです。その制限されている分だけ分散が上昇しボラティリティも上昇することになります。つまり最小分散の水準からどんどん離れていくわけです。

わざわざ1%にする理由については、このETFのコンセプトは日興アセットマネジメントのWebページを読むとある程度推測できますが、このETFの設計段階では均等配分することがコンセプトになっているようです。

高配当で絞り込みをするときに上位150銘柄ですので、単純に均等配分すると1銘柄あたり0.67%となります。ですがそれでは面白くないので、最近見直されて流行っている最小分散の概念を高配当で絞り込んだあとの最終段階に適用してみたのでしょう(これは私の推測です)。

150銘柄を対象にして1つあたりの上限比率が1%ですから、Barraモデルで比率を最適化してもほぼ均等配分と同じような結果になると言えます。そのためiシェアーズ最小分散ETFのように、最小分散性を前面に押し出したETFとは言いがたいです。

このファンドはどちらかというと最小分散よりも高配当に属する

このETFの特徴を最も決定づけているのは、2段階目の「配当金利回り上位150の銘柄」というところです。ここでほぼこの指数が決定しています。

高配当ということはすなわち株価が安くなっていることを指すことが多いので、自然とバリューファクターの重みが大きくなると日興AMの説明にもあります。高配当投資はバリュー投資とニアリーイコールと言えます。今回のETFはこの高配当=バリュー投資という側面が強く、最小分散性(低ボラティリティ性)は色が薄いです。比率の決定においても上限が1%ですから、均等配分の0.67%とさほど変わりません。

だからこそ最小分散と名前に入れずに、低ボラティリティと少し表現を抑えてるのかもしれません。英語表記もminimum volatilityではなくlow volatilityです。

そのためこのETFを比較するときには他の高配当ETFとの比較が妥当であり、最小分散ETFとの比較はユニバースが大きく違うためあまり比較にならないと考えます。

このETFは高配当(≒バリュー)かつ低ボラティリティ(≒均等配分)がコンセプトらしいので、そのコンセプトは十分に達成できていると思います。そのコンセプトを採用したい場合はこのETFは良い選択と言えます。