iシェアーズ MSCI 日本株最小分散 ETFの評価

今回は上場が決まったことが2015年9月29日に報道された投資信託(ETF)を紹介します。

2015年10月20日に本来は上場してから紹介しようと思ったのですが、このETFはいままで販売されてきたものと一線を画する画期的なものなので、早めに紹介すべきと考えました。

また、このような数理に基づいた金融商品は私の本分でもあるからです。このETFの名称についている最小分散という言葉からして数学的です。

機関投資家では最小分散ポートフォリオは基本中の基本の手法なのですが、今まで個人投資家が気楽に買えるファンドがありませんでした。個人投資家でも年率0.19%という安い信託報酬で手が出せるようになったのは革新的なことです。

そもそも最小分散とは何か、なぜ最小分散が注目されているかを解説していきます。

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分散はリスク量を表します

分散の計算は高校で習う範囲ですが奥は深く、大学院レベルの計量経済学をやってやっと金融に応用できるものができるようになります。私は工学分野の修士修了なので、計量経済学は専攻していませんが、興味がある人はハミルトンの「Time Series Analysis(和訳書:時系列解析・上下巻、沖本・井上訳)」を読むと良いです。私は和訳書の上下巻を持っています。

分散よりも、分散の平方根をとった「標準偏差」のほうがなじみがあるかもしれません。偏差値というのは標準偏差から求めているからです。

この分散や標準偏差が大きい投資信託というのは、価格の散らばりが大きいのです。

たとえば株の中には1日で10%も動くものがあります。小型の新興株などがそれに該当します。中には日本電信電話のように1日で1%も動かないものもあります。こういった値動きの大きさを表す数学的な量が「分散」です。

分散の平方根をとったものを標準偏差といいますが、金融の価格系列の場合はこの標準偏差のことをボラティリティとも呼びます。ボラティリティにはヒストリカル・ボラティリティ、インプライド・ボラティリティ、実現ボラティリティなど計算方法によって様々なものがありますが、最近注目されているのは実現ボラティリティです。

2009年頃から再注目され始めた最小分散ポートフォリオ

最小分散ポートフォリオは、リターンは無視してリスクの小ささを最優先するものです。

リターンとはいくら儲かるかということなので、年率10%儲かるか、あるいは年率-20%のように損するか、は無視するのです。つまり最小分散では儲かるか損するかは考えません。

考慮するのは、リスクの大きさです。リスクの大きさは、日々の値動きの大きさと思ってください。

例えば日経平均株価が1000円暴落したとき、値動きとしては5%近く動いていることになります。それが一年中続いたら、その年は1日あたり5%も日経平均株価が動いていた荒れ相場ということです。

ですが、ある人がそういう相場を嫌って、日経平均株価のような値動きの荒い指数ではなくて、もっと静かに動く指数を探していたとします。その人にぴったりなのがこの最小分散ETFなんです。

たとえば1日に0.5%しか価格が動かない株価指数があったら、先ほどの5%も動く日経平均株価よりも良いと判断するわけです。

実は最小分散ポートフォリオという考え方はえらい昔からあります。それこそ1960年くらいには既に提唱されていたレベルで、それを計算するために使う分散共分散モデルや最適化問題は大学で使う教科書レベルでも掲載されています。

将来の運用成績は最小分散ポートフォリオで選んだ銘柄が良いという論文が相次いで発表

「いくら儲かるか」を考慮するポートフォリオを接点ポートフォリオやシャープレシオ最大化ポートフォリオといいます。

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上の図で、青い曲線の左側の部分に黒い●があります。そこが接点なので、その部分に該当するのがシャープレシオ最大化ポートフォリオです。

ですが、この黒い●のところは、リスクを最小化する銘柄の組み合わせではありません。

リスクを最小化するというのは、分散を最小化するということですから、横軸で一番左に行く必要があるのです。

上の図だと、青い曲線が一番左に来ている部分、黒い●より少し左側の頂点になっている部分が、リスクを最小化する地点です。この地点で株の銘柄の比率を選択するのが最小分散ポートフォリオです。

実はリスクを最小化することは、値動きの大きさを最小化するということですから、「そんなのでは儲からないじゃないか」と長く思われてきました。

ですが、実際に最小分散ポートフォリオで運用してみると、「将来の結果は最小分散ポートフォリオが良い」と2009年頃から相次いで指摘されてきたのです。

シャープレシオ最大化ポートフォリオというのは、過去の成績を最大化しますが、それは後出しじゃんけんです。過去の価格推移がわかっているのなら、後出しで一番儲かるように株を選ぶのは誰でもできます。そんな後出しじゃんけんよりも、予測できない・わからない今後が重要なのです。

普通投資をするときは将来どのように価格が動くかわからないわけですから、そういう状況ではシャープレシオ最大化ポートフォリオというのは将来の予測においては幻想であり、あくまでも過去でのみ良い結果になるだけです。

そういう中で、最小分散ポートフォリオというのは将来の結果を良くするということがわかってきたのです。とても古典的な方法が再度見直されてきたということです。

このETFはBarraモデルを用いている

モデルというのは数理モデルのことだと思ってください。要は数式です。こういう数式に金融市場は従っていると「信じて」数理モデルを選択しています。「信じて」ということろが重要でして、モデルに正解はありません。つまり最小分散も一つの考え方であり、完全無欠のすべてを解明する超理論ではないのです。どちらかというと主観で選ぶ、好みの世界です。

このBarra社とは金融モデルを開発している会社でしたがMSCIに買収されたのでMSCI Barraモデルという名称になっていますが、やっていることは分散共分散行列を使った最適化問題を解くことです。

ここでポイントなのは、売りのポジションを取らずにポートフォリオを組むということです。つまりすべての銘柄は買い=ロングのみで保有し、売りポジションを取りません。

ここが最小二乗法を使った比率決定と違うところです。

私は、4000銘柄近くある日本株の中から2つの組み合わせを選んで、一般化最小二乗法で分散を最小化することによって、一種のアービトラージをしています。ですがこの場合、ショートポジションが必要になることがあります。

一方でこの最小分散ETFは最小二乗法ではなく分散共分散行列を使った最適化問題として比率を求めるため、すべての比率係数は正の値となり、ショートポジションがいらないポートフォリオになります。

TOPIXとほぼ同じ値動きだがTOPIXよりリターンが良い

まずはTOPIXとは東証第一部のみを対象とした指数だということを確認しておきましょう。二部やマザーズやジャスダックは対象としていないわけです。

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次にこの最小分散ETFの価格推移をみてみます。この最小分散ETFは、MSCIジャパン指数を構成している銘柄を対象(ユニバース)としているので、J-REITを除く東証に上場しているすべての銘柄が対象です。

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グラフでみるとほぼ同じです。なので数値で細かく見ていきます。

最初にTOPIXのリターンです。東証第一部に上場している銘柄の指数です。

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次にこの投資信託、最小分散ETFのリターンを見てみます。

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「過去3年」を除く、すべての期間において最小分散ETFが勝っています。直近六ヶ月はTOPIXと同じくマイナスですが、マイナスの程度が小さいとわかるはずです。つまり下落局面でも軽傷で済むということであり、これは分散を最小化、すなわちリスクを最小化しているからです。

このETFの評価

いままで機関投資家や一部の投資工学に詳しい人にしか手が出せなかったものを、個人投資家にも安い手数料(買い付け手数料約0.1%、信託報酬年率0.19%)で手が出せるようになったということを高く評価します。

この手数料の安さと、いままでこのようなファンドを出してこなかった国内運用会社に切り込んだブラックロック社を評価し、Aランクとします。