TOPIXリスクコントロール指数(ボラティリティ10%)ETFの評価

今回はボラティリティに焦点をあてたETFを評価します。ETFというのは東証の上場審査を通過した投資信託のことなので、世間一般でいう投資信託、つまり上場していない投資信託には投資家を騙すようなひどいものも多いわけですが、ETFは東証の審査を通過してるだけあってまともな投資信託が多いです。

その代わり東証の厳しい審査を通過するETFは、ありきたりな似たり寄ったりの商品になりがちであり、積極的にETFを好き好む個人投資家はあまり多くないようです。

しかし実は、ETFというのは証券会社に勤めている役職員には人気がある商品です。なぜなら証券会社に勤めていると個別株が自由に取引できないために、どのタイミングでも買い付けることができるのは投資信託や上場投資信託(ETF)くらいしかないからです。

とはいっても証券会社の人は投資信託のぼったくり手数料のことをよく知っているので、手数料の安い上場投資信託(ETF)を好んで買います。どうしてもETFとして上場していない、公募投資信託としてしか買えないものについては、仕方なく投資信託を高い手数料を支払って買うこともあるのですが、最近はETFのランナップがとても充実しているため、ますますETF以外の上場していない、いわゆる普通の投資信託を買うことは少なくなってきています。

そのように最近はETFは充実してきて、変わった商品も揃ってきているわけですが、今回紹介するこの商品はその変わった方に分類されるETFです。

ボラティリティに焦点をあてたものだと、本サイトでは「iシェアーズ MSCI 日本株最小分散 ETF」を既に評価しています。それとからめて、何が違うのかを含めてこの「TOPIXリスクコントロール指数(ボラティリティ10%)ETF」を評価していきます。

ボラティリティ10%とは具体的にどの程度の大きさか

このETFはボラティリティ10%をうたっていますが、具体的にボラティリティ10%とは何を指すのかはしっかり理解しておく必要があります。

ここでのボラティリティとは、「1年間に平均して基準価格がどのくらい動くか」を表すものです。

例えば、TOPIXの1年間あたりのボラティリティは2014年は12%、2013年は17%、2012年は22%です。

2014年のボラティリティが12%ということは、2014年は年間あたり12%基準価格が動いたことを表します。これは上昇のみならず下落も含めます。TOPIXは2014の間にも、上がったり下がったり様々な動きをしていますから、その動きを総合してどのくらい上昇や下落をしたのか、を表すのがボラティリティです。

2014年のボラティリティが12%ということがわかると、2015年の見通しがある程度つきます。つまりTOPIXに連動するETFを保有していると2015年も平均して12%程度儲かったり、12%損する、ということがわかるのです。

2013年と2012年のボラティリティを先ほど書きましたが、いずれも10%は余裕で超えています。つまりTOPIXや日経平均株価などの株式指数のボラティリティというのは年率で10%を超えるほどに大きいのです。

ボラティリティは一つではなく期間によってさまざま

ボラティリティというのは標準偏差なので、計算する期間によって変わります。つまりボラティリティとは、同じTOPIXであっても複数のボラティリティが存在します。

そのため、このETFのようにリスクコントロール、つまりリスクとはボラティリティのことですから、ボラティリティをコントロールしているETFではいったい何をコントロールしているのか、を目論見書でしっかりチェックする必要があります。このことが、この下で行う本ETFの欠点に結びついてきますので重要です。

ボラティリティというのは年率以下の3つで決定できます。

1.計測する期間(このETFでは過去100日間)

2.年率なのかどうか(このETFでは年率、つまり1年あたり何%TOPIXが動くか)

3.計算方法=数式(このETFでは高校の教科書にも載っているのと異なる実現ボラティリティの計算式)

具体的な数式は以下のようになります。Tex(テフ)を使って数式を表示しているので、うまく表示されない方はJavascriptをONにしてください。

$$ボラティリティ=\sqrt{\frac{252\times \sum (\ln その日のTOPIX価格-\ln 前日のTOPIX価格)^2}{100-1}}$$

この252というのは1年間の営業日数です。日本は祝日が多すぎるので、252営業日に全然ならないのですが、この252日というのはCMEという取引所のボラティリティ指数でも採用されているほど国際標準の1年間の日数です。

自然対数を取っているのは前日からみた当日のリターンを計算するためです。TOPIXは幾何分布で動いているのに加えて、上下対称のリターンにするために自然対数(ln)を用います。このようにして計算したボラティリティを実現ボラティリティといいます。

この計算式では分散を計算したあとに平方根をとっています。つまりボラティリティとは標準偏差なのです。分母の100-1の-1が気になる人もいると思います。これは統計学でよく出てくる、自由度が減ったことによる確度の低下によって起こるものです。このように-1した分散を不偏分散といいますが、これについて理解したい方は小島寛之さんの「統計学入門」の172ページ「補足」を読んでみてください。直感的にわかりやすい解説が載っています。

最小分散ETFと何が違うのか

さきほど、TOPIX2014年の年率ボラティリティは16%と書きました。そしてこのETFはTOPIXのボラティリティを10%となるように調整して持つわけです。これはつまりリスクを小さくしているわけですが、その方法は簡単で、単にTOPIXへの投資比率を減らしているだけです。

つまりこのようなボラティリティを強制的に10%に引き下げるETFは、遊びの資金が発生します。

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図の右の、「現金部分」が安全資産であり遊びの資金を表します。つまり、投資に使わないお金として退避させておくことで、TOPIXが乱高下しているときはTOPIXの投資比率を下げるということを行うわけです。

マネーマケットマザーファンドという言葉がでてきますが、このマネーマケットとは無リスク金利で運用するアカウント(口座)と思ってください。

マネーマケットアカウントとは、無リスク金利で運用される、つまり国債などで運用されるファンドです。個人投資家では普通預金やMRFをイメージするといいでしょう。マネーマケットファンドでは元本は確保されますが、ご想像の通り現在の金利は極めて低いのでほぼ利益の出ない、単なるお金の置き場所として使われるところです。

では最小分散ETFとは何が異なるのか。それは、このリスクコントロールETFではTOPIXを構成している各株式銘柄への投資比率は一定だということです。

つまり、ボラティリティが上昇しているので安全退避のために、TOPIX60%現金40%にしているとします。ですがTOPIX60%の中の内訳をみてみると、その中の銘柄比率はTOPIXそのものなのです。TOPIXで一番投資比率が高い銘柄はトヨタ自動車ですが、TOPIX60%の中の内訳でも、それは変わりません。そのため、このETFではTOPIX内部の銘柄の比率をいじることはしません。

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この表を見るとわかります。構成比32.15%とトップの短期金融資産こそ、いつでも換金できる安全資産、つまり遊び資金です。そして2位以下のトヨタ自動車が、TOPIXの構成銘柄です。つまりこの表の状態では、32%近くを現金として持って、残り68近くをTOPIX投資に使っているわけです。

ですが最小分散ETFはTOPIXの投資比率と全く異なります。TOPIXで投資比率トップは時価総額トップのトヨタ自動車ですが、最小分散ETFではトヨタ自動車が買い付け額トップとは限りません。分散が最小となるような比率で組まれるのが最小分散ETFなので、東海旅客鉄道(JR東海)などの上がりも下がりもしないようなインフラの比率が高くなり、最近ガンホーが東証一部に入りましたが、ガンホーのような乱高下するような銘柄の比率は小さくなる傾向にあります。

そして最小分散ETFでは、安全資産としての現金のように遊び資金は作りません。ほぼ全額をしっかり銘柄買い付けに使います。各銘柄への投資比率を変化させることによって、分散=リスク=ボラティリティを小さくするのが最小分散ETFなのです。

TOPIXと比較

このETFはTOPIXの年率16%を超えるボラティリティよりも抑えて10%にしているため、当然TOPIXよりも値動きは小さくなります。

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この図で分かる通り、赤い線がTOPIXのものより控えめに推移していることがわかります。

リターンをTOPIXと比較してみます。

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このリターンにはいろいろ突っ込みどころがあるでしょう。まず「過去1年」と「過去3年」を見てみましょう。左側のリスクコントロール10%の本ETFの方が、右側のTOPIXよりもリターンが小さいです。でもこれは理由はわかります。ボラティリティを抑えているから、儲かる量も減って当然です。

次が重要です。「過去3か月」と「過去6か月」を見てみます。すると、過去3か月では、本ETFもTOPIXもマイナスですが、なぜかリスクコントロールしているはずの本ETFの方がマイナスの度合いが大きいです。ボラティリティが低いということは儲かる量も損する量も減るはずですが、損する量は大きくなっています。

ボラティリティ反映の遅延がこのETFの欠点

ここが重要です。この過去3か月という期間には、上がる期間も下がる期間も両方含まれているのです。そして、リスクコントロールでボラティリティを抑えているがために、儲かる期間で利益を十分に蓄積できず、下がる期間の損失を取り戻すだけの利益を稼ぎきれていなかったのが要因です。

なぜそのようなことが起こるかというと、ボラティリティの算出に100日間を使っているからです。100日間というのは1ヶ月を21営業日とすると約5ヶ月にも相当します。2015年の8月には上海総合株価の暴落、バブル崩壊によって大きくTOPIXも下げました。その下げた時点では、このリスクコントロールETFの遊び資金は少ない状態だったのです。つまり資金をしっかりとTOPIXにつぎこんでいたということです。なぜなら、8月の初旬から過去に遡って100日間は相場が安定していてボラティリティが低かったために、資金を安全なマネーマケットファンドに退避させておく必要がないと判断されており、資金をTOPIXにフルスロットルで突っ込んでいたということです。

ですが8月中にTOPIXが暴落しました。そうすると、過去100日間の計算期間の中に暴落期間のデータが含まれることになるので、ボラティリティが高くなっていると検知されます。するとボラティリティを10%に押えるという作用が働き、安全なマネーマケットファンドに資金を移動させて遊び資金を増やし、TOPIX投資の比率を下げることが行われます。そうすると、その暴落後に少し株価が持ち直しても、TOPIXの投資比率が低く、遊び資金が多いわけですから、株価の値上がり益を享受できないのです。

このように、過去100日間という昔のデータに引きずられるために、急に暴落がおきたときに瞬時にTOPIXの比率を下げることができず、安全資金の割合を増やすといった調整が遅れるのです。実際、このETFは3日前のデータから遡って100日間の価格でボラティリティを計算しているので、株価暴落の反映が遅れるわけですね。

そうすると、暴落するときはTOPIX投資比率が高く、少し遅れてから、ボラティリティを下げる=TOPIX投資比率を下げることを行うために、暴落した後の回復期にはTOPIXの投資比率が既に低くなっており、株価がその後上昇してもその値上がりの恩恵が受けられないということが起きます。

なのでこのETFは、急に暴落して、その後回復基調という相場には不向きと言えます。

この欠点を克服する方法はあります。次回、このETFと姉妹の5%版を紹介するので、そのときに取り上げます。

ですが、このリスクコントロールETFは、日本株アルファ・カルテットのような投資家の金融知識の乏しさにつけこむような複雑な仕組みは用いていません。下心のない良心的なETFです。単に、リスクを押える=ボラティリティを抑えているために、リターンが減ってしまっているだけなので、悪意のあるETFではありません。よってCランクにしておきます。