共和分を利用した統計的アービトラージという戦略

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統計的アービトラージはヘッジファンド戦略の一種

統計的アービトラージとはヘッジファンド戦略の一種です。統計的裁定ともいいます。英語だと”Statistical Arbitrage”です。

ヘッジファンドはヘッジファンド商品とヘッジファンド戦略に分けられます。別にヘッジファンドは企業の業態を指している言葉ではないのです。金融商品をヘッジファンドと呼ぶときは前者で、企業を指してヘッジファンドと呼ぶときは、後者の戦略で運用を行っている金融機関であるという程度の言葉です。

ヘッジファンド商品は個人投資家が扱うのは難しいので、個人投資家がヘッジファンドに触れる場合は、株やFXなどの個人投資家でも取引しやすい金融商品に対してヘッジファンド戦略を適用することになります。

またヘッジファンド戦略を使った投資信託(ファンド)を購入するのもヘッジファンド投資と言えます。

何でも「統計」という二文字で箔を付ける現状

統計学に関する書籍がトップセラーになるなど現在統計学はブームと言えます。ですがそんなブームに関係なく、統計学を専門に大学で研究している人は常に一定数居ます。全く世の流行りは気にしてない人達が統計学を発展させていると言えます。

その一方で、明らかに統計学に関する知見が無いと見受けられるのに、統計という単語を使うだけで商品に箔をつけて売り込んでいる事例が多数散見されます。「統計」の文字さえ使えばすごいものに見える、実際そのような商品に騙されている人が多く居ます。

何をもって「統計学」を使った戦略と言えるのか

平均値を計算するのも「統計学」を使った戦略と言えます。勿論分散やボラティリティなどの標準偏差などもそうです。平均を求めることは数学と無縁な人も普通に行っていると思いますが、平均を求めることが統計学の範疇ということは、統計学を使わない金融分析はほとんど存在しないことになります。

移動平均というものは一定期間の価格の平均値ですし、ボリンジャーバンドというものは一定期間の標準偏差を計算しています。

では平均や分散を計算していればそれは「統計」的な投資戦略なのでしょうか。

それは明確に間違っていて、統計学は「推定」と「検定」を両輪として使っているということが必須です。

統計学は推定論と検定論に分かれます。推定を行っただけではだめで、その推定結果が有意であるかどうかを検定する必要があるのです。

移動平均を求めるのは推定です。ですが、その移動平均というモデルが株や為替の価格系列をうまく説明していると、どのように客観的に証明できるのでしょうか。

ボリンジャーバンドを算出するのは誰でもできます。ですがボリンジャーバンドというモデルを当てはめることが妥当なのかどうか。それをどのようにして客観的に示しますか、という問題です。

その問題に答えを与える方法論が検定論です。推定をしたら必ず検定をし、そのモデルの妥当性を検証することが必須です。推定と検定が揃ってこそ「統計学」を用いた金融分析と言えます。

当サイトに掲載しているシグナルは、検定を通過したペアのみを掲載しています。

「聖杯」という言葉を使ったり探し求めている人ほど「統計」を崇拝する

未だに「聖杯」という言葉を使っている人がいます。「聖杯」という言葉を批判するために使うなら良いのですが、「この手法は聖杯なのか?」のような使い方をしている人が居るのを見ると哀れとしか言いようがありません。

一部新聞で、高頻度売買(HFT)という取引手法が取引所システムに大きな負荷をかける一方、「打ち出の小槌」であると報道されたのもあって、高頻度売買は聖杯じゃないのかと言う人も居ますが、高頻度売買にもリスクがあるのです。それは高頻度売買によるシステム障害のリスク、仕様変更によって時間間隔(クロック)が変更されて通用しなくなるリスク、いくらでもあります。

さらに東証と大証が日本取引所として統合される以前、東証と大証双方に上場している銘柄間のアービトラージが普通に行われていましたが、これにも執行リスクというのがあります。片方の市場では約定したものの、もう片方で約定しなかった、というリスクがあるわけです。

当たり前のことであり、どこでも言われていることですが、その事実を受け入れて居ない人が多すぎます。

そのような人達が「聖杯」を求めて「これは聖杯かもしれない」と言い出すのが、アービトラージというものだったり、統計的アービトラージを始めとした「統計」を用いた方法だったりするわけです。

統計学というのは1%の誤りや5%の誤りを許容する代わりに、予測を可能にするというものです。最初から100%の予測なんてものは統計学は目指してなく、間違いが起こることを認めてる学問なのです。実際に統計的アービトラージにもリスクはあり、過度にレバレッジを上げ続けたLTCMというファンドが90年代に破綻しています。

数学が理解できないことを他人の所為にする人達

Amazonのレビューを見ていると、非常に有用な金融分析の本であるのにもかかわらず低評価が付いていることが本当によくあります。

それらのレビュー内容を見ると「数式だらけで理解できなかったから星一つです」のようなものだったりします。

これは非常に愚かな責任転嫁と言わざるを得ません。

それは英語で書かれた洋書を買って、英語が理解できないと文句を言っているのと同じです。

金融分析というのはそもそもが数学の分野です。その基礎中の基礎ができていないのにペアトレードなどの金融分析をやろうとするのは無謀な話です。

そのような有用な本が公の場で低く評価されてることによって、多くの人の手に渡る機会が減少します。

ごく一部の数学が理解できない者が、本来価値のある書籍を無価値であるとレッテル貼りをすることにより、個人投資家のレベルを下げることに繋がっています。

 2つの銘柄に絞ったのがペアトレード

統計学アービトラージというのは、複数の銘柄を組み合わせて1つのポジションを作ります。

分析した結果、それが2つの銘柄で構成されていることもあれば、5つの銘柄で構成されていることもあるわけです。

この中で、2つの銘柄で構成できるもののみを扱うのをペアトレードと言います。

わざわざ2つの銘柄に絞ることには理由があります。

2つの銘柄のみならば利益や損失が出た時の要因分解が容易です。統計的アービトラージというのは期待収益というのが事前にわかります。

その期待収益を大きく上回る利益になったり、または損失となった場合には、なにか原因があると考えるのが妥当です。例えば片方の銘柄についてイベントが発生していれば、そのイベントの発生によって統計的アノマリーが崩れたと言えます。有意水準1%で検定していたならば、その1%に該当する事態が起こったということです。

3つだとこれが複雑になります。2つの銘柄だけではなく3つの相互作用の中で要因分解する必要があるので、何が原因で利益となったか損失となったかがわかりづらくなります。

多額の資金を運用するのなら3つ以上で分析するのも合理性があります。

ですが個人投資家ならば2つ程度が限度と言えます。個人投資家は全国に支店をもつ証券会社は勿論のこと、たとえネット証券であっても売買手数料が機関投資家と比較して高いですし、銘柄数を増やせば増やすほどリターンは小さくなるのに手数料が占める割合ばかり増えていくからです。

リターンの大きさよりはリターンの分散の小ささを優先する、つまり年金基金などの多額の資金を年率数%の運用益さえあれば良いという程度であれば、3つ以上の銘柄で1ポジションを作るということをやることは妥当性があります。

CAPMや決定係数、相関係数を使った「サヤ取り」は統計的アービトラージより劣っている

いわゆる「サヤ取り」をやっている人の中には、CAPMや決定係数、相関係数を使っている人が居ます。相関係数や決定係数を求めれば「サヤ取り」ができると思っている人も居るようです。

証券アナリストの勉強をしたことがある人ならCAPMは誰でも知っていますが、CAPMでの市場ポートフォリオというのは、そもそも、CAPMモデルが妥当かどうかという話があるわけです。それが先に述べた検定論の話であり、CAPMには検定論がありません。

また、相関係数を使って金融の統計分析をするというのは80年代以前の古いやり方です。

決定係数はモデルの当てはまりのよさを表す統計量とされていますが、決定係数は相関係数の二乗なので、本質的に同じ統計量です。William Sealy Gossetが1908年にスチューデントのt検定を発表してから1970年代までは、相関係数の二乗である決定係数がそれなりに大きければモデルは妥当、のような実証分析で済んでいました。そして80年代により高度な分析手法が確立され、90年代以降は金融機関の運用部門ではもはや誰でも知っている古典的手法のように統計的アービトラージを採用しているわけです。とはいっても全ての金融機関がそういった専門家を揃えることができているわけではないので、自前で運用せずに他の運用会社のヘッジファンドを買うだけ、というパターンもあります。ですが、それらの情報に触れることができない個人投資家のレベルは未だ70年代以前という相当昔のレベルのままと言えます。数学をある程度勉強し、金融機関で読まれている専門書を読み、積極的に金融分析の知識を身に付けることが、巷にあふれる投資手法や投資本やトレードシステムなどに翻弄されないために必要です。

NT倍率では不完全な理由

NT倍率というものを使ってトレードしている人がいます。NT倍率とは日経平均株価をTOPIXで割った数であり、TOPIXが登場した69年から70年代にはすでに業界では使われていたようです。

まずは金融業界で使われてきたものが、後々個人投資家に浸透した指数と言えます。

このNT倍率は、それなりに高度なことをしている金融機関の担当者なら全く参考にしていません。単に投資家向けレポートに参考程度として掲載しているのみです。NT倍率が見たいという要望が未だに何故かあるようです。

同様に「似たような動き」をする資産同士で割り算をすることは、個人投資家の間では良く行われているようです。

AUDをNZDで割ったり、金を銀で割ったり、その倍率の動きで売買を判断しようとしているようです。

ですがこの倍率で取引することは欠点だらけであると言えます。

まず価格そのもので割り算していることです。価格は絶対水準によって変動幅が異なるので、対数価格で見なければなりません。

さらに倍率を見るということは定数項なしの回帰分析をしているのと同じだということです。せめて定数項ありで分析すべきであり、その定数項についての分析でペアの良し悪しもわかるからです。NT倍率を実際使っている人は、大きく値が一方向に進んでしまい戻ってこないというのを体験したことがあると思いますが、それは定数項を考慮していないから起こります。

さらにまだまだ問題があります。それは株や為替の系列というのは分散が不均一なので、NT倍率ではトレードの判断基準となる標準偏差がでたらめになります。さらにはそれぞれの倍率の間に相関が存在したりなど、不都合な条件ばかりがそろっています。株価や為替の系列というのは、シンプルにするための前提をことごとく崩すような性質を備えているので、それらに対応するためには後年になって発達してきた(より難しい)理論を使って対処する必要があります。とても70年代に誕生したNT倍率でトレードする時代ではないのです。

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