Core i5 11500のベンチマーク性能比較レビュー 第4世代Ryzen 5 5600Xに対し性能比5%で勝利し、Ryzen 7 5800Xにも勝つ性能 Ryzen 9 5950X,5900Xとは互角

このCore i5 11500は、第11世代Intel Core(Rocket Lake)プロセッサの各モデルを上位と下位の2つに分けた時にちょうど中間線に位置するCPUです。

パソコンを大量調達する法人等で使うCPUとしては、Core i5 11400ではなく最低でもこのCore i5 11500を選びたいところです。なぜならCore i5 11500では情報セキュリティ上有意義なvProとIntel Trusted Execution Technologyが有効化されており、Core i5 11400では無効化されているからです。

Core i5 11500の位置づけとしては6コアプロセッサの中でCore i5 11600K,Core i5 11600に次ぐ3番手のCPUです。Core i5 11600から更にクロックを引き下げて低コストを実現したのがCore i5 11500です。

低コストといっても第4世代Ryzen 9 5950X,5900Xと互角の性能を持ち、Ryzen 7 5800Xには勝ってしまうほどの性能を持つのがCore i5 11500です。同じ6コアCPUの第4世代Ryzen 5 5600X相手にも当然勝利しています。

Intel Core i5 11500の詳細スペックと特徴

メーカー・モデル名Core i5-11500 (第11世代Intel)
コア数6コア12スレッド
基本動作周波数2.7 GHz
最大動作周波数4.6 GHz
全コア同時最大周波数4.2 GHz
発売日2021年3月
セキュアブート対応
vProテクノロジ対応
同時マルチスレッディング有効
定格外オーバークロック非対応
TDP(≒消費電力)65W
L1キャッシュ480KB
L2キャッシュ3MB
L3キャッシュ12MB
最大メモリサイズ128GB
メモリタイプDDR4-3200
メモリチャネル2
メモリ帯域幅50GB毎秒
コードネームRocket Lake-S
コンピュータの形態デスクトップ
ソケットLGA 1200
グラフィクス(iGPU)UHD Graphics 750
iGPU最大画面数3
iGPU最大ビデオメモリ64GB
iGPU基本周波数350MHz
iGPU最大周波数1,300MHz
iGPU EU数32
iGPU単精度コア数256
iGPU単精度性能0.6656TFLOPS
アーキテクチャCypress Cove
プロセスルールIntel14nm
SIMD拡張命令Intel AVX2, SSE
SIMD演算器256bit FMA×2
SIMD倍精度演算性能16 FLOPs/cycle
AI(深層学習)拡張命令AVX-512 VNNI

Core i5 11500のスペック上はCore i5 11600と非常に似ています。単純にCore i5 11600のクロックを引き下げて低コスト化を図ったのがCore i5 11500だからです。

Core i5 11500はCore i5 11600のクロックを単純に引き下げただけのCPU

Core i5 11500はCore i5 11600とクロック以外のスペックは全く同じです。キャッシュサイズも同じであるため、純粋にクロックの違いと価格の違いだけで判断すれば問題ありません。

CPUで使われるチップは、円形の半導体(ウェーハ)から切り取って製造されますが、確率的にランダムでクロックが上がりやすいチップと、クロックが上がりにくいチップのように性能の差異が発生します。その中で、Core i5 11600ほどクロックが上がりにくいものをCore i5 11500として販売しています。クロックが低くなる代わりに価格は安くなります。

Core i5 11500の内蔵グラフィクスの性能もCore i5 11600K,Core i5 11600と同じ

汎用コアの性能に影響するクロックはCore i5 11600と比較して引き下げられていますが、内蔵グラフィクス(iGPU)のクロックは別物であり引き下げられていません。

内蔵グラフィクスのクロックは最大1,300MHzでありこれはCore i5 11600Kとも同じです。内蔵グラフィクスの単精度コアの数も同じなので、内蔵グラフィクスの性能は上位CPUと同等です。

Core i5 11500はvProとIntel Trusted Execution Technologyが有効化されているモデルの中で最も低コストなモデル

Core i5 11500はvProとIntel Trusted Execution Technologyが有効化されています。法人等で有用であり、vProは複数台のPCに対しWindowsUpdateをリモートで一括適用する場合に必要な機能です。vProに対応していないとPCを一台一台操作してWindowsUpdateを適用しなければなりません。従業員数が多い大企業ではとても非効率的な作業になってしまうので、vPro対応のCPUであることは重要です。

ちなみにAMD Ryzenの場合は、一般にはほとんど出回っていない”Ryzen Pro”というモデルを使わないとこのvPro相当の機能に対応していません。IntelではvPro機能が有効化されているCPUが普通に広く売られています。

このvProとIntel Trusted Execution Technologyが有効化されているのはCore i5 11500以上のプロセッサに限られており、Core i5 11400以下のモデルでは無効化されています。そういった意味で、Core i5 11500は第11世代Intel Coreプロセッサの境界線に位置するモデルです。

過去のIntel Coreと比較すると、全8コア同時5.0GHzに達するCore i9 9900KSに対して勝利し、Core i9 10900Kとは互角の性能

Core i5 11500は6コアのCPUですが、Willow Coveマイクロアーキテクチャを元にしたCypress Coveマイクロアーキテクチャを採用したことによって1コアあたりの性能が大幅に向上し、過去のIntel Coreと比較し高い性能を有しています。

第9世代Intel Coreで8コア全てが同時に5.0GHzまでブースト可能なCore i9 9900KSに余裕で勝利する性能です。前世代の第10世代Intel Coreと比較すると、10コアのCore i9 10900Kと互角の性能です。

6コアで低クロックなCore i5 11500が、10コアかつ高クロックなCore i9 10900Kと互角の性能になるまで、Core i5 11500の1コアあたりの性能が大幅に上昇しています。

2021年度に発売される第12世代Alder Lake(Golden Cove)プロセッサでも1コアあたりの性能が第11世代Rocket Lakeよりも+20%程度上昇するため、第12世代Alder Lakeの低クロックCPUが、第11世代Core i9 11900Kと互角の性能になる現象は当然のように発生すると見込まれます。

6コアかつクロックが低いCore i5 11500に対してRyzen 7 5800X, Ryzen 5 5600Xが負けてしまったのはAMD愛好家にとっての「悪夢」

Core i5 11500は決してクロックが高いCPUではありません。それにも関わらず、第4世代Ryzenから見て最も発売日が近い第11世代Intel Coreの6コアであるCore i5 11500に対して、Ryzen 7 5800XとRyzen 5 5600Xが敗北してしまっています。

同じコア数同士ならIntel CoreとAMD Ryzenを比較したらRyzenが負けることはこれまでも常にあったため真新しい事象ではないのですが、Core i5 11500に対して8コアのRyzen 7 5800Xが負けてしまっているのは特筆すべきところです。

しかもCore i5 11500はRyzen 9 5950X,5900Xとも互角の性能を有していてほぼ性能差がありません。これも「Ryzenではコア数が多いものの1コアあたりの性能が低すぎて、トータルではIntel Coreに対しAMD Ryzenが負ける」といった典型的な実例です。

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Core i5 11500と第4世代Ryzen(2020年度発売)の比較

第4世代Ryzenからみて最も発売日の近いIntel Coreプロセッサは本稿で取り扱っている第11世代Intel Core(Rocket Lake)プロセッサです。Core i5 11500は6コアプロセッサなので本来は第4世代Ryzenの6コアモデル、Ryzen 5 5600Xと比較するのが妥当になります。しかしそれだけではつまらないので、16コア,12コア,8コアの第4世代Ryzenプロセッサとも比較していきます。コア数が多い第4世代Ryzenが、6コアのCore i5 11500に負けてしまったら、第4世代Ryzenプロセッサの1コアあたりの性能が酷く劣っていることを意味します。

Core i5 11500 vs. Ryzen 9 5950X

2020年11月に発売された第4世代Ryzenプロセッサの中で最高峰と位置付けられているRyzen 9 5950XとCore i5 11500を比較します。Ryzen 9 5950Xは16コアかつ末尾文字(suffix)が”X”の高クロックモデルです。

Ryzen 9 5950Xは先代のRyzen 9 3950Xとコア数もキャッシュサイズも同じですが、違いはようやく8コアごとにL3キャッシュが共有されるようになったことです。通常L3キャッシュは共有キャッシュであり、全コアで共有されキャッシュコヒーレンシ管理されています。しかし、第3世代Ryzenまでは4コアごとにしかL3キャッシュが共有されておらず、L3キャッシュに乗っているデータでもキャッシュミスになってしまうという、共有キャッシュとしては”あり得ない”機構になっていました。それが第4世代Ryzenになってようやく対策されたことになりますが、あまりにも遅すぎる対策だったと言えます。

またRyzen 9 5950Xの製造プロセスはTSMC7nmのままであり、16コアのRyzen 9 5950Xは12コアのRyzen 9 5900Xと全体的な性能がほぼ同じです。Ryzen 9 5950Xはコア数を増やしすぎたことにより電力枠(単位時間あたりの発熱量枠)の奪い合いになってしまい、1コアあたりの性能が逆に低くなっています。結果的にコア数が少ないRyzen 9 5900Xと同レベルの性能しか出ていません。

比較対象のCore i5 11500は6コアなので、Ryzen 9 5950Xとは2.7倍近いコア数の差があります。しかもCore i5 11500は内蔵グラフィックス搭載している分だけ、汎用コアに割り当てることができるトランジスタ数(チップ面積)が少なくなっています。一方でRyzen 9 5950Xは内蔵グラフィックス非搭載なので、汎用コアにチップ面積の殆どを割いているRyzen 9 5950Xの方が勝って当然と一見想像できます。

しかし実際のベンチマーク結果は、Ryzen 9 5950Xに対し性能差1%でCore i5 11500が勝ってしまいます。6コアかつ低クロックモデルのCore i5 11500に対し、16コアかつ高クロックモデルのRyzen 9 5950Xが敗北した格好です。このようになってしまった理由は、まず第一にAMDのZen3マイクロアーキテクチャがIntel CoreのCypress Cove(Willow Cove)マイクロアーキテクチャよりも劣っていることです。第二の理由として、先述した通り、TSMC7nmプロセスの限界により16コアまで身の丈以上にコア数を増やしたことで電力枠(単位時間あたりの発熱量枠)が足りなくなり、各コアの性能が頭打ちになったためです。さらには第三の理由として、Ryzen 9 5950Xは16コアを2つのチップに分割して実現していることが挙げられます。TSMC7nmは歩留まりが非常に悪いため、コストの観点から仕方なくそのようにチップを分割しています。結果的に8コアごとにL3キャッシュが存在し、16コア分のL3キャッシュが2つに分割されていることになり、片方のチップのL3キャッシュにデータが乗っていても、もう片方のチップ上のコアからのメモリアクセスはL3キャッシュミスになってしまう欠陥を抱えています。キャッシュミスはパイプラインのストールサイクル数を増大させるため、結果的にクロックサイクルあたりの実行命令数を減少させます。このような要因で16コアのRyzen 9 5950Xは、たった6コアのCore i5 11500に負けてしまったことになります。

Core i5 11500 vs. Ryzen 9 5900X

第4世代Ryzenの12コアモデル、Ryzen 9 5900Xと比較します。Ryzen 9 5900Xは第4世代Ryzenの中ではバランスの取れたモデルです。第4世代Ryzenでも採用されたTSMC7nmプロセスは、16コアのRyzen 9 5950Xにおいてコア数を増やしすぎたことで逆に全体の実効性能を悪化させています。一方でRyzen 9 5900Xの12コアではそのようなことがありません。8コアのRyzen 7 5800Xよりも確実にRyzen 9 5900Xの方が高性能です。つまり、実際の性能上はRyzen 9 5900Xの方がRyzen 9 5950Xよりも最高峰だと言えるでしょう。

Ryzen 9 5900XはCore i5 11500の6コアの2倍のコア数を有します。しかもベースクロックはRyzen 9 5900Xの方が高いので、「コア数が2倍になれば性能も2倍になる」という嘘を信じているAMDユーザの持論が正だと仮定すれば、Core i5 11500とRyzen 9 5900Xの性能差は2倍(100%)差になるはずです。

しかし実際のベンチマークでは2倍の性能差でRyzen 9 5900Xが勝つどころか、むしろ逆にCore i5 11500がRyzen 9 5900Xに勝ってしまう結果です。今回の結果は、「コア数が2倍になれば性能も2倍になる」という命題が偽だと示す反例の一つになります。このようになったのはCCX(Core Complex)ごとでしかL3キャッシュを共有できていないZen3マイクロアーキテクチャの欠陥にあります。

実はRyzen 9 5900Xは1チップで12コアを実現しているのではありません。2つのチップ(Core Complex Die)を接続して12コアを実現しています。1つのCCXは最大8コアですが、Ryzen 9 5900XではCCXあたり2コアを無効化し、CCXあたり6コアとしています。つまりL3キャッシュは6コアごとでしか共有されていません。つまり片方のCCXのL3キャッシュにデータが乗っていても、もう片方のCCXに属するコアからのメモリアクセスはキャッシュミスとなります。一方で、Intel Coreは遥か以前の2017年から既に12コア全体でL3キャッシュを共有しています。Zen3のように6コアごとに分割され12コアを実現していると、キャッシュミスが増大しパイプラインのストールが発生し、その間数百サイクルものレイテンシを待たなければなりません。これがZen3の1コアあたりの性能が低い要因であり、コア数が2倍でも6コアのCore i5 11500に対して勝てなかった要因です。

Core i5 11500 vs. Ryzen 7 5800X

Core i5 11500よりもコア数が多いRyzen 7 5800Xと比較します。Ryzen 7 5800Xは8コアかつ高クロックのモデルです。コア数が多い第4世代Ryzenと比較する分にはRyzen側にとって有利な前提条件なのでAMD愛好家にとっても全く問題ないでしょう。さらに、Ryzen 7 5800XベースクロックはCore i5 11500の+1.1GHzも高いです。コア数が多くてクロックも高いとなるとRyzen 7 5800Xが絶対勝つと予測されます。

でも実際のベンチマーク結果は+2%もCore i5 11500が勝利してしまいます。Ryzen 7 5800Xが敗北する結果です。コア数が多くクロック数が高くても、Zen3のようにマイクロアーキテクチャが劣っていると1コアあたりの性能が低くなり、結果としてコア数が少ないCore i5 11500に負けることになります。

当然ながらいつものAMD RyzenらしくRyzen 7 5800Xは内蔵グラフィックス非搭載です。Ryzen 7 5800XにはIntel vPro相当の機能も搭載されていません。汎用コアの性能も高くて内蔵グラフィックスも搭載しているとなったら、「売上高や純利益や資本で劣る弱い側のAMDを応援してあげたい」という判官びいきでもしない限り、合理的判断をするならばどの側面から評価してもCore i5 11500に軍配が上がります。

Core i5 11500 vs. Ryzen 5 5600X

6コアのCore i5 11500と同じく6コアの第4世代Ryzen 5 5600Xを比較します。Core i5 11500は低クロックモデルですが、Ryzen 5 5600Xは高クロックモデルです。ベースクロックの差は1.0GHzもあります。同じコア数同士の比較ですから、仮に第4世代RyzenのZen3マイクロアーキテクチャと第11世代Intel CoreのCypress Coveマイクロアーキテクチャの優秀さが同じだとしたら、クロックが高いRyzen 5 5600Xが勝つはずです。もしクロックが高いRyzen 5 5600Xが負けてしまったら、「第4世代RyzenのZen3マイクロアーキテクチャと第11世代Intel CoreのCypress Coveマイクロアーキテクチャの優秀さが同じ」という仮定が間違っていたことになります。

結果はRyzen 5 5600Xに対し、+5%もCore i5 11500が勝利している結果です。Ryzen 5 5600Xの方がクロックが高いにも関わらずCore i5 11500の性能が上回っています。先程の仮定での結果と真逆となったため、「Zen3とCypress Coveが同じ程度の性能」という仮定が間違っていたことになります。第11世代Intel Coreの中では低クロックモデルのCore i5 11500に対し、第4世代Ryzenの中では高クロックモデルのRyzen 5 5600Xが負けたということは、第11世代Intel Coreで採用されたCypress Cove(Willow Cove)マイクロアーキテクチャがZen3マイクロアーキテクチャよりも優れていることを意味します。